「好き」よりも「勝てる」かどうかーーヒットサービスを生んだ3人の起業家が明かす、負けない戦い方

女性向けキュレーションメディア「MERY」、恋愛・婚活マッチングサービス「pairs」、チケット売買サイト「チケットキャンプ」——。これらのサービスを手がける3人の起業家に共通点がある。

それは、自分自身でサービスを立ち上げ、大手企業に事業売却を果たしたことだ。MERY運営のペロリはDeNAに、pairs運営のエウレカは米IACグループに、チケットキャンプ運営のフンザはミクシィに事業を売却した。

3人の起業家は、ゼロからプロダクトを生み出すにあたって、何を重視していたのか。8月4日にペロリが主催したイベントで、同社の中川綾太郎氏、エウレカの赤坂優氏、フンザの笹森良氏が「今だから大事だといえること」を語った。

志の高いビジョンよりも「勝てる」戦略が大事

エウレカ 赤坂優氏

中川綾太郎氏(以下、中川):今日は、どうやってサービスを作り、伸ばしてきたのかを話していきたいのですが、まずはスライドにある「プロダクトをゼロから作り出すときに一番大事にしたこと」を聞かせてもらえますか。

フンザ 笹森良氏

笹森良氏(以下、笹森):ぼくが以前いた会社はメルカリの前身で、Zynga Japanに売却されたウノウ。その会社がなくなったとき、そこにいたメンバーはみんな30歳超で、家庭のある人間もいました。自分にとっても「起業」のチャンスはこれが最初で最後になるかもしれない……そう考えたときに出た結論は“負けられない戦い”ということでした。

つまり、一番大事にしたのはビジョンでも何でもなく「勝つこと」だったんです。MERYのみんなが「食えるようにする」と言っていたのと同じですね。

負けない戦いをするために、勝てるマーケットを選んで、勝てる戦略を作る。お金を得られるようにして、みんなが生活できるようにする。それを重要視しました。

中川:チケットが好きだったわけではなく?

笹森:好きだから始めたというわけではなく、熟慮した末にチケットというマーケットを選びました。

例えば、「ああ、できるだけお得にクーラーを買いたいなぁ」と思ったらカカクコムを、「美味しいハンバーグを食べたいなぁ」と思えば食べログをチェックする。じゃあ、「チケットは?」となると紐づくサービスがなかった。

つまり、一対一で需要に対する供給のサービス名が出てこない、純粋想起が取れていないんです。

チケットのやり取りって、今でもTwitterに依存しているところが多いんですよ。自分の好きなアーティストのチケットを発売時期に買えなかった場合、Twitterで検索して売りたがっている人にアプローチ。で、売り手としては「ではフォローして下さい。DMでやり取りしましょう」となる。

ところがTwitterには送金などの決済方法がないから、当日ドタキャンなどされてしまい、かなりのユーザーペインが生じることがままあります。

マーケットサイズがでかいのに、対応するサービスがない。それならばたとえ後発であったとしても乗り込めるんじゃないか。そう考えてチケットキャンプをスタートしました。

中川:なるほど。赤坂さんはどうですか。

赤坂氏

赤坂優氏(以下、赤坂):ぼくも、笹森さんと同じですね。元々どうしてもこの領域に思い入れがあってやりたかったというわけではなく、確実に勝ちに行けるマーケットとして選びました。

逆に、中川さんにお聞きしますが、昔から描いてきた夢やビジョンを実現して世界をより良くしたいというような「志の高い起業家」がいたら、どんな言葉をかけますか。

中川:勝ち筋や確度の高い具体的な戦略もない人が、ほかの人や自らを煽って起業するよりは、勝てる戦略が正しく立案できているチームを作ったり、施策を打つほうが1000倍大事だと思っています、と言いますかね。その結果として、良いサービスができあがるんじゃないかと。

商品を集める――まずはそこから

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中川:赤坂さんの、恋愛・婚活マッチングサービス『pairs』も、笹森さんの公演チケットマーケットプレイス『チケットキャンプ』もC2C。売り手と買い手のバランスってどうなっていますか。また、KPIについてもお聞きしたいところです。

赤坂:pairsのゴールは、ユーザー同士がマッチングして実際に出会うこと。それを達成するための重要なKPIがサービス全体のどこにあるのかというと、ユーザー数が最も多い最初のファネルであり、まずはそこにテコ入れするのがサービス作りの前提であると考えています。

一般的なC2Cにおける「出品数」に当たるのが、デーティング領域の「ユーザー数」です。――つまり、女性ユーザーを集めることが最初の戦略、KPIということになります。そうでないと、マッチングも回転もしないのがデーティングビジネス。では、そのターゲットである「女性の見込みユーザー」はどこにいるのか? と考えたときに、大きく2つに分けられます。Googleなどの検索エンジンと、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディア。そのなかから、pairsと最もフィットするFacebookを選択し、それと連携する形でユーザー獲得に取り組みました。

その後、会員登録、最初の「いいね!」、マッチング、メッセージと重視するKPIは変化していきます。

笹森:そうですね、実際、買いたい人というのは自分で検索して来ますし、もしくは少し広告を打てば来てくれる。でも、売り手にニーズを感じてもらうのは難しい。なので、売り手にメリットのある刺さるような施策をしていましたし、今でもしています。

赤坂:結局、サービス内に売り手がいれば、自ずと買い手も集まりますよね。C2Cでは、「商品を集めること=集客」という図式が成り立つので、ローンチ直後は集客や販促活動が施策の大部分を占めるんじゃないかと思います。

ユーザー数もPVも大切じゃない

ペロリ 中川綾太郎氏

中川:サービスが回り始めてからはどうでしょうか。

赤坂:pairsでは、ユーザーがお互いに「いいね!」を押すとマッチング成立となるので、いかに「いいね!」を押してもらえるか、それ以前にpairsにログインしてもらえるかを考えました。例えば、ログインボーナスポイントを贈るようにしたり、ログインしない日が2日続いたらプッシュ通知を送ったりなど。

2日連続でログインしないのとそれが3日連続になるのとでは、復帰転換率が大きく変わってきます。だからと言って、1日ログインが空いただけでプッシュ通知を送ってしまっては、ユーザーにとってみれば催促されているような感覚になり、顧客体験が損なわれてしまう。いかにユーザーに気持ちよく自然な流れでpairsに戻ってきてもらうか、そのバランスの取り方にも気を使いますね。

中川:MERYでもよく「UUは?」とか「PVはどうなっているの?」と聞かれるのですが、ぼくにとって大切なのはそこじゃない。1人のユーザーが訪れたときに、どれくらい記事を読んでくれるか、楽しんでくれるかというところですよね。訪問あたりのPVが高い、ということはどれだけ有益な記事がそこにあって、顧客体験が高いかということを示しているわけですから。記事単位でPVをチェックするのはイケていないなぁと感じます(笑)

ABテストよりも「勝てる施策」につぎ込め

中川:おふたりとも、サービスのプロデューサー、ディレクターとしてものすごい細かい部分まで見ていますよね。

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笹森:ゼロイチの“イチ”を超えたあたりからしなくなりましたけど、ワイヤーフレーム、施策、メールの文言までぼくが作っていました。チケットキャンプのことを一番考えているのは自分だと思っていたし、当時は人に相談する時間ももったいないくらいだったので、自分でやることでコミュニケーションコストを最低化していたんですね。

責任を取れるのは創業者しかいないので、失敗したらぼくの責任。でもうまくいったらチームの成功。創業時はすべて自分で見るのが正しいんだと思っています。

赤坂:デザイン変更も見ています。例えば、pairsのユーザーアイコンを正方形から現在の丸型に変更したのは、主にぼくの感性による判断です。というのも、デーティングサービスは、ガラケー時代の「出会い系サービス」とは全く異なるビシネスですが、世の中から同じカテゴリとみなされてしまうこともある。なので、機能改善の部分だけでなく、デザイン面の細かな調整も通して安心・安全なデーティングの世界観を表現し、「出会い」の文化を根本から変えないといけないと考えて取り組んでいます。

笹森:でもそれってKPIと関係あるんですか。

中川:直結しているかどうか分からないけど、結果的に良くなることってありますよね。MERYでいえば、ベースカラーをピンクから白に変えたとき、直帰率が下がるという現象が起きました。MERYは男二人で作ったサービスだったから、「女性ならピンク」って決めてしまったところがあって。でも、そのせいで「これはわたしの見るところじゃない」って思うユーザーがいたのかもしれない。裏が取れているわけではないけど。白に変えたらKPIが上がった。そういう事例もあります。

笹森:ぼくの場合、言い切れないもの、KPIに直結しない施策は、やらないです。例えば、退会機能も直結しないから、リリース後半年してからつけたくらいですし。

それから、最初の3年間でABテストを一回しかしていない。そういう効果測定をするコストがあるなら、絶対に勝てると確信を持っている施策につぎ込みたいんです。

「勝てる人」は現場感を持って手を動かし続ける

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中川:引き出しの多い笹森さんですが、どれくらい施策を持っていますか。

笹森:いくつ……というのは分かりませんが、とにかく世界や日本を代表するeコマースのサイト、アプリ、サービスのUIを見まくって、そのプロデューサーの意図を汲み取り、自分のサービスにどう活かす? と常にチェックしています。そして、気がついたものはDropboxにどんどん入れています。

赤坂:いろんなWebサービスやアプリを使ってみて、日々のユーザー体験の中からヒントを得ていきますよね。

笹森:そうそう。似た2つのサービスがあって、片方の施策が絶対的に優れているのに、なぜ他方は取り入れないのかなと感じることがありますよね。競合サービスだから見ているはずなのに気づいていない。アンテナを張って興味を持って“観る”必要がありますよね。

赤坂:採用においても、特にインターン志望の学生さんのスマホは面接時にチェックさせてもらいます。「インターネットが大好きなので、この業界に来ました!」と言っているのに、スマホのホーム画面にはアプリが全然入っていないことがある。すると、その言葉の信用性は当然なくなってしまいますよね。

笹森:他社アプリをチェックするのは大切ですよね。TwitterとInstagramくらいしかないようであれば、視野の狭さ、引き出しの数の少なさ、空っぽなところが出てしまう。ハードワークを愛していることはもちろん、「USアプリ、1から100まで全部見ています!」というような人を求めたいですよね。

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赤坂:今日、ぼくたちがここにいるのは、きっと現場感を持っている「プレイヤー」と中川さんにみなされているから。現場感がないとサービスを成長させることはできませんが、現場感があって、誰よりも手を動かして調べる姿勢を持つ人であれば勝てると思っています。

そして、その結果こそが自分を癒やしてくれる。以前、中川さんがTwitterで「世の中ポイズンだなって思ってます。ポイズンだなって思っているぼくが何の結果も出していないと誰もポイズンって気づいてくれないから、ぼくが頑張る」というようなことを言っていました。発言する前に結果を出そうということですよね。ぼくも同じことを信念としているので、結果を出せる本物のインターネット好きの仲間が増えて、この業界をもっと盛り上げていけたらと思っています。