シリコンバレー発VC「500 Startups」が日本でも始動、起業家が感じた手応えと課題

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シリコンバレーを拠点に世界50カ国、1500社以上を支援する世界で最もアクティブなシード投資ファンド「500 Startups」。昨年、「500 Startups Japan」を立ち上げ、日本のスタートアップへの投資にも力を入れ始めた。

そんな同ファンドが神戸市と手を組み、8月1日から9月9日の6週間にわたって、マンツーマン指導を含めた本格的なアクセラレーションプログラム「500 Startups Kobe Pre-Accelerator」を開催したことは記憶に新しい。

このプログラムは、神戸からスタートアップのエコシステムを生み出すべく開催されたもの。世界中のシード期のスタートアップを対象に、500 Startupsのグローバルチームがメンターとなり、マンツーマンでビジネスに必要な知識をアドバイス。最終日にはデモデイが開催され、プログラムに参加したスタートアップが成果を発表する。

こうしたアクセラレーションプログラムは日本各地でこれまでにも開催されてきたが、地方自治体と世界的な投資ファンドが手を組むケースは少ない。「中長期的なスタートアップの支援を本気でやっていきたい」。そんな神戸市の熱い思いによって開催が実現した、今回のアクセラレーションプログラム。その内容とは一体どういったものだったのだろうか?

10月1日、渋谷TECH LAB PAAKにて開催された、アクセラレーションプログラムの成果を報告する会「#500STRONG Afternoon: KOBE edition」での発言をまとめた。

500 Startupsが持つ、サービスのグロース手法を学びたかった


神戸市の熱い思いに500 Startupsが呼応する形で開催に至った、「500 Startups Kobe Pre-Accelerator」。最大の魅力は、500 Startupsのグローバルスタッフによる1on1の密なメンタリングだろう。今回、500 Startupsはシリコンバレーから合計20人のスタッフを招聘。そのメンターの中には、500 Startupsの共同創業者でパートナーのDave McClure(デイブ・マクルーア)氏やChristine Tsai(クリスティン・ツァイ)氏も含まれる。

数多のスタートアップを支援してきた著名人たちがメンターを務めることもあって、アクセラレーションプログラムの注目度は上昇。プログラムへの応募企業数は国内140社、海外66社の合計206社に上り、このうち約1割の21社が採択された。

本国で開催されているアクセラレーションプログラムと比較しても、決して引けを取らない「500 Startups Kobe Pre-Accelerator」。実際に参加したスタートアップの多くは、様々なスタートアップを急速に成長させてきた500 Startupsのグロース手法を学びたかったようで、報告会に参加したMaisin&Co.株式会社の横溝一将氏は参加の経緯をこう語った。

Maisin&Co.株式会社 横溝一将氏

「僕たちは技術力に定評があるのですが、マーケティングはさっぱりで……。どうやってサービスをグロースさせていけばいいのかを学ぶために、応募しました」(Maisin&Co.株式会社 横溝一将氏)

株式会社空、株式会社ポケットメニューも参加の経緯は同じ。いかにしてサービスを伸ばしていくのか。その手法を学ぶために神戸に足を運び、約1カ月半、その地で生活することを決めたのだ。

アクセラレータは学校じゃない

株式会社ポケットメニュー 石田誠也氏

今回のプログラムは、500 StartupsのZafer Younis(ザファー・ユニス)氏の「アクセラレータは学校じゃない。決められたカリキュラムに従ってやるものではない」という強い思いが反映されていて、内容は企業によって様々。ビジネスの知識が学べる”レクチャー”に積極的に参加するスタートアップもあれば、究極のハンズオンとも言われる”メンタリング”に力を入れるスタートアップもある。

例えば、日本の最高級レストラン専門予約サイト「Pocket Concierge」を運営する、株式会社ポケットメニューの石田誠也氏。はわずか2週間のメンタリングにもかかわらず、ビジネスの根幹を見直すことを余儀なくされたという。

「メンタリングをしてもらっていく中で、『結局あなた達のサービスは何が強みなの?」とズバッと言われまして。自分たちの強みだと思ってた部分がメンタリングによって、決して強みではないことが分かったんです。一人のメンターだけでなく、ほとんど全てのメンターから『あなたのサービスの強みは”翻訳”と”シェフのネットワーク”なんじゃないの?』と言われたので、『これはビジネスの根幹を見直さなければいけない』と思い、自分たちが提供したい価値を改めて見直すことにしました。ダメ出しばかりだったのですが、その経験があったからこそ、今まで見えていなかった価値に気づくことができたと思います」(株式会社ポケットメニュー 石田誠也氏)

メンタリングの頻度は毎日。500 Startupsのグローバルスタッフの誰かが、必ず話を聞き、サービスのアドバイスをくれたという。プログラムの後半は最終日に開催されるデモデイに向けて、スピーチの方法を磨いていく。

そしてデモデイ当日。プログラムに参加した、21チームが1分間という限られた時間の中でプレゼンを実施。この結果が投資に結びつくわけではないが、各チームが参加前とは違った姿を披露したという。

実際にプログラムに参加することで感じた変化を、3社はこう口にした。

株式会社空 松村大貴氏

「僕たちは、『まずCEO自らがセールスしてこい』というメンタリングが一番よかったと思っています。”稼ぐこと”についてシリアスにスピード感を持ってやりたいとポジティブに思うようになりました」(株式会社空 松村大貴氏)

「500 Startupsのスタッフに共通していたのは、サービスの細かい機能には興味がなくて、サービスが出した数字にしか興味がなかったということ。これまでは時間をかけてサービスを作っていたのですが、このバッジに参加して早く作って出すという風にサービスの作り方が変わりました」(Maisin&Co.株式会社 横溝一将氏)

「メンタリングによって詰められることによって、自分たちのバリューが何か分かっていないことに気づけたのが良かったなと思います」(株式会社ポケットメニュー 石田誠也氏)

日本と米国のアクセラレータは「幼稚園と大学くらいの差」

左:リクルート 岩本亜弓氏  右:株式会社ウィズグループ 奥田浩美氏

報告会の後半では、「500 Startups Kobe Pre-Accelerator」に携わった、株式会社ウィズグループの奥田浩美氏、そしてクリエイターのためのコミュニティースペース「TECH LAB PAAK」を運営するリクルートの岩本亜弓氏が登壇。

今回開催されたプログラムを踏まえて、今後、日本のアクセラレータ、インキュベータに求められる役割が語られた。

これまで様々なピッチイベントを主催、スタートアップ向けのイベントも運営してきた経験を持つ奥田氏は、「500 Startups Kobe Pre-Accelerator」を国内のアクセラレーションプログラムと比較して、「幼稚園と大学くらいの差がある」という。

「単純にレベルが違うという話ではなく、『500 Startups Kobe Pre-Accelerator』は誰に対して、何を、どれくらい教えていくかが明確になっている。この違いにすごく驚きました。他にも、メンターの方々が次の世代のために、それぞれピッチの仕方などの専門分野を持っているのも驚きましたね」(奥田氏)

また、TECH LAB PAAKでプログラムに参加したスタートアップを支援してきた岩本氏は、「500 Startups Kobe Pre-Accelerator」について、こう語る。

「メンターの方々のコミットがすごいな、と思いました。最初の2週間で全員が本気になってやっていく空気感を作っていて、コミュニティーマネージャーとして働いている身としては、勉強しに行きたかったくらいですね」(岩本氏)

起業家として事業を伸ばすなど、様々なバックグラウンドを持つメンターが朝の9時30分から夕方6時まで座りっぱなしで、いつでも相談できる状態になっていたという。

こうした状況に対し、奥田氏は「日本はメンターが少ない」とコメント。確かに国内のアクセラレーションプログラムでメンターを務める人は、他のアクセラレーションプログラムも兼任することが多い。もちろん、そういったメンターの意見を聞けることは非常に大切だが、もっと多様な人の意見が聞けてもいいと思う。

今回の「500 Startups Kobe Pre-Accelerator」のメンターは、500 Startupsのアクセラレーションプログラムを卒業した人たちが務めていたという。日本では謙遜する文化があり、その影響もあってか、人に教えることを嫌う人もいる。

今後、日本のスタートアップのエコシステムが活性化していくためには、今回のようなアクセラレーションプログラムを参加した方々が次の世代に学びを伝えていく。そうした仕組みを作ることが、これから日本のアクセラレータに求められるのではないだろうか?