熱狂的なファンが広がる、よなよなエール流「愛されブランド」の作り方

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 「よなよなエール」をはじめ、個性的なビールを手がけるヤッホーブルーイング。熱狂的なファンを抱えることでも知られる同社は、「知的な変わり者集団」を自称する。ちなみに、創業者は星野リゾート代表の星野佳路氏である。

よなよなエールは、どのようにして愛されるブランドとなったのか–。ヤッホーブルーイングの井手直行社長が8月22日、飲食店向け予約・顧客台帳サービスを手がけるトレタ主催のイベント「FOODiT TOKYO 2016」に登壇し、その秘訣を語った。

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営業しなくても売れた

「ただの変わり者では、馬鹿になってしまいますからね」。自己紹介の後、「知的な変わり者」が意味するところを井手氏はこのように説明した。

ヤッホーブルーイング創設のきっかけは1984年にさかのぼる。米国に渡っていた星野氏がブルーパブで飲んだビールの味に衝撃を受けたのだ。

1994年には酒税改正法が施行され、ビールづくりのハードルが下がり参入しやすくなった。1996年にヤッホーブルーイングを立ち上げ、醸造したビールの第一弾がよなよなエールだったのだ。

目指したのは「家庭で飲める手頃な本格エールビール」。そしてブランドキャラクターは「知的な変わり者」。

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「会社のミッションは『ビールに味を! 人生に幸せを!』。それまで日本では大手酒造メーカーの独壇場だったため、『ビールってこんな味』という画一性があった。でも、よなよなエールは名前も斬新ならデザインも斬新。香りと味わいも個性的なものにして、星野さんが国内に紹介したいと思った『画一的ではない味のビール』にすることができたんです」

その後、地ビール人気は高まり、一躍ブームに。「営業だったぼくの仕事は、注文をお断りすること。注文量に生産が追いつかなかったんです」と井手氏は振り返る。「地ビールってすごいもうかるんだなぁ」というのが当時の感想だった。

大手のマネはことごとく失敗に終わった

しかし、1999年を境に売り上げが減少していく。その理由はいくつかあるが、井手氏は次の3つを挙げた。

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「まず、値段が高い。よなよなエールは290円とかなり手頃な値段ですけど、よそでは1本500円とかしていたので、そんなイメージがついてしまいました。それから味が個性的すぎる。苦すぎたりコクがありすぎたり、度が過ぎて個性的だったわけです。最後に、品質にバラつきがありすぎておいしくない、というのがあります。 “ブーム”ということでいろんな企業や人が(地ビールに)参入してしまったからでしょうね。高いのにおいしくないんじゃ、買ってくれる人も減ってしまうというものです。」

営業職だった井手氏は売上アップのため、拠点を置く長野県内でテレビCMを流したり、それまで注文を断っていた酒屋に営業に行ったり、“よなよな”にかけて現金4万7470円が当たるキャンペーンを開催したり、年末年始に賑わうスキー場で試飲販売を実施したりという施策を行ったが、どれも不発に終わった。

「これ、全部人マネなんですよね。大手のマネをうちのような零細企業がしたところで勝てるはずがない、ということに気づきました。そして『ビジネスの基本を学ばなければ売上が上がるわけがない」とある人から言われ、少しずつ勉強することにしたんです。』

その結果、落ちる一方だった売上が、11年連続で増加。しかも地ビールブームが去り、ビール業界全体も縮小している中での急成長を見るに至った。

「『おいしいビールを作ってさえいれば、いつかは振り向いてくれる』と考えていたんですけどね。間違っていました」。一体何を学んだのだろうか。井手氏は次のように言う。「経営学者のマイケル・ポーター氏が言うように、戦略が必要だったんです」。

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ファンなくして成長なし

ポーター氏の語る「戦略」は「競争上必要なトレードオフを伴う一連の活動を選び、一つの戦略的目標に向かって活動間のフィット感を生み出すことである」というもの。

「何言っているんだかわからないでしょ?」と井手氏。「例えば、目的地への道で、途中で右に曲がれば左への道を、左に曲がれば右への道を捨てたことになる。ビジネスで勝つという目的地への道のりも同じで、ある方法を取ることにしたら、別の方法は捨てられる。取捨選択がトレードオフ、というわけですね。そしてそれら選んだひとつひとつの活動すべてにおいてつながっていて、最終的には相乗効果が見られるようにする、というのがその意味するところなんです」と説明した。

では、どのように実践したのだろうか。

「酒屋に営業に行くのをやめました。扱ってくれませんでしたから。そのかわりにインターネットで通販を始めたんです」とまずはトレードオフ。「それまでお客さんの顔が見えなかったのが、直接やり取りするもんだからダイレクトにファンからの声が届くようになったんです。そしてそれが社員たちのモチベーションアップにもつながりました」。

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その結果、顧客の顔が見えてくるようになり、社員はモチベーションアップ、企業は成長、という活動間のつながりが得られるようになった。

「そのことから『ファンなくして成長なし!』ということに気づき、ファンを大切にする取り組みを本気で始めたんです」

熱狂的なファンを生み出し増加させていった“おもしろイベント”

そのために収益と結びつかないような企画をいくつも実施した。

例えば、夫婦で毎日1本ずつ飲む計算をもとに、50年分のよなよなエールを販売する「夫婦で幸せ50年セット」。いい夫婦の日の11月22日に合わせて、定価720万円のところ、300万円引きの420万円という“破格”で売り出した。このキャンペーンでサイトにアクセスが殺到したが、「まったく売れませんでした」と告白する。

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顧客を巻き込んだキャンペーンも積極的に展開する。例えばローソン限定販売のビールでは、カエルをあしらった特徴的なビール缶のデザインにちなんだ「全国かえる捕獲大作戦」を開催。この缶ビールが販売されているのを発見した県名をハッシュタグ「#かえるビール」とともに、FacebookやTwitterで“報告”するよう呼びかけた。

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すると、発売日から3日間で4000件もの投稿があった。購入を促すどころか写真撮影を促すような一文すらなかったにもかかわらず、投稿はほとんどが購入後の写真付きだったこともあり、発売初日には同日発売だった大手新製品の売り上げを上回ったという。

「ローソンの責任者が感動して泣いていましたよ。『発売日にこんな反響があったのははじめて』って」と井手氏。「おかげさまでローソンで取り扱っているビールは100銘柄以上あるのに、アサヒスーパードライに次いで2位。その功績が讃えられて、ローソンに卸している業者としてその年のMVPをいただきました」。

かかった費用は社員2人に山手線沿線の店舗調査をさせるための切符代程度。SNSで呼びかけるという、顧客を巻き込んだプロモーションが功を奏したのだ。

そのほかにも、醸造所の内部まで見学できる「オトナの醸造所見学ツアー」を行ったり、大真面目なイベントに度肝を抜くような格好であらわれたりするなどしてSNSに投稿。ファンに喜ばれ、記憶に残っているのではないか、と推測する。

「もちろん、かっこいいビールの職人というイメージ戦略もありでしょう。でもぼくたちはそっちではなくカッコ悪いけど面白いほうを選んだ。そういうトレードオフをしたんです。その結果、ファンが増えた。そして売り上げが後から付いてきたんです」と井手氏。「11年売り上げが伸びているというのが、僕らの戦略が正しかったことの証拠になっているんです」。

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井手氏は「ビールを造る会社は世界中に数万あるけど、われわれのようにビールを中心としたエンターテイメント事業を行える企業はないと思っています。これは売り上げに直結せず、目先の利益を得られない活動は怖いから」と分析し、続けて「楽しませる取り組みのほうが、ファンの心に残りやすい。もちろんわたしたちも楽しんでいないと見透かされますから、大いに楽しみます」と語る。

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そして、「最終的な目標は世界平和ですね」と唐突に宣言した。その理由は「この仕事をしていると、社員がいきいきとしますし、ファンも取り引き先も楽しく幸せになっていっているのを実感できます。じゃあ、もっと活動範囲が広くなれば? きっと幸せになる人が増えて、世界中が平和になるんじゃないかな、と考えるんですよ」というものだ。

最後に次のように語って講演を締めくくった。

「クレイジーと笑われてもいい、でもわたしたちはよなよなエールでファンを幸せにしていきたいんです」

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