「早くVRを広めないと日本が終わる思った」GOROman × IT芸人対談(中編)

IT芸人の異名を持つ、トレタの増井雄一郎さんが「今、気になる人」に直撃する連載。今回は、日本におけるVRエヴァンジェリストとして知られる、GOROmanこと近藤義仁さんの登場です。

VRが日本で普及する可能性について聞いた前編に続いて、中編はGoromanさんがOculusの「中の人」になるまでの経緯を語ってもらいました。

VR普及の鍵は「モテ」と「JK」、GOROmanさんに聞く(前編)
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「早くVRを広めないと、日本が終わると思った」

増井:近藤さんは今のVRブームと呼ばれるものを初期から追いかけていて、Oculus社にまで入ってしまったんですよね。“中の人”になるまでの経緯をもう少し詳しく聞かせてください。僕もTitanium Mobileで中の人をやってましたが、多分、なった背景が違うんだろうなと。

GOROman:そうですね。VRは人の生活を根本から変える可能性も持っているので、放っておいてもいつかは超えてくると思います。でも、そんな悠長に構えてたら、世界から取り残されてしまう。そんな危機感から、僕はOculusの“中の人”になろうと決めたんですよ。

増井さんはどんな経緯でしたっけ?

増井:僕は最初、好きでTitanium Mobileを使っていたんですけど、中身があまりにもひどくて(笑)。自分で組んだバッチを送って窓口に文句を付けたら、あれよあれよと社長にまでつながって。社長にメールで「どうしてこんな構造にしたんだ。こうすればいいじゃん」って直談判したら、「そんなに言うならうちに来て君がやりなよ」と話がまとまったんです。

GOROman:Titanium Mobileとしてはラッキーな展開でしたね、勝手に優秀な人材が来てくれたわけだから。

増井:どうでしょうかね(笑)。それで、近藤さんがOculusを初めて知ったのはいつ頃ですか?

GOROman:2012年の8月です、ちょうどKickstarterでのクラウドファンディングが始まった時に。それまでもARやVRのグラスはひと通りバック(出資)してたんですけど、ほとんどが期待はずれでした。

増井:僕もKickstarterでよくバックしますけど、あそこはそういうものですよね。半ばギャンブルというか(笑)。製品が届かないこともありますし。

2016年12月にOculus(Facebook Japan)を退社し、現在はVRアプリケーションの開発に専念するGOROmanさん

GOROman:最初にKickstarterで「Oculus Rift」を見つけた時も「すごいけど、なんかうさんくさいな」と思ったんです。でも、推薦者がめちゃくちゃすごかったんですよ。Valveの社長やUnityの責任者、Epicの偉い人とか、とにかく業界のすごいヤツらがこぞって「これはヤバいぞ!」と言ってましたね。その中には、id Softwareの創始者であるジョン・カーマックもいて……僕の中では神様です、伝説の神プログラマー。

増井:神に言われたら、そりゃついていきますよね。

GOROman:それで、実際にものが届いたのが2013年の3月。今までの経験上そこまで期待してなかったんですけど、使ってみて「これはヤバいぞ!!」と感じました。単体で見れば機能はまだまだでしたけど、Macに挿せばすぐに使えるシンプルさ、さまざまなSDK(ソフトウェア開発キット)の使いやすさ、Unityなどのゲームエンジンとの相性のよさ……それらの要素から、無限の可能性を感じました。

増井:しかも、安いんですよね。当初の価格ですでに300ドルほどで。

GOROman:そう、手頃さも重要です。それで僕は、とくに根拠もなく「こいつはインフラになる」って直感したんです。それは、初めてパソコンに触れたり、インターネットにつないだりした時に覚えた感覚と、ほとんど同じでした。だから、「これを早く日本に定着させないとヤバいな」と。

増井:インターネットと同様に?

GOROman:そうですね。日本のインターネットだって、慶應の村井純先生が主導して持ってきたり、孫さんが駅前でモデムを大量に配ったりしたおかげで、今の環境が整っているわけで。もしこれらがなかったら、日本は未だにダイヤルアップ接続だった可能性もあり得るんですよ。LINEのスタンプ1個送るのに10分かかるとか、気が狂うでしょ(笑)

増井:確かに(笑) そしたら、日本のビジネスは世界から相当な遅れを取っていたでしょうね。

GOROman:“情報鎖国”となって、時代と逆行していたかもしれない。それと同じで、僕はOculus Riftに触れたその直後から「VRが日本に根付かない、またはVR機器が手に入らないってなったら、めちゃくちゃヤバいぞ」と感じてしまって。それどころか「自分がOculusの中の人になって、日本に正規の販路を作って流通させないと、この国が終わる」って勝手に思い込んで、すぐにOculusにコンタクトを取ったんです。

増井:その執念はすごいですね……もはや自分のためとかじゃなくって、日本のために動いたわけだ。

GOROman:なんでしょうかね、どうしようもないくらいに危機感を覚えたことは確かです。日本でちゃんとVRを広めるために、ちゃんとしたVR機の販路を作りたかった。そうしないと、秋葉原のジャンク屋みたいなところで買うしかなくなったり、転売屋とか無茶苦茶な値段で売ったりするじゃないですか。

増井:Oculus Riftも一時期それで問題になりましたもんね。

GOROman:そういうのがすごく嫌だった。だから、日本でOculusの正規の流通ルートを整備して、ドキュメントも含めて全部ローカライズしたんです。

増井:地味に大事ですよね、仕様書を正しい日本語に書き換えたりとか。

GOROman:ガジェットとかそこまで興味のない人たちもVRを楽しんでもらいたかったし、VRのソフトを作れる人も増やしたかったんですよね。その頃はPSVRみたいに、他でまともなVR機が出てくる気配はなかった。だから、Oculus Riftを持ってくるしかなかった……これが僕のVRキャリアのスタートラインでした。

VRはもうすぐ「なくなる」?

GOROman:で、僕は近い将来、VRもARもなくなると思ってます。

増井:なくなる? それはどういう意味ですか?

GOROman:「消えてなくなる」のではなくて、「溶けてなくなる」という意味で。現代で「増井さんって、インターネット知ってます?」なんて聞かれないですよね。

増井:あーなるほど。それは聞かれないし、言わないです。

GOROman:そんなこと言ったら失礼ですよね。知ってるし、やってるに決まってるじゃないかと。でも、それって冷静に考えてみるとすごいことですよ。ちょっと前までは、わざわざISDN通して、プロバイダ契約して。

増井:そうそう、ISDNじゃ物足りなくてわざわざOCNの専用線引いてたな。

GOROman:DHCPのサーバー立てて、Linuxに入れて……そこまで自分でしないと、インターネットは使えなかった。大変でしたよね。ダイアルアップなんて、有線モデムつないで、「ピーギャギャラギャラー」みたいな音鳴らして、初めて繋がっていたじゃないですか。

増井:いい思い出ですけどね。思い出だからいいけど、今が常時128kbpsの世界だったらと思うと、ゾッとしますよ。

GOROman:それが今や、サーバーの知識なんかなくても、スマホを買ったら勝手につながる。現代において、インターネットは水道や電気と同様、インフラに近い存在にまでなりました。

増井:確かに、インフラだ。僕はよく周りに「空気と水はなくても頑張るけど、電気とWi-Fiはないと暮らせない」って言ってます。

GOROman:ですよね。飲み水はその辺で買えるし、トイレも公園にあるし。

増井:風呂も外で入れますから。でも、インターネットを1週間止められたら、おそらく発狂します(笑)

GOROman:1日でもヤバいですよ。日本からアメリカに向かう飛行機の中でWi-Fi使えないと、死にそうになる。もうね、『モンスターズ・インク』に出てくるエネルギータンクに向かって「あーーーーーーっ!!!」って叫びたくなりますよ。

増井:いや、あれ子どもの悲鳴集めるヤツでしょ、おっさんじゃダメだって(笑)

GOROman:つまり、生活の中の“当たり前”になると、わざわざ「パソコンすごい、インターネットすごい」なんて言わなくなる。VRもARも、今後そういった対象になっていきますよ。

増井:だから、今みたいにものめずらしい対象として「VR」って言葉が使われることは、なくなっていくと。

GOROman:そういうことです。

VRがもたらすのは「紙のメタファー/平面」からの解放

増井:近藤さん、先ほど「VRは生活を根本から変える」と言ってましたね。どのように変わるのか、もう少し具体的に教えてもらえますか?

GOROman:VRがもたらす変化は、一言でいうと「紙のメタファーからの解放」なんです。今のPCのデスクトップは、すべて現実の、極めて平面的な“ペーパーワーク”の世界観をそのまま電子化している。

増井:ドキュメントって呼ぶし、それをゴミ箱に捨てるし。

GOROman:そう、今のPCはモニターという平面世界にしばられているんです。皆さん、本とか資料をたくさん広げて作業したりすると「こういう時は現実の方が便利だ」って思いますよね。これをPCでやろうとすると、平面のモニターの中に、さらに平面のウインドウを並べることになる。

増井:あれはストレスフルですよね……いくつもウィンドウが重なっていると、今ほしい情報が何番目にあるか分からなくなってくる。

GOROman:まさにそれ。「おまえは今まで押したAlt+Tabの回数をおぼえているのか?」状態ですよ、そんな煽りなんか一切したかないのに(笑)。最初は平面でよかったんですよ。PCに現実的な紙のメタファーを用いたからこそ、コンピューターがよくわかない人でも感覚的に使えたわけで。

増井:そのおかげで、今は多くの人たちが日常的にコンピューターを駆使するようになりましたね。

GOROman:つまり、導入フェーズが終わったということ。コンピューターの作業スペースを、“平面/具象”から“空間/抽象”へと移行できる頃合いです。それを技術的に可能にするのが、VRなんです。VRがOSのように活用されれば、我々はモニターから開放されて、ウインドウに無理やり収められていたワークスペースを、空間で管理できるようになります。

増井:三次元的な空間に、ワードやエクセル、パワポなどをいっぺんに広げられるイメージですね。慣れれば、重力の制約がある現実より、確実に便利になりそうだ。

GOROman:もっと言えば、DTMのアプリを開いたら、目の前に楽器が出てきたりね。ここまでくると、もう魔法みたいなものですよ。でも、その魔法が現実になる日は、すぐそこまで来ています。

増井:未来感あるなぁ、ワクワクしますね。

GOROman:現状の課題としては、まずVR機の小型化ですね。結局、今みたいな被りものは重たいし、あれで外は歩けないし(笑)。それと、スペックの問題。まだシングルタスクなので、マルチタスクに対応できるように性能を上げること。そこまで持っていったら、あとは現実のデスクトップより便利なアプリを提供していく。このあたりが、今後力を入れていきたい領域のひとつですね。僕は勝手に「VROS」と呼んでいます。

増井:VRをOS的に機能させていく、ということですね。

GOROman:正確に言うと、VRだけじゃないんですけどね。VRとかARとかAIとか全部合体して、やっと人々がOS的に使えるようになると思っています。

増井:それは1人で作っていくんですか? それともチームで?

GOROman:そこが面白いところで……Twitterで声をかけたら、いろんな人たちが「面白いね」と乗っかってくれて。それぞれアイデアを出し合って、勝手にプラグインを作ってくれるんですよ。ちょうど、Linuxのバザール方式のような感じですね。中にはすごい人もいて「これ、正規に発注したらウン千万になるぞ」ってものもあったりして。コミュニティとしては、900人くらい集まってると思います。

増井:すごい! それってWeb世界のよさですよね。今までのプログラミングも「面白いから」って理由だけで、たくさんの人たちが無償で画期的なアップデートを生み出してきたわけで。

GOROman:おそらく僕らみたいな人種は、面白いものに手を出さずにはいられないんですよね。お金とか二の次で。近い将来、世の中はVRの力でグッと便利になりますよ。まだイメージできない人も多いかと思いますが、便利になったら“今までの不便さ”に気づいてハッとするはずです。だって、全自動洗濯機がある今、誰も進んで洗濯板を使いませんよね。

増井:でも、洗濯機が現れるまでは、みんな現状をそこまで不便だとは感じていなかったと。

GOROman:そういうことです。それこそ、今まで世の中を変えてきた企業家は、現状の不便さを“顧客の想像を超える形”で解消してきましたから。

増井:その文脈で言うと、自動車を社会に普及させたヘンリー・フォードの「もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」という言葉は、まさに示唆的だなと。

GOROman:そうそう。我々はもう、洗濯板にも馬車にも戻れないんですよ。それより便利な世界に飼いならされてしまったから。便利を知った人類は、こうしてどんどん怠惰になっていくんです(笑)。人類がVRに毒される日は、もうすぐそこに迫ってきていますよ……。

増井:そんな言い方しないでくださいよ(笑) いや、これからのVR周りのアップデート、本当に楽しみですね。

(構成:西山武志)

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