急成長サービスの裏に「運用」あり、3社がシステム改善秘話を披露

急成長サービスの裏側には「運用」がある。電子番組表「Gガイド」のIPG、飲食店向け予約・顧客台帳サービスのトレタ、ゲームサービスのマイネットが8月26日、サービスを改善する「運用」をテーマにしたイベントを開催。「運用どうでしょう」と題して、自社サービス改善の裏話を発表した。

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水曜どうでしょう風のフォントとイベントタイトルは、本家に利用許諾を取ったそうです

ユーザーはそんなものを求めているのか?

最初に登壇したIPGのプロダクト本部本部長・鷲見豊氏は、電子番組表「Gガイド」に機械学習を導入するまでの経緯を披露した。

IPG 鷲見豊さん

「機械学習導入に必要なToDoリストの作成方法、使用するデータ、具体的なシステム構成、機械学習エンジンの開発順序といった具体的な話はなかなか見つからないので、手探りでやった」と苦労を語るIPGの鷲見豊氏

機械学習導入にあたって検討したのは次の4つのことだ。

  • そもそもユーザーはそんなものを求めているのか?
  • コストに見合ったリターンは得られるのか?
  • もっと優先順位の高いことは他にないのか?
  • 会社の方向性と合っているのか?

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これらを考慮した上で、フルリソースではなく、一部を投入するという形で機械学習の導入に踏み切った。

しかし、ここでまた新たな選択を迫られた。どのタイミングで導入するか、エンジンは開発するか、それとも既成品を購入するか、自作するならその開発チームにだれを選ぶか、といったものだ。

導入時期については「『導入しました。はいおしまい』というものではなく、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら時間をかけながら少しずつやっていかなければならないもの」ということで前倒しして早めのタイミングにずらした。そしてエンジンは、自作することに。

そうなると次にやるべきことは開発メンバー選びだ。「機械学習に詳しいデータサイエンティストにすべてお任せすればいい、というわけにはいかない。サーバーにはさまざまなモジュールが必要だし、UI、UXも絡んでくる。それらをまとめて開発できるチームを組む必要があったんです」とその重要さを説明する。

さらに、UI、UX、採用するアルゴリズム、必要なデータなどが複雑に絡み合うため、それらの包括的検討もなされたという。

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「エンジンは『作りました、ハイ終わり』というものではないので、ユーザーの反応を見て少しずつ改良しました。最も重要だと感じているのは、複数の専門家や有識者からのヒアリングです。もちろんおっしゃることはそれぞれ違うのですが、何人もお聞きすることでこちらも勘がつかめてきて、開発の方向が正しい、という確信が持てたのです。」

それからプロトタイプをオフラインで走らせ、そこそこ満足いくものに仕上がっているかを検証。「ここまでやってからシステムに組み込んだ」と語った。

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そして、最後の次のようなエピソードを披露した。「ユーザー評価試験で『こんな番組レコメンドされても、ぜんぜん興味ないんだけど』と言われ落ち込んでいた。でも後日その人から『あの後見てみたら、まさに自分はこういう番組を見たいと思っていたということに気付いた』とべた褒めされました。クリック率が高いのは“見たい番組”です。でも“見てみたら良かった番組”を表示したほうがユーザーは幸せになれる。ならばそちらに寄せていき、ハッピーになれるユーザーを増やしていきたいな、と思いました」。

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後回しになりがちな改善は「短期集中」で成果を出す

続いて登壇したのはトレタQAエンジニアの井上恵一氏。飲食店向け予約・顧客台帳サービスという性質上、「売って終わりではない」ことにまつわる、バックヤード上で生じるさまざまな問題をどのように解決したかを発表した。

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トレタが提供している飲食店向け予約・顧客台帳サービスは販売契約を結んだ後、初期店舗設定や既に受けている未来の予約情報の移行、トレタ利用方法の説明や導入後のフォローなどを経てはじめて、トレタを使って店舗の予約管理ができる「運用」に乗った状態になる。

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この導入時の初期設定や、各店舗での稼働状況の把握をサポートするのが社内で「トレタ管理」と呼ばれる管理画面だ。

「トレタ管理」画面

「Web 1.0 時代のようなそっけない画面。トレタのアプリはATMの操作ができる人なら誰でも使えるような簡単さを目指してUIにこだわっているのに、同じ会社のものとは思えません(笑)」と語るトレタの井上恵一氏

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導入後、トレタが店舗のオペレーションの一部になりきちんと稼働しているかをトレタ管理で確認していたが、そのステータス管理業務が属人化した手作業になってしまっていた。そのため、あるタイミングからステータス更新に漏れが発生しまっているようだという指摘が社内からあった。

「過去1年で導入店舗が倍増し、販売パートナーも増えた。最近ではシンガポールへ進出したこともあり、運用に関わるコミュニケーションやタスクの絶対量も増えていた。そんな中、作業が “手運用”でなされていたり“属人化”していては今後が心配だ、ということになったんです」と井上氏。

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いったん各部署に持ち帰り、困っていることのリストアップをしてもらったところ、出てきたのは要望の数々。「中には『実は半年前にお願いしたんだけど、まだ手付かずみたいなんだよね』というのもありました。あるあるですよね。確かに創業時はプロダクトの開発に集中する必要があるため、ある程度はいわゆる『運用でカバー』で乗り切らなければなりません。ただユーザー数が急増している今、運用の安定化や品質改善は手遅れになる前にすぐにでも着手しなければならない課題だと感じました」。

そのため、1カ月限定で「『トレタ管理』改善プロジェクト」を立ち上げることにした。チームはエンジニアと非エンジニア(カスタマーサポート・セールスチーム)の混成メンバーで構成。プロジェクトの目的は「事故予防」と「サポートコスト・サポート品質の改善」とした。

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部署によって社内にいる時間が異なるため、コミュニケーションの取り方に工夫したと井上氏。エンジニアだけでなく社員全員に『Slack』を使うカルチャーが浸透しているため、普段は新設したプロジェクト専用のチャンネルでやり取りし、大枠の方針や優先順位はプロジェクトのメンバーが集まりやすい週一回月曜日夕方のミーティングで決定していったという。

また、プロジェクトチーム外の社員に対しても、社内共有ツールの esa やホームルーム(全社員ミーティング)を通じてプロジェクトの進行状況を積極的に発信するようにした。

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結果として、それまでフル権限という選択しかなかったトレタ管理のアカウント権限を編集権限・閲覧権限など分けられるようにすることで、より多くの人にアカウント配布を可能にし、事故予防に一役買うように。

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また、サポートメンバーが瞬時に顧客の情報にアクセスできるよう検索性の向上や、表示項目の見直しを実施。店舗の申し送り事項などをメモとして残し、共有できる機能も実装した。それによりサポートの応答時間の短縮と対応品質の改善が図れたという。

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成功のカギは「期間限定」だと井上氏。「運用改善という永続的な課題でも、期間を“1カ月だけ”と区切ることで、プロジェクトを立ち上げやすくなりますし、限られた期間で何ができるか真剣に考え、集中することができます」と解説した。

効率化で余計な工数を省く

マイネット 御代田大氏

効率化で節約した人件費を絵やサーバーのインフラに使えば、ユーザーに与える価値も高められる」と語る、マイネットの御代田大氏

トリを飾ったのは、今回のイベント主催者であり、ゲームサービス事業を提供しているマイネットの開発リーダー・御代田大(みよた まさる)氏。

聞き慣れない「ゲームサービス事業」とはどんなことをするのか。御代田氏によれば、「既にリリースされたスマートフォンゲームの“運営”を、買取・協業し、ユーザーが長く、ワクワク楽しみ続けられるように、一層の付加価値を継続的に提供していくこと」だという。

ゲームサービス事業を担当するエンジニアは、イベント・ガチャなどの日々の更新作業、新機能の追加などを行う。他社が開発したゲームを引き継ぐ際に大切なのは「効率化」と御代田氏は語る。

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効率化が特に求められたのが、ゲーム引き継ぎ直後の作業だった。

例えば、10のマスターデータテーブル(ゲーム構成の定数を格納)を持つゲームが7つのプラットフォームに配信されている場合、更新作業は70回に及ぶ。その1回ごとにマスターデータのスプレッドシートをTSV(タブ区切りテキスト)にコピペして変換。それをバージョン管理ツール下に置き、本番サーバーでPHPのバッチを当ててゲームのDBに投入する。しかもそれらがすべて手作業だったというのだ。

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プランナーによる動作確認の前に、責任を負うエンジニアを挟むが、うまくいかなければ延々その単調な取り込み作業が繰り返され、その間、エンジニアの手が止まってしまう。

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そこで、プランナーが取り込みたいスプレッドシートを管理画面で指定するだけで、TSVへの変換からPHPを実行してデータベースへの取り込みまでを自動化。取り込み確認が終わったところで自動的にエンジニアにChatWorkで通知。エンジニアの作業はGithub上でプルリクエストをマージしてステージングもしくは本番サーバーに反映させるだけになり、日々30分から1時間かかっていたものがわずか5分に短縮されたという。結果としてエンジニアは開発に集中可能になり、ユーザーにより良いものを提供できるようになった。

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現在、マイネットで運営しているのは20タイトル。「共通ツールを作って効率化すればもっといいのでは? と言われますが、ゲームはすべて他社製。つまり環境と条件がすべて異なるんです。それらすべてを包括するようなツールを作ることは難しいため、新作を引き継ぐたびに、最適な方法を模索します。具体的には各プロジェクトで実施した改善事例や失敗例を、社内で行われているDBやネットワークといったテーマ別の勉強会で共有したりしています。大変ですが、一方であらゆるスマホゲームの技術が集まってくるので、幅広い開発経験が積めるところがとても楽しい」と語っていた。

終わりに

3社とも、さらなる、ユーザー満足度アップに向けてエンジニアを募集していることを最後に付け加えたい。あなたも、運用どうでしょう?