生産性の低い仕事を「スジの良い仕事」に変えるには―、元電通社員が語る仕事術

『トップ1%に上り詰めたいなら、20代は“残業”するな』著者の山口周氏

『トップ1%に上り詰めたいなら、20代は“残業”するな』著者の山口周氏

ある若者の自殺が、労災認定されたとのニュースが流れた2016年10月。その原因は長時間労働と度重なる上司からの嫌がらせだったという。

統計によれば、国内の労働時間はここ数年、微増もしくは横ばい状態が続いており(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)、仕事が原因の自殺は微減もしくは横ばい状態(警視庁「自殺統計原票データ」)だ。

とはいえ、職場での「いじめ」「嫌がらせ」に関する相談件数とその割合は年々増えており民事上の個別労働紛争に関する相談者の5人に1人以上。上司を含む労働環境は特に若い世代の場合、自分で選べないことが多い。そのような状況下で、長時間働いてもかまわないと思わせるほどのやりがいを仕事から見つけるのは難しいだろう。

『トップ1%に上り詰めたいなら、20代は“残業”するな』(以下、『“残業”するな』 大和出版)の著者で電通に新卒で入社した経験もある山口周氏に、電通時代のエピソードと、どの世代にとっても仕事を苦痛ではなく、楽しみへと“変える”方法をきいた。

長時間従事させられる“生産性の低い仕事”

山口氏が電通にいた当時に感じていたのは作業の「生産性の低さ」だという。「知的生産を伴う本当に面白い作業をしているのは全社員のうち1割程度。新卒で入った来たような子たちがする仕事は時間ばかりかかって、成果物も『だからなに?』というようなものでした。つまり彼らの成長や評価につながらない“スジの悪い仕事”だったわけです」。

具体的な作業内容は、完成したCMをオンエアするチャンネル、番組、時間帯などを手作業で組んでいくというもの。かかわっている数百本のCMを、全国130局から届く番組オンエア計画書、視聴者層の調査書とにらみ合いながら、期間中定められた本数組み込むという果てしない作業だったたという。

「クライアントの望むことだから仕方ない」――最初そう考えていた山口氏も次第に違和感を覚えるようになった。「4大卒の有能な人たちになぜこのような作業をさせているんだろう。ぼくがクライアントをマネジメントする立場だとしたら、そんな作業を発注させることはないだろう、と。入社して2、3年でそう感じるようになりました」。

また、受注側の電通に関しても「1990年代の当時でも、ITを使えばそんなに時間がかからないはず。なのにそういう仕組みを作らず若い人にやらせていたところに違和感がありました」と山口氏。「ところがみんなにこにこしながら残業するんですよね。残業代もつきましたし、20代だとまだ家庭を持っていませんでしたから。しかもほかに趣味もない。帰ってからやることがない、さびしい。楽しむ力がないというか。ならば職場のメンバーとああでもないこうでもないと言い合っているほうが楽しかったのかもしれません」と振り返る。

とはいえ、山口氏も電通時代はほぼ毎晩のように終電もしくは午前2時から3時くらいにタクシーで帰宅していたという。「それが普通でしたので、あたりまえのようにでろでろと残業していました」。

しかし大切な人ができてからは、仕事を早く上がって、2人の時間をできるだけ多く取りたいと山口氏は考えるようになったという。「その後、結婚し、子どもができてからは、やっぱり仕事に時間を使うより子どもと遊ぶほうが楽しい、と感じるようになりました。そしてそのころには転職し、メリハリのついた仕方で仕事ができるようになったのです」。

評価されるのは仕事を自分に引き寄せて“スジの良い仕事”に変える人

『“残業”するな』でたびたび出てくる言葉に「スジの良い仕事」「スジの悪い仕事」というものがある。同書内で山口氏は「一生懸命に取り組むことによって、どんどん自分の人生の豊かさを増してくれる」ものを「スジの良い仕事」、逆に「どんなに一生懸命に取り組んでも、自分の豊かさにつながらない」ものを「スジの悪い仕事」としている。

20代であれば、就職先こそ選べるが“仕事内容”を選ぶのは難しい。前述の「CM組み」のように生産性が低く、他業界に転職したら何の意味もないような仕事もまわってくる。そのような場合、どうすれば自分の仕事の中にやりがいを見つけスジの良い仕事にしていけるだろうか。

その点についてヒントとなるエピソードを山口氏が教えてくれた。

入社1年目、山口氏は仕事をうまくこなせず、先輩から怒られていた。その際言われていたのが「飲み会ではすごくおもしろいことを話し、いい感性を発揮するのに、なぜそれが仕事に活かせないのか」というもの。当時「仕事は仕事。言われたことをやるまで。自分のアイデアや感性とどう関係するのか」と考えていた山口氏も「あれは仕事を自分に引き寄せる、つまりやっている仕事の中から有意義なものを見つける方法を考えろということだったんだなぁ」と理解できるようになったという。

「ぼくも月曜日がいやなんですよ。大金が入ったら仕事をやめたい、と思うほどには仕事が面倒くさいなぁと考えている1人です。でも、仕事していると楽しいこと、刺激的なことも起こります。やりがいがまったくないわけではない。『面倒だなぁ』『つらいなぁ』という消極的考えは『楽しい』『刺激的』『有意義』と感じる積極的なものからはかけ離れていますよね。でも、消極的なものも積極的なものに近づけ、ややもすれば積極的なほうに取り込んでしまえるよう、いわば“積極的要素の輪っか”を広げていく努力をしているのです」

右が「楽しい」「おもしろい」という積極性をもった輪。その輪を広げて左の「つらい」「めんどう」という消極的要素との重なりを大きくしていき、つらいことも楽しいことに含まれるようにしていきたい

つまり“仕事を自分に引き寄せる”わけだが、「そのコツをつかむまでが大変」と山口氏。「でも、いったんそのコツをつかんでしまえば、さまざまな局面でうまくいくようになります。そしてそれができる人は評価されるようになっていくのです。うまくいっていない、つらさしか感じられないときは仕事を自分に引き寄せられていないことが多いのです」とその重要性を説く。

「井上ひさしさんがお嬢さんに残した言葉(『父・井上ひさし 最後の言葉 夜中の電話』井上麻矢著・集英社インターナショナル刊)の中に『自分という作品を作っているつもりで生きなさい』というものがあります。主人公がどんなセリフを吐き、どんな行動を取るか。人生という作品の中での主人公=自分を自分で形作るように、ということですね。仕事もそう。自分の感性を大切にしながら『これが自分の仕事です』と自信をもって判を押せるようにやっていく方法を見つけるとうまくいくのではないでしょうか」

化粧品と同じで、肌に合わなければ仕事もやめればいい

言われるがままに仕事(作業)をこなしてつらい気持ちになるのではなく、仕事を楽しめるよう“仕事を自分に引き寄せる”方法について解説した『“残業”するな』は、仕事内容を選べない若い世代を特に意識した書籍だが、30代以降でも「自分を見直して律するきっかけになるのではないか」と山口氏。

それでもうまくいかない場合、どうすればいいのだろうか。「そういうときは逃げればいいんです」と山口氏は言う。「物語の中にもありますよね『ひとまず撤退だ!』っていう場面。人のせいにすることなく、ニュートラルに自分の置かれている立場を整理してうまく逃げる。それも経験になるんですから」。

さらに「化粧品の取扱説明書に『お肌に合わない場合、ご使用を中止ください』とありますよね。なぜ同じことを人間に当てはめないのでしょう。どうしても“肌”に合わない仕事ってあるんですから、中止すればいいんです。やり続けたらお肌も人も取り返しのつかないことになるでしょう?」とわかりやすく説明した山口氏は最後にこう語った。

「ぼく自身、つらくてどうしようもなかった時期に、母親から『すぐやめなさい』と言ってもらえ、心が軽くなった。『ああ、逃げることは意気地なしや根性なしと見られるわけではないのだ』と。だから、追い詰められて我慢できなくなったらそこから逃げましょう。あなたのことを本当に考えている人は、決してそのことを責めませんから」