IT芸人が訊く、なぜ優秀なおっさんエンジニアを次々と採用できるんですか?(前編)

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変化の激しいエンジニアの世界で、どうすれば成長し続けられるのか。飲食店向け予約台帳アプリを手がける「トレタ」の増井雄一郎さんが、そのヒントを解説する連載がリニューアルしました。今回からは、「IT芸人」の異名を持つ増井さんが今、気になる人に直撃。エンジニアとしてのキャリアパスや最新のテクノロジーなどについてインタビューします。

今回登場いただいたのは、プログラマ向け技術情報共有サービス「Qiita」を運営するIncrementsの海野弘成社長。同社には昨年11月、元グーグルの及川卓也さんが入社、その前後にも著名なエンジニアがジョインしています。なぜ、いちベンチャー企業が次々と優秀なエンジニアを獲得できたのかーー海野さんに聞きました。

※後編はこちら
IT芸人が訊く、おっさんエンジニアが“老害”にならないために

平均年齢20代の会社に40代が入社……摩擦はなかった?

増井:海野さん、今日はよろしくお願いします。

海野:こちらこそ、よろしくお願いします。

増井:海野さんには今このタイミングで聞きたいことがあったので、最初の対談相手としてオファーさせてもらったんです。Incrementsって、今でも20代のエンジニアがメインの若い会社ですよね。そこに最近、40オーバーのおっさんを2人も入れたじゃないですか。

海野:おっさんだなんて恐れ多いです(笑)。及川さんも(田中)洋一郎さん(※)も感性が若々しいから、仕事上で年齢のギャップを感じることはほとんどなくて。勉強させてもらうことばかりです。

(編注:ミクシィやLINEを経て、Incrementsに入社した田中洋一郎さん。Google Developers Expertにも認定されている)

増井:そう、今回はそのあたりの話をぜひ詳しく聞きたいなと。2人が入る前の社員の平均年齢はどれくらいでしたか?

海野:平均は27~28歳で、一番上でも30代前半でした。

増井:その中に突然、歳の離れた業界内のビッグネームを立て続けに引き込んだのには驚きました。先に入った及川さんは、どんな経緯で入社が決まったんですか?

海野:知人に会社の今後の相談をしていたら「もしかしたら、及川さんとウマが合うんじゃない」と言われたんです。 及川さんとは、僕が創業して間もない頃に一度お話しことはあったのですが、それ以来ずっと会っていませんでした。そしたら「じゃあ会ってみなよ」とその知人がつないでくれて。

増井:その時点では、まさか会社に入ってもらおうなんて考えてなかった?

海野:もちろんです。「大先輩にアドバイスをもらいにいく」くらいのノリで会いに行きました。そこで、及川さんに僕らの今後のビジョンや課題の話をしたら、とても共感してもらえて。日本のプログラマーの待遇改善や海外就業の支援など、やりたいことが一致していたのが大きかったですね。

Incrementsの海野弘成さん

Incrementsの海野弘成さん

増井:向いている方向が一緒なのは大事ですよね。

海野:それで「Qiita」を使えば将来的にこんなことができるんじゃないかって話で、議論が盛り上がって。その流れで及川さんが「僕が会社に入ったら、いろんなことが実現できると思うよ」と言ってくださったんです。これが大元のきっかけですね。

増井:その後、具体的に入社する方向で話を進める上で、会社のメンバーとはどのように調整をしていったんですか?

海野:入社を正式に決める前に、何度か社員と及川さんがフランクに話をする機会を作っていました。わずかではありますが、僕らも世代差による文化的なギャップがないか、懸念していた部分もあって。

増井:実際、どうでした?

海野:あらためて及川さんのすごさを感じましたね。社内での議論や雑談に、何の違和感もなくスッと入ってもらえましたし、エンジニアとしての世代差もほとんど感じませんでした。同世代のほかのメンバーと同じ温度感で話せてしまうので、たまに年齢差を忘れてしまいそうになるくらいです(笑)

ベテランの加入で、会社の見られ方が変わる

増井:僕は若い職場に自然と馴染める及川さんも尊敬しますし、 海野さんが2人を採用した決断も素晴らしいなと感じています。エンジニアってある程度スキルをつけてくると、同じような職種や世代の人間で集まりがちになる。それってチームの硬直化を生むから、何かちょっとでも対応の難しいトラブルが起こると、簡単に崩れてしまう可能性が高くなるんですよね。海野さんは、社内のエンジニアにバラエティを持たせようとか、意識的に考えられてましたか?

海野:うちの会社は若いメンバーばかりだったので、これから組織を拡大していく上で「採用や人事など含め、社会的な経験値の豊かな人が必要になってくるな」とは感じていました。けれども、そういう目的意識を持って具体的に採用活動をしていたわけではなかったので、及川さんに入ってもらえたのは本当に運が良かったなと思っています。

増井:それから、立て続けに洋一郎さんが入ったのも偶然ですか?

海野:実は、及川さんが入ったことが直接的なきっかけになってるんです。

増井:やっぱり、そこは繋がりがあったんですね。

海野:及川さんが入ったタイミングで、洋一郎さんが「Qiitaがこれから何をしようとしているのか」という話題で、記事を書いてくださったんですよ。それに及川さんが「よかったらディスカッションしましょう」とFacebookでコメントをしたのがきっかけとなって、洋一郎さんと話をする機会を得られて。そこからは、及川さんが入った時と同じような流れで、洋一郎さんの加入も決まりました。

増井:及川さんや洋一郎さんのような影響力のあるベテランが入ったことで、「Incrementsの印象が大分変わった」と言っている人も周りには多いです。これから「Qiita」をどう成長させていくのか、その注目度は確実に上がっていますね。

海野:それはありがたいことだなと感じています。今まで持たれていた「若くて発展途上な会社」という印象を、この流れで少しずつ変えていきたいなと思っています。

知恵袋としてのおっさん、知恵を継承しきった先は?

増井: 及川さんと洋一郎さんは、それぞれどんな立場で仕事をやっているんですか?

海野:及川さんにはQiitaのプロダクトマネージャーになってもらって、洋一郎さんにはQiitaの開発をやっていただいてます。

トレタの増井雄一郎さん

トレタの増井雄一郎さん

増井:2人が入ったことによって、社内でどんな変化がありましたか?

海野:プロダクトの開発・実装・マネジメントについては、今まで試行錯誤しながら、自分たちでやり方を確立してきました。その自己流だった部分に対して、効率的なやり方、新しい考え方をインストールしてもらっています。組織として成長している手応えを感じますね。

増井:大きな組織で働いた経験がある人って、やっぱり知恵袋として貴重ですよね。

海野:トラブル対応のプロセスの構築や、ミーティングのファシリテーションなど、経験値がものをいう領域では、本当に頼りになります。

増井:ただ、僕は及川さんたちと同じおっさんの立場から、ひとつ怖いなと思っていることがあって(笑)。僕はコードを書くのが好きだし、これからもガンガン書いていきたいと思っています。けれども、40歳を越えて「あと10年同じようにコード書ける?」と聞かれたら、多分首を縦には振れない。

海野:体力的な問題もありますもんね。

増井:そうなると「次の世代へ知識を継承するために若い会社に入る」というのは、とても現実的な選択になってくる。ただ、その継承がある程度済んで、単純な知識の倉庫としての役割を終えた後に、おっさん達には何ができるんだろう……って考えちゃうんですよ。これは、僕個人としてのこれからの課題でもあるんですけど。海野さん、どう思います?

海野:うーん、そうですね……。知識といっても、なかなか言語化して継承できないものもあると思うんですよ。たとえば、及川さんのファシリテーションのノウハウなんかは、1年や2年じゃ真似できないよなと感じていて。そういった部分は、長期的にお互いが学び合える要素なのかなと。

増井:なるほど。

海野:僕はIncrementsという会社についての知識は、誰よりも持っています。その知識を背景に「こういうことをしたい」「この部分を変えていきたい」と意見をぶつけていく相手として捉えると、2人が「役目を終える」という感覚はないです。会社はどんどん変わっていくし、それに伴って僕も、及川さんと洋一郎さんも、絶対に変わっていくはずだから。

増井:その意味で言うと「時代の変化について行く」ことは、おっさんの生き残りの必須条件ですね。ちょっと、おっさん側の意見も聞きたくなってきたな……いま、2人って会社にいましたっけ?

海野:洋一郎さんはいらしてますよ。

増井:あの、ちょっと誘ってきてもいいですか?(笑)

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……ということで、前編はここまで。
後編では「ベテランと若い会社の上手な付き合い方」について、増井さんが海野さん、田中洋一郎さんと語り合った様子をお送りします。

(構成:西山武志)