個人のメディア化。広告、そしてPR媒体としてのインスタグラマー、その真価とは?

ツイッター、フェイスブック、インスタグラム……。巷には様々なSNSが溢れている。

昨年頃からフェイスブックの勢いにもかげりが見えはじめ、現在は若者を中心にインスタグラムが盛り上がりをみせている。多くのフォロワー数を抱える人たちを「インスタグラマー」と呼び、いまや普通のタレントやモデル以上の影響力を持つカリスマ的な存在として雑誌やテレビにも引っぱりだこ。

ブログやSNSを中心にした「個人のメディア化」が叫ばれて久しい昨今、いま企業のPRや広告出稿先としてインスタグラマーたちが注目を集めている。

そこで今回、実際にインスタグラマーたちと協力してPR事業をおこなっているハッシュタグトーキョーの大崎安芸路さんに、現在のSNSやインスタ事情、その可能性など詳しい話をうかがった。

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インスタグラマーの情報発信力とセルフブランディング力に着目

——なぜ、タレントでもモデルでもない「素人」のインスタグラマーたちに注目が集まっているのでしょうか?

「インスタグラマー」という呼び方を便宜上していますが、そもそも職業とは考えていません。もちろんモデルやタレントを目指す人も多いですが、多くのインスタグラマーが本業をもっています。うちの所属の子たちの中には、ファッションデザイナーやイラストレーター、フードコーディネーター、フォトグラファー。なかには主婦の方もいます。インスタグラマーと呼ばれる人たちは、それぞれのステージや分野において、自分自身を発信していく能力、ブランディングに長けている。そこに可能性を感じています。

雑誌そのものは、出版不況による部数の減少で日に日にタッチポイントが減ってきていることは否めません。現在、私が編集長を務める『Soup.』を例にすれば、その雑誌固有の世界観を愛してくれる熱心な読者がたくさんいます。さらに、インスタグラマーには、その雑誌の世界観をより多くの人に拡散することができます。いまは紙のチカラだけでは難しくなっているけど、これは彼女たちインスタグラマーだけでもできないこと。『Soup.』や紙媒体のブランド力があってこそ成り立つ、相乗効果が期待できるとても有効な手法と言えます。彼女たちにとって、雑誌のもつ世界観やクオリティには、投稿したくなる要素がたくさん詰まっているんです。

たとえば、毎月『Soup.』の表紙を飾ってくれているのは、二階堂ふみさん、小松菜奈さん、水原希子さんといった、著名なタレントやモデルさんです。一方で、彼女たちは日本を代表するインスタグラマーでもあります。

そんな彼女たちが、自分のインスタグラムで私たちの雑誌のことを投稿してくれることがあります。それは、とてもラッキーなことであり、お願いしてできることではありません。彼女たちの気分で載せてもらっているのです。しかし、編集者や出版社にとって、発売前に雑誌の記事やコーディネートが世に出ることを嫌う人は少なくありません。彼らは、発売日まで待ってほしいということが多い。なので、「今日の写真って、いつからSNSに載せてもいいですか?」とタレントさんやその事務所の方から聞かれたとき、私は二つ返事で「いますぐでもいいですよ。好きなときにぜひアップしてください」と答えるんです。

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雑誌『Soup.』とインスタグラマーが連携したプロジェクトの一例。文具メーカー「ぺんてる」とのタイアップでは、雑誌の広告ページだけではなく、インスタグラマーが写真を投稿し情報を拡散。さらに店舗に置かれる『Soup.』を模した小冊子を発行し、話題となった成功例

最近では、スマホアプリから無料で観れる「モデルプレスTV」のプロデューサーとして『ナナイロ〜SATURDAY〜』というインスタグラマーによる情報番組も担当しています。彼女たちのインスタで呼びかけて、フォロワーにスマホで番組を観てもらう。そういったすべてスマホで完結する、新しい連携にも可能性を感じますね。

インスタ写真は、加工アプリからミラーレス機へ。

インスタグラマーにとって写真が重要なことは言うまでもありません。ちょっと前まではスマホのカメラアプリが中心でしたが、いま世界中のインスタグラマーたちの間では、それでは満足できなくなっています。ガラケーでブログが全盛だった時代は、加工して盛りまくることにみんなが必死で、プリクラのようなチープな写真が主流でした。

いまはスマホの性能があがってディスプレイの解像度も高くなっているので、元の写真自体の美しさが問われてきています。ワールドワイドなインスタグラムが、昔の盛り写メのようなカルチャーを受け入れられなかったことも原因かもしれません。最近では、nonfilter(ノンフィルター)なんていう#(ハッシュタグ)をつけて、無加工な写真の美しさで競い合うインスタグラマーも増えてきています。

こうなると、スマホのカメラや加工アプリだけでは満足できなくなる。かといって一眼レフを毎日持ち歩くのは重くて大変。なにがいいのか考えたとき、レンズの良いコンデジだったり、軽くて高性能なミラーレス機が選択肢に入ってきます。

いま進めているタイアップのプロジェクトは、まさに本格カメラメーカーとのコラボレーション。最新のミラーレス機を、写真にこだわるインスタグラマーたちが使ったらどうなるのか。レンズの力によって表現の幅が格段に広がるので、今後の展開が非常に楽しみですね。特に、食べ物の写真や暗いところでの撮影で、スマホの内蔵カメラとの差が大きく出てくると思います。

「ウソをつかせない」がポリシー

——ブログ全盛の頃はタレントやモデルのいわゆる「ステマ記事」も取り沙汰されました。

インスタグラマーと協力してPRをおこなう上で大事にしているのがウソをつかせないこと。ブログの時代はステマ記事が多く、よく問題になりましたが、いまはだれでも簡単に見抜けてしまう。読者やフォロワーが本当に知りたいのは「その人がこの商品を本当に良いと思って使っているのか?」だと思うんですよね。それに対しての明確な答えを用意しなければなりません。

自分が本当に自信をもって読者やフォロワーにオススメできるのか。絶対に裏切ってはならない。うちに所属しているインスタグラマーに限らず、成功している人たちはその辺りの考え方が非常にシビアです。

いちばん良いのは、インスタグラマーがクライアント側と一緒になってイチから商品や企画を考えること。そうすれば本人たちもその商品のことをより良いものにしようと一生懸命考えるわけで、必然的に読者やフォロワーに対して誠実になれるんです。

フォロワー数だけ追い求めても意味がない

とはいえ、まだまだ企業やクライアント側にインスタグラムやインスタグラマーについて理解してもらうという部分においては苦戦していることも事実。実際にフォロワー数ばかり求められることも多いのですが、そこだけ追い求めても意味がないと思っています。

たとえば、ちょっと話題のTVに出たりすると急激に何十万というフォロワーがついたりすることがあるのですが、番組が終わった途端に「いいね!」やコメントもつかなくなる。一方で、じつは海外で安くフォロワーが買えちゃったりもする。それよりもどれだけロイヤリティの高いアクティブなフォロワーがいるのかが重要なんです。そういったことをしっかりと私たちは説明する必要があります。

弊社では、エンゲージメントという数字を大事にしています。フォロワー数に対して、どれだけの人たちが、「いいね!」やコメントをしてくれるのかをパーセンテージで表したものです。100K(10万人)のフォロワーがいるインスタグラマーの場合、一投稿につき、5000「いいね!」が付いたとすると、エンゲージメントは5%ということになります。ちなみに5%は優良なインスタグラマーとしての目安の数値です。

私たちは、所属するインスタグラマーを提案する場合、たとえばこの1ヶ月間でどれだけ「いいね!」やコメントがついたのか平均数値を計測し、 エンゲージメントとしてクライアントに提示するようにしています。

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12万以上のフォロワーを誇るインスタグラマーのやすだちひろさん。そのフォロワー数よりも、彼女の10%に迫る驚異的なエンゲージメントに注目が集まっている。彼女の本業はファッションデザイナー

日本と海外のインスタグラム事情

——海外と比較した日本のインスタ事情はいかがでしょう。

日本は世界のなかでも、むしろアジアでも1番遅れているかもしれません。この数年、アジアの視察を定期的におこなっていますが、特に個人的には台湾が熱いですね。向こうのインスタグラマーたちはマーケットにも非常に大きな影響力をもっていて、彼女たちが個人でECサイトを運営したり、紹介した商品が飛ぶように売れたりしています。

じつは、出版不況と言われていても、まだまだ日本では雑誌が強く、ファッション誌の数も世界で最も多い国のひとつです。TVやほかのコンテンツも充実しています。日本に比べると、ほかのアジア諸国では自国のオリジナルのメディアやコンテンツが少ない分、影響力が高くなったのではと思います。

去年ぐらいから日本ではインスタが本格的に盛り上がってきました。いまピークを迎えつつもあるとは思いますが、ビジネスの面で言えばまだまだこれから。今後どれだけ伸びていくのか楽しみです。しかし、すでにアメリカでは別のSNS、スナップチャットの人気も高まっています。いずれにせよ、いつかはインスタに代わるものが出てくることは間違いありません。とはいえ、現状は東京でもニューヨークでも、その影響力を超えるSNSはないと言えるでしょうね。

言語や国境を超えるインスタグラムのチカラ

ハッシュタグトーキョーのWebサイトトップページで使われている写真は、世界的なフォトグラファーの濱田英明さんのもの。彼はもともとWebデザイナーが本業でした。30歳ぐらいまではプロのカメラマンとしてではなく趣味で撮っていたそうです。それをSNSやWebにアップしているうちに、日本ではなく海外・アジアで人気に火が着いた。台湾で写真集を出版したり個展ができるようになり、さらにはアメリカの『KINFOLK』という有名雑誌の編集長から表紙撮影のオファーを受け、いっきに世界で活躍するフォトグラファーとして日本でも広く知られるようになりました。

写真に言語はありません。#(ハッシュタグ)なんて誰でも打てますし、簡単な英単語でもOKなんです。世界のマーケットに向けて発信できることもインスタグラムの魅力のひとつじゃないですかね。

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ハッシュタグトーキョーを立ち上げた時期に、鹿児島にて講演会を開催。これからのトレンドの作り方について、ヘアサロン経営者とヘアスタイリスト160名に対して、インスタグラムの重要性を説いた

ひとりひとりの夢を叶えるためのツール

——最後に改めてSNS・インスタグラムとはなんなのでしょう。

ひとりひとりの夢を叶えるためのツールがインスタグラムです。濱田英明さんもやすだちひろも、まさにSNSで自分が好きなことを極めた結果、自分のステージを高めることができた。これがインスタグラムのチカラだと思います。ハッシュタグトーキョーとしても所属のコたちが、インスタグラムを通して、デザイナーとして、モデルとして、イラストレーターとして、それぞれが夢を叶えること。そのためのお手伝いをしたいと考えている。きれいごとだけではなく、それが私たちハッシュタグトーキョーの役割であり、ビジネスだとも思っています。

3年後にはインスタにみんな興味がなくなっているかもしれない。でもそうなったとき、彼女たちが一緒に消えてしまっては意味がない。それぞれがインスタグラムを使って自分たちのステージを上げることができれば、きちんと新しい時代にもシフトできるハズ。しっかりと先を見据えながらやっていくことが重要だと考えています。