マッチョ×かき氷で取材殺到 「マチョ氷」仕掛け人に聞く、イベント集客のコツ

2016年7月某日、渋谷マルイの1階の入口近くに、ひときわ異彩を放つ一角があった。上半身裸のマッチョ数人が、筋肉を見せつけるように手動のかき氷器を回すカフェ『マチョ氷』だ。女性向けのファッション小物を扱う店舗に囲まれながら、マッチョたちは通りかかる人々に「マッチョいかがっすか?」と元気に声をかけていた。

マチョ氷を出店した株式会社ハイ代表の鈴木秀尚さんは、7/19〜25の営業期間中、「連日400〜500人の来客があった」と言う。同社は他にも『マッチョバスツアー』『マッチョカフェ』などの“マッチョ”コンテンツを展開し、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)や『とくダネ!』(フジテレビ系)、各週刊誌など、マスメディアにも多数取り上げられている。

渋谷マルイのマチョ氷店舗でマッチョに囲まれる鈴木さん

渋谷マルイのマチョ氷店舗でマッチョに囲まれる鈴木さん

同社がこれまでに手がけた『バブルサッカー』『ローション大運動会』などはネットで話題になり、マスメディアで紹介されたことでリアルでの集客につながり、さらなる話題になっていくという、理想的なサイクルを生み出してきた。どうすれば、このような好循環を生み出すことができるのか。代表の鈴木さんに、これまでの活動を振り返ってもらおう。

今のネット発のプロモーションは「ネタすぎる」

バブルと呼ばれるクッションを装備してプレーする『バブルサッカー』。ノルウェー発のスポーツで、日本輸入時は地上波すべてに取り上げられた。

バブルと呼ばれるクッションを装備してプレーする『バブルサッカー』。ノルウェー発のスポーツで、日本輸入時は地上波すべてに取り上げられた。

――『マチョ氷』を実際に拝見しましたが、思わず吹き出してしまいました。“マッチョがかき氷を作る”という企画は、どのように生まれたのでしょうか。

マチョ氷は、最初は『レモン絞り屋』と迷ったんですよ。

――レモン絞り屋、とは……?

メニューに唐揚げとチーズケーキ、スカッシュ、ティーがあって、運んできたマッチョが最後の仕上げにレモンを握りつぶす、という。

――(笑)。

テーマは“あなたのササクレを守ります”。

――たしかに、滲みませんね。結局どうして、マチョ氷に?

夏だからですね。

――ああ、なるほど(笑)。マッチョをテーマにしていることに、理由はありますか?

“マッチョ”って語感が面白くないですか? だってマッチョですよ?

――声に出して言いたい言葉です。

あんなにパンパンなのに語感が柔らかいし、「ッ」「ョ」といった小さい文字が4文字中2文字も入っています。そういうものは感覚的におもしろいと思っているんです。“ぷっちょ”とか“らっきょ”とか。

そこから企画をするに当たり、何かを組み合わせようとして、“マッチョバスツアー”を思いつきました。これも語感ですね。「マッチョバスツアー」って言いやすくておもしろいので。

――ちなみに、今回はなぜ“マチョ”氷なのですか? “マッチョ”ではなく。

これはちょっと(語感に)引っかかりを作りたくて。これだけマッチョの企画を世に出しているので、わかってもらえるだろう、と。

――企画はシンプルに考えられているのですね。

むしろ、最近のネットなどの企画は、ちょっとネタっぽすぎると思うんです。

――それは、作り込み過ぎているという意味ですか?

はい。もうちょっと素直でいいのでは、と思います。説明しにくいものは、マスメディアなどで取り上げにくいと思うんですよね。

――御社は他にも、マスメディアにこぞって取り上げられた『バブルサッカー』や、水ではなくボールで満たされたプールパーティー『tamapa』など、海外で人気のイベントをいち早く輸入しています。このようなネタをどうやって発見しているのですか?

テレビや雑誌、マンガや映画、ネットなどで流行しているものはひと通り確認するようにしているんです。『バブルサッカー』はたしか、ネットのおもしろ動画か何かで見かけたように記憶しています。

――「これ、おもしろい」と思っても、実際に輸入するとなると、ハードルが高そうです。

そうでもないです。ネットで調べてみたら海外には窓口があったので。

みんな自分でハードルを上げてしまっているのだと思います。実際、方法は英語か何かで連絡を取るだけじゃないですか。やろうとすればできます。

――「やろうとするかどうか」というのはハッとしました。これもシンプルです。

何より、自分がやりたいことをやっているので、ハードルが高いとはあまり感じないんですよ。

「儲からない」のにイベントに取り組む理由

1トンのローションを使用して開催された『ローション大運動会』の競技中の様子。地方での開催や『ローションフェス』なるクラブイベントも展開された。

1トンのローションを使用して開催された『ローション大運動会』の競技中の様子。地方での開催や『ローションフェス』なるクラブイベントも展開された。

――そもそもハイは何の会社なのですか?

基本的にはリアル・ネットを問わず、さまざまなコンテンツを制作しています。自主企画と受託制作が柱ですね。割合はその時々でまちまちですが。

――受託制作も請けているのですね。

ハイは共同代表の小式澤郁(こしきざわいく)と立ち上げた会社で、受託は主に小式澤が担当しています。大手広告代理店さんと組んで、先日も日本を代表するスポーツ選手が登場するイベントの制作・運営を担当させていただきました。

――共同代表制ということですが、事業領域に分担などはあるのでしょうか。

事業領域というより、お互いの仕事には口を出さず、好きにやっています。例えば小式澤の企画である“美女とすれちがうだけ”の毎日更新の短編動画『すれちがい美女』はネットで話題になり、現在はソフトバンクの公式アプリ『スマトピ』でも配信されています。動画配信だけでなく、こちらは登場する美女をタレントとしてキャスティングできるようになっています。

僕は僕で、マッチョ企画に登場するマッチョたちを『マッチョ29』というグループとしてプロデュースして、プロダクション業をしています。外国人タレントや子ども、ペット専門のプロダクションはあるのに、マッチョにはなかったんですよ。だから、これは狙い目だと思って。本当に各自やりたいことをやる感じですね

――どういうきっかけで、会社をスタートしたのですか?

約4年前、中学高校の同級生だった小式澤と2人で始めました。21歳のときに、僕は芸能プロダクションで、小式澤は広告代理店で勤務していて、じゃあ2人でやってみようと起業しました。今は6人ですね。

――企画はよく話題になりますが、率直にお聞きして、儲かっていますか? リアルのイベントはコストがかかり、利益は上がらないイメージがあります。

会社としては、順調だと言えるのではないでしょうか。自主コンテンツだけで言うと、それはそんなに儲かっていないですね。やっぱり、資本金が潤沢にあるような会社じゃないと、イベントだけで大きな利益というのは上がらないです。『ローション大運動会』なんて1トンのローションを使っていますからね(笑)。自主コンテンツが話題になって、受託の仕事ももらって……という感じです。

――あえて自主コンテンツに取り組んでいるのは、どうしてなのでしょうか。

これは僕と小式澤の共通の意見ですが、やっぱり自主コンテンツをやっていきたいよね、と。受託の仕事というのはある意味で、ウチじゃなくてもいいと思っているんです。ウチじゃなくてもいいものは、そのうちどこかに取って代わられてしまうかもしれない。それをアテにしてしまったらダメじゃないですか。

だから、僕たちは受託より自主コンテンツを信頼しているんです。おもしろいことをしている限りは、お客さんがついてくれるから。つまんないことをしたら離れてしまうので、シビアではありますが。

「これからはイベントの時代」ではなく「ずっとイベントの時代」

現在、共同代表の小式澤さんの事業として展開している『tamapa』。使用するボールの数は、なんと5万個。

現在、共同代表の小式澤さんの事業として展開している『tamapa』。使用するボールの数は、なんと5万個。

――ネットのメディアやサービスなどでも、一定のファンがついてきたらイベントでマネタイズをする、という手法が注目されています。「これからはイベントの時代」というような流れについてはどう思われますか?

イベントの時代が来るとかではなく、ずっとイベントの時代なんですよ。もうすぐですけど、オリンピックを考えてみてください。

――たしかに、そうですね(笑)。

有史以来、イベントがなくなったことはありません。ただ、ネットが普及した時代だからこそ、その価値が見直されるというのはあると思いますけどね。今って夢がないじゃないですか。

――どういうことでしょうか。

何でも調べられちゃうから、わかった気になっちゃうんです。「マチュピチュってどんなところなんだろう」と思っても、Googleストリートビューで歩いた気になれてしまう。もちろん技術の発展はいいことなんですけど、ブラックボックスがなくなっているんですよね。一方、イベントはやりたい放題です(笑)。実際に来るまで何が起こるかわからないですし、基本的に証拠が残らないから。

あと、イベントは本当に興味がある人しか来ません。一方、ネットでは「見たくない人は来ないでください」とも言えませんよね。批判的な人がわざわざ見に来て、荒らされるということもある。それを防止できるのが、リアルイベントの価値としてありますね。

――ネットの利点はコストが抑えられる点ですが、それを差し引いてもリアルのイベントを開催する価値がある、と。

そうですね。それに、僕はネットって、これからしんどくなるんじゃないかと思っているんです。コストの低さで言えば、日本の会社じゃなくてもいいから。逆に、技術力で言えば海外の方が進んでいますよね。

――「コストが低いから参入障壁が低い」というのは、誰でもチャレンジできるということですもんね。

はい。その分、ネットもリアルも同じですが、企画の勝負になるのだと思います。それはそれでしんどいですけどね(笑)。

――そもそも鈴木さんはなぜ、この仕事を選んだんですか?

イベントという、実際に人を動かす行為の最終目標は、やっぱり文化にすることなんじゃないか、と思ったからですね。おもしろいことを伝えて、広めて、最後は根づかせるということをしたい。実験のようにいろいろな企画をしていますが、マッチョ企画ではまさに文化を作ろうとしています。

参加者=口説きたい女の子!? イベント成功のコツ

こちらが『マッチョ29』の集合写真。ファンクラブの名前は『プロテ員』。

こちらが『マッチョ29』の集合写真。ファンクラブの名前は“プロテ員”。

――リアルイベントを成功させるコツはありますか?

“おもしろさ”はリアルと映像、ネットで全部違うと思うんです。だから絶対的なテクニックみたいなものはないんですけど、イベントはやっぱり来た人をクスッとでも笑わせることだと思うんですよね。“裸のマッチョを集める”こと自体はシンプルだし、そんなにコストもかかりません。でも、それが渋谷のマルイにいるというギャップがおもしろいじゃないですか。

他にも、検討しているのは、マッチョイベントの入場チケットをサラダチキンにするとか。これも数百円のコストですが、これで人間はクスッとなる。女の子を口説くのと一緒ですよ。クスッとさせたらそこから突破していけばいい。

――リアルのコミュニケーションなので、近しい部分があるかもしれませんね。でも、例えば渋谷マルイで出店するというのは、社会的信用がないと本来は難しいのではないかと思います。どうやって実現したのでしょうか?

それはもう、ひと言で言えば「頑張った」だけですね。これまで、マッチョバスツアーやマッチョカフェは地上波で全局に取材されました。そういう実績を説明して、一回試しに出店させてもらえませんか、と。渋谷マルイへの出店は今年で2年目になりますが、昨年はフロアで一番の売り上げを記録したことで、今年も出店させていただくことができるようになりました。

マッチョ企画はそもそも『お姫様抱っこ協会』としてスタートしたんです。“マッチョが女性をお姫様抱っこする”という企画で、それがヒットしたので、バスツアー、カフェと展開していきました。このように、実績をしっかり積み重ねれば、社会的信用というのも少しずつ形成されていくのではないでしょうか。

――企画からは想像がつかないほど、真面目な取り組み方なのですね。

いや、女の子を口説くときも、「とりあえず一回デートしよう」と言って連れ出して、ちょっとずつ関係性を築くわけじゃないですか。

――なるほど、女性を口説く例えはハマりますね(笑)。では最後に、やはりリアルであることで、「わざわざ行く」というのは大変なことだとも思います。参加者が来やすくなるような工夫はしていますか?

渋谷マルイの1階にしたというのは、まさにその工夫です。僕はイベントに来てもらう上で一番大事なのは、言い訳を用意してあげることだと思っているんです。

――では、女性を口説く例えでお願いします。

いいですよ(笑)。「終電がなくなったから」とか「彼氏と別れそうだから」とか、人が何かしらの行動に踏み切るには、言い訳が必要なんですよ。だから、その言い訳をこちら側で用意してあげるんです。「渋谷マルイだからちょっと立ち寄ってみようか」というように。そうやって行動することへの抵抗感を解消してあげる。それがあるかないかで結果はかなり変わってくると思います。

あとは当たり前ですけど、一生懸命頭を使って、体を動かして、イベントをおもしろくすることですよね。だって、おもしろいとモテるじゃないですか。人を集めるというのは、いかに“常にモテまくっている状態”を作るかってことですから。

(朽木誠一郎/ノオト)