「エンジニア×異業種」の壁をどう乗り越える? 医療ベンチャーCTOに聞いてみた

飲食店向け予約台帳アプリを手がける「トレタ」CTOの増井雄一郎さんが「今、気になる人」に直撃する連載。今回は、医療介護の求人サイトをはじめ、オンライン病気事典や通院システムなどを手がける「メドレー」取締役CTOの平山宗介さんが登場です。

メドレーは2016年2月、オンライン上で医療機関の予約から診療、会計までを行えるシステム「CLINICS」をリリース。昨年夏に遠隔診療が事実上解禁されたことを受け、すでに130以上の医療機関が導入しています。

社内にはエンジニアと医師が混在し、CLINICSをはじめとするプロダクトを共同開発。エンジニアは医療書を読んで現場を理解し、医師はコードを学び、GitHubを使ってプロジェクトを進めています。

言わば「IT×医療」という異業種の掛け合わせを、どのように実現しているのでしょうか。

メドレーの平山宗介さん(左)とトレタの増井雄一郎さん(右)

メドレーの平山宗介さん(左)とトレタの増井雄一郎さん(右)

今まで「オンライン診療」が成立しなかった理由

増井:平山さん、本日はよろしくお願いします。今年の2月にリリースされた、オンライン通院システム「CLINICS」の調子、いかがですか?

平山:おかげさまで、今のところ順調に伸びています。北は北海道から南は沖縄まで、約半年で契約医療機関は130を超えました。ユーザーも徐々に広がっています。

増井:実際、医療機関ってオンラインでの診察予約さえできないところがほとんどですよね。時代の流れからすると、かなり取り残されている感じがしますよね。

平山:そうですね。「CLINICS」は、“遠隔診療を可能にするシステム”として何度かメディアに取り上げていただきましたが、大元の意識としては「医療機関全体の業務改善」を目指しています。

CLINICSは診察予約やビデオ診察、アフターフォローまでをオンラインで行うシステムだ

CLINICSは診察予約やビデオ診察、アフターフォローまでをオンラインで行うシステムだ

増井:これまで、医療機関でのオンライン予約が普及してこなかったのはなぜなんでしょう?

平山:「診察時間のめどが立てられない」という前提が、予約を困難にしているように思います。現場では急患が入ったり、泣き止まない子どもをなだめたりと、想定外のハプニングがつきものです。なので、「予約システムは機能しない」と思われてきた節はありますね。できるとしても、「9時から9時半に来てくださいね、終わりの時間はちょっと見えないですけど」というような、“時間帯”での予約がメインでした。

増井:なるほど。

平山:ただ、CLINICSを導入している医師に使い勝手の感想を聞いてみると「遠隔診療だと、予約の時間通りに来て、時間通りに診察を終えられる患者さんが多い」との声をいただいています。

増井:それはどうしてですか?

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平山:遠隔診療と言うと、一般的には「病院のない離島のための医療」というイメージが強いかと思いますが、そういったケースだけで用いられるものではありません。CLINICSで通院している患者には、仕事で忙しくてなかなか病院に行けない会社員も多いんですよ。彼らは、仕事の合間をぬって、空いた時間を利用してオンラインで診察を受けています。

増井:ああ、仕事の合間にオンラインで診察してもらえるのはいいですね。それだと長い時間オフィス離れる必要もないし。仕事の合間だから他の打ち合わせと同じように決まった時間に来て、終了時間に帰るので時間的なブレが少ないんですね。

平山:ただし、あらゆる診察において、遠隔診療が有効なわけではありません。外科などの診察は基本的に対象外ですし、内科でも、触診や種々のデータ採取が必要な初診は、まず対面で行います。基本的に、問診がメインとなる診察だと相性がよいので、精神科で導入していただいている事例は多いですね。意外な線で言うと、皮膚科の方にも使ってもらっています。何度か来ていただいている方であれば、患者に患部の状態を撮影した写真を送ってもらうことで、ある程度の病状の把握と対処法の判断が十分できるそうです。他にはED(勃起不全)やAGA(男性型脱毛症)の治療、ピルの処方の際にも、CLINICSをご活用いただいています。

増井:今の導入事例を聞いていると、病院に行くことの心理的ハードルが高い症状でも病院に行きやすいというメリットもありそうですね。

平山:そうですね。精神科ですと、その日のコンディションによって外出するのが難しくなる患者さんもいらっしゃいます。人目を気にされて、なかなか病院に足を運べないケースも、少なくないようです。CLINICSが、そういった方々にとっての「通院のしやすさ」につながっているのであれば、とても喜ばしいことだなと。

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増井:ほかにも、遠隔診療のメリットとして上げられるポイントはありますか?

平山:今の「通院のしやすさ」につながる話になりますが、「2週間に1回」などと定期的な診察が必要になるケースにおいて、患者の通院継続率が対面の診察よりも高い傾向にある、との報告を受けています。

増井:その患者側の気持ちはよくわかります。単発だったらしょうがないと割り切るけど、通院のために定期的に仕事を休んだり、中抜けしたりするのって、精神的に負担が大きいですよね。周りから病人っぽく見えない症状だったりすると、なおさら通院しづらい。

平山:おっしゃる通りで。最近、CLINICSを介して禁煙プログラムを受けられるサポートを開始したのですが、これがかなり好評で。

増井:それはとても相性が良さそうですね。禁煙プログラムって継続的に通院しなきゃいけないのが面倒だし、行かなくても生活に支障が出るわけではないから、途中でリタイアしてしまう人が多いだろうなと思っていました。

平山:また、医療過疎地で真価を発揮しているケースもあります。導入してもらっている小児科の中には、「その病院の半径50kmくらいの範囲にほかの小児科がない」という所があって。そのエリアに住む人々が小児科を利用したくなったら、どんなに遠くてもそこに行くしかなかったんですね。その小児科で遠隔診療が可能になったことで、今までは遠方から何度も通わないといけなかった親御さんたちが、負担なく子どもを診せられるようになったと。CLINICSを運営しながら、遠隔診療は病院と患者との距離感をいい意味で縮められるのだなと、確かな手応えを感じています。

異業種の歩み寄りが、サービスを強くする

増井:CLINICSのシステムを構築するにあたって、医者や医療事務に携わっている人たちの声は、かなり大事にされたかと思います。クローズドな業界の現場のニーズって捉えづらいと感じるのですが、そこはどのようにして把握されていったのでしょうか。

平山:現場でのヒアリングは、これまで培ってきた医療業界のネットワークを通じて、可能な限り行いました。それと、メドレーには医師の社員が7名在籍しており、彼らに監修をしてもらうことでシステムとしての実用性を高めています。

増井:医師がそんなにいらっしゃるんですね!

平山:医療系のウェブサービスを作っている会社はいろいろとあるかと思いますが、医師をこれだけ社員として抱えているのは、弊社の大きな強みですね。サービスを作っていく上で、とても心強いです。専門的な知識や、現場の感覚が必要な時に、すぐに頼れるので。

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増井:ある特定の業界に向けてのサービス開発に当たって、「その業界の現場を知っている人」が身近にいることは、とても重要な要素ですよね。トレタのCEOも、元々レストランの運営に10年ほど携わっていて、そこでの土地勘がサービスを良くすることに貢献していると感じます。もっと踏み込んで言えば、「内部を知っているけど、今は外側にいる人」が、大きな価値を出せるのかなと。現場に行って「困っていることはありませんか?」と聞いても、そこから直接的に課題が見えてくることって、まれじゃないですか。

平山:それはよくわかります。多分、現状でなんとか回せてしまっているから、課題が表出しにくいのかなと。なんとなく今がベストではないと思いつつも、どうすれば改善できるのか考える糸口を持っていないから、「とくに問題はない」と答えてしまいがちになる。

増井:トレタでも、ずっと紙とペンで予約管理をしていたレストランがトレタを導入して、初めて「今までの業務にはこんなに時間的ロスがあったのか」と認識してもらえることが多いですね。その時間のロスや非効率さって、業界内にいたままだと、なかなか気づけないんだと思います。

平山:離れることで見えてくることもあるし、そもそも違う畑で育っているから指摘できることもありますよね。私たちエンジニアは、今までの医療現場のことは詳しく知りません。だからこそ、フラットな視点で「もっとこう変わった方が便利なのでは?」という提案ができると思っていて。この提案を、元々その業界にいたプレイヤーと議論を重ねながら具現化していく――弊社のサービスは、そんなフローの中で生まれています。

増井:医者とエンジニアが社内にいて、密にコミュニケーションが取れるのは、無二の強みになりますね。一方で、背景知識の異なる両者がスムーズにコミュニケーションが取れるようになるには、なかなか大変じゃないかなと思うのですが。

平山:そこは、お互いの歩み寄りが必要ですね。うちのエンジニアは、分厚い医療書を一生懸命読んで勉強してくれているし、医師のメンバーも入ったときからエンジニアリングを勉強し始めて、今ではコードを読める者も多いです。ただ、現状のCLINICSは関係性がすでにできているメンバーでスタートしているので、これからサービスを拡大していくにあたって新規の採用も視野に入れると、社内で医療知識やエンジニアリングの勉強会を催したりした方がよいかなと思っています。

増井:トレタでは新人研修の一環として、システムの作り方を説明する勉強会をやっています。「iOSで作ったプログラムが、なぜAndroidで動かないのか」とか、エンジニア以外にちゃんと理解してもらうことで、無理な受注が発生しにくくなります(笑)。良いサービスを作るためには、社内における異業種間の相互理解が不可欠ですよね。

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「対等」こそが信頼のベースになる

増井:BtoB向けのサービス開発の現場では、営業やマーケなどクライアントに近い立場の人の権限が強くなる傾向があると思います。そうなると、表に出ないエンジニアは意見が尊重されにくくなって、サービスに対する熱意を失ってしまう……というケースを、何度も見てきました。CLINICSの現場では、そのあたりのパワーバランスでの問題はありませんか?

平山:うちは、むしろエンジニアの方が強いくらいですよ。経営陣が「エンジニアリングが大事」と社員に発信し続けていることもあって、うちのエンジニアは事業に対しても、日常的にバンバン口を出すんです(笑)。けれども、それくらいがちょうどいいというか。やっぱり、エンジニアは他のポジションと比較すると表立って発言する機会が少ないので、意識的に意見の吸い上げをしていくとバランスが取れるのかな、と感じています。

増井:エンジニアにとって、日頃から他の部署の人たちと一緒に議論できる環境が整っていると、とても仕事がしやすいですね。そもそも話す機会が少ないと、「コミュニケーション」というよりは「ヒアリング」になってしまうので。そうなると、どちらかが一方的に話を聞くような体裁になってしまって、相互理解が深まらない。小さく細かく、普段から会話を重ねることで「コミュニケーション」が成立しやすくなるのかなと思います。

平山:そうですね。あくまでも対等にやり取りをすることで、信頼感も生まれてきます。医者とエンジニア、経営者が、それぞれ対等に議論できることが、弊社のサービスの大きな強みになっているのかなと。

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増井:「議論を交わしてサービス向上に努める」上では、クライアントである医療機関とも、対等なな関係を築けるとよさそうですね。

平山:そのため働きかけは、クライアントにも意識的に行なっています。「このサービス、取り組みが医療業界を良くする」というビジョンに共感してもらうことが重要だなと。私たちはこれからも、真摯に「医療業界の問題解決に寄与するサービスの創造」に注力していきます。今、協力してもらっている皆さんの信頼や期待に応えるためにも。

増井:サービスの利便性や革新性もさることながら、そもそも「会社を信頼してもらう」って、本当に大事ですよね。トレタも代表の中村が飲食店の経営を10年続けた経験と、その間に積み上げてきた信頼関係が、今の成長の大きなベースになっています。商売においては、地道な信頼の積み重ねに勝るものはないですね。

平山:本当にそうだなと感じています。

増井:なんだか、図らずもサービスづくりの原点に立ち返れた気がしています。今日はありがとうございました。

(構成:西山武志)