イノベーターが生き残る条件は? GOROman × IT芸人対談(後編)

IT芸人の異名を持つ、トレタの増井雄一郎さんが「今、気になる人」に直撃する連載。今回は、日本におけるVRエヴァンジェリストとして知られる、GOROmanこと近藤義仁さんの登場です。

VRが日本で普及する可能性について聞いた前編、GOROmanさんがOculusの「中の人」になるまでの経緯や現在の取り組みを語った中編に続いて、後編は「キャリア構築」がテーマです。

VR普及の鍵は「モテ」と「JK」、GOROmanさんに聞く(前編)
IT芸人の異名を持つ、トレタの増井雄一郎さんが「今、気になる人」に直撃する連載。今回は、日本におけ...

「早くVRを広めないと日本が終わる思った」GOROman × IT芸人対談(中編)
IT芸人の異名を持つ、トレタの増井雄一郎さんが「今、気になる人」に直撃する連載。今回は、日本におけ...

 

死ぬかもしれなくても、ふぐを食べる。それがイノベーター

増井:GOROmanさんの「テクノロジーは、JKが使い始めたらキャズムを超える(≒一般化する)」という説、とても納得しました。一方で「これはすごい!」と初期から使い始める人たちって、一般化する頃にはもう次のテクノロジーに目をつけてますよね。

GOROman:そういう人たちは、いわゆる“イノベーター”なんですよ。

増井:イノベーター理論(※)で、「新しいものを進んで採用する人」と定義されている層ですね。

(※)イノベーター理論:米・スタンフォード大学の社会学者・エベレット・M・ロジャース氏が提唱した、イノベーション普及に関する理論。消費者を商品購入の早い順に「イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード」という5つの層に分類し、新しい技術やサービスが市場に浸透する過程を説明した。

GOROman:イノベーターであるかどうかって、もう遺伝子で決まっていると思っていて。イノベーター層の人口は市場の3%弱だとされていますけど、あれもおそらく、神の見えざる手で調整されているんです。たとえば……いまって僕ら、普通にふぐ食べるじゃないですか?

増井:そうですね、おいしいですし。

GOROman:でも、ふぐって卵巣に毒があって、ちゃんと取り除かないと死にますよね。今は免許制になっていますけど、昔は調理法なんて確立されてなかったわけで、確実にふぐを食べて死んでいる人がいる。この文脈で言うと、「死ぬかもしれないけど、美味しそう!」って言って、ふぐを食べるのがイノベーターなんです。

増井:すごいわかりやすい(笑)

GOROmanさん

GOROman:なんなら死人が出た後でも、「うまいし、皆がみんな死んでるわけじゃないからな」って言って食べ続けている(笑)。イノベーターが食べているのを見て「大丈夫そうだな」と後追いしてくるのが、アーリーアダプター。「いや、うまそうだけど、死ぬかもしれないのは無理」と言うのがマジョリティ層で、「ワシは絶対に食べん!」と決め込んでいるのがラガード。

増井:そのたとえを聞くと「タイプは遺伝子で決まっている」という仮説もうなずけます。だって、人類みんなイノベーターだったりしたら、全滅しちゃいますもんね。

GOROman:かと言って、イノベーターがいないと革新は起こらず、世界は先細りする。きっと「種として発展していこう」というヒト遺伝子の総意によって、バランスよくタイプが振り分けられているんですよ。

増井:なるほどなあ。

GOROman:イノベーターとかラガードっていうのは、RPGで言えば「エルフ」「ドワーフ」みたいな分類と一緒だと思います。ジョブチェンジはできても、種族は変えられない。僕も増井さんも無理でしょ、明日から「新しいことするな」って言われたら。

増井:無理無理、絶対ムリ!

GOROman:そういうイノベーターが100人中80人くらい死んだ頃に「どうやら、卵巣に毒があるらしいぞ」と気付き始める。で、みんなでこれを取る方法を、あれこれと試行錯誤するんです。この間にも何人か死にますけど(笑)。それで最終的に「安全に卵巣が取り除けたぞ!」となる……ここがキャズム超えのポイントですよ。この知らせを聞きつけて、アーリーマジョリティが食べ始める。レイトマジョリティが乗ってくるのは、ふぐの調理師免許制ができたあたりからですかね。

増井雄一郎さん

増井:こう整理していくと、イノベーターって切ない生き物ですよね(笑)

GOROman:でも、毒味し続けないと、逆に死んじゃう層なんですよ。(笑) リスクがあること自体も楽しんでるから。クラウドファウンディングとかも、まさにそうじゃないですか。

増井:確かに。Kickstarterでも結構バック(≒出資)してますけど、半分くらい商品届いてないかも。ハードだけ届いて、ソフトが全然来ないヤツとかもあります。「ただの重たい箱じゃん」って。

GOROman:でも、届かないのがまたいいんですよ。10万円のガジェットにバックして「あんだけ大々的にPRしてたのに、一向に連絡もない……気持ちいい!」みたいな。

増井:完全に変態ですよ(笑) 届いても「なんだこれは別物か?」ってパターンもあるし。

GOROman:届いた瞬間、満足するパターンもありますね。子どものクリスマスプレゼントと一緒で、お願いをして届くまでが一番楽しい。いざ届いて開封した瞬間から興味のピークが過ぎ去って、3日後には遊ばなくなる……みたいな。

増井:でも、まだ世の何出ていないものをいち早く触れるっていうのは、止められないですね。

GOROman:それで僕もOculusに出合えてますしね。人生変えられてますよ。

増井:人生を賭けてるギャンブラーですね、イノベーターって。

生き残るために必要なのは、「運のよさ」と「“バックレ”力」

GOROman:確かに、イノベーターってギャンブラーだなと。ただ、イノベーターは別に「リスク自体が大好き!」って考えばっかりじゃなくて、ロジカルに最善を選択しているはずなんですよね。

増井:それ、すごくよくわかります。GOROmanさんも「行動力すごいね」って言われるタイプだと思うんですけど、合理的に考えて「動かない理由がない」から動いているわけで。

GOROman:多くの人は「できない理由」を考えるんですよ。「英語がしゃべれないから、アメリカには行けない」とか。でも、僕にとっては「何もしないことが一番のリスク」だから。何もしなければ変化も成長もなく、その先は緩やかな死を待つだけですから。

増井:リスクを取って真っ先に動いていくと、毒に当たって死ぬこともある……そう考えると、「死を待つか、死に急ぐか」の違いでしかないのかもしれませんね。

GOROman:そこで思うのは、大きな勝負をする時に重要な資質って……「運のよさ」ではないのなかと。

増井:ここにきて、まさかの「運」ですか(笑)。でも、よくわかります。どうしようもない“ハズレ”を引かないセンス、ですよね。

GOROman:そうそう。ふぐ食べても卵巣に当たらないこと。そういう運のよさって、「本当にヤバいもの」に手を出さない判断力や、「本当にヤバい状況」からバックレる勇気が支えているものかなと。

増井:バックレる勇気、いいですね。

GOROman:いや、“バックレ”力ってかなり重要ですよ。現実はゲームの世界のように都合よくいかないから、正義感で無防備にラスボスを倒しにいくようなヤツは全員死ぬんですよ。そこで「コイツは強そう、まだ全然敵わない」って判断して、卑怯だとか何だとか言われてもバックレられるかどうかが、成否ばかりか、時には生死を分ける。言ってしまえば、いま生き残っている人類は、ほぼバックレ組ですから(笑)

増井:どこで逃げて、どこで勝負するか……言葉にするとシンプルですけど、平坦な日常に慣れてしまうと、結構難しいことなのかもしれませんね。逃げるのも、勝負することも。

GOROman:大きな流れに身を任せて、みんなと同じでいる方が楽ですからね。新しい挑戦には、失敗や挫折がつきもの。それでも腐らずに、平常心を保たなきゃいけない。腐ったら、どんどん負のスパイラルに引きずりこまれますから。

増井:ツキが悪い時は、じっと堪えると。そこで投げやりになると、毒に当たっちゃう。

GOROman:逆に、ツキが回ってきたときや、「これしかない!」と感じたときには、思いっきりMAXベットする。

増井:ますますギャンブラー感出てきた(笑)。僕、全然賭け事とかはしないんですけどね。

GOROman:増井さん、会社作ってるじゃないですか。起業も賭け事みたいなものですよ、リスク取って勝負してるって意味では。どんなギャンブルよりも、起業が最もしびれる賭け事ですよ。

甘党が心を殺して10辛に慣れても、未来はない

増井:なんかイノベーターについて熱く語っちゃいましたが、実際は社会の3%にも満たないマイノリティなわけですよね、僕たちは。

GOROman:ただ、我々みたいなギャンブルはしなくてもいいから、もっとみんな、やってて楽しいことを仕事にしてほしいなと思うんですよね。今の日本社会には、すごく会社が嫌なのに我慢して行き続けている人って、めちゃくちゃ多いと感じていて。

増井:そうですね、仕事を楽しめてない人は多いな。

GOROman:これは持論ですけど、日本人って小さい頃から学校とかで“我慢”を美徳として叩き込まれているんですよ。皆勤賞とか、その表出でしょ。体育会系の部活で、練習中に水を飲ませなかったりする風潮もそう。体調が悪ければ休んだ方がいいし、運動をして汗をかいたら水分を取らなきゃいけないのに。この文化は、「我慢≒努力≒偉い」という認識から生まれていると思うんです。

増井:なるほど。

GOROman:だから、日本人は嫌なことを我慢しがち。本当は「カレーの王子さま」みたいな甘口が好きなのに、心を殺してココイチの10辛を毎日食べ続けている……そんな人が、日本にはたくさんいるんですよ。

増井:甘党が10辛に慣れたところで、明るい未来はないですよね。

GOROman:そうですよ、次が20辛になるだけですから。皆がみんな、好きでもないことを我慢して慣れちゃったら、それこそディストピアですよ。

増井:日々の業務に追われると、長期的なビジョンとか「自分は何がしたいのか」ってこと、見失いがちになりそうですね。スティーブ・ジョブズが言った「もし今日が人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを自分はやるだろうか?」という問いかけは、とても大事だなと。

GOROman:そうですよ。社会には数え切れないくらいの仕事があって、人にもそれぞれ役割がある。自分に合った仕事、役割で頑張ればいいんです。いまは会社に固執する時代じゃないですよ、大企業も潰れますから。

増井:会社の平均寿命は、人間の平均寿命より圧倒的に短いし。

GOROman:会社は潰れるものなんです。だから、やりたいことができないのなら、転職しましょう。それは逃げじゃなくて、合理的な判断です。

増井:長期的に考えたら、我慢してるだけの会社員生活なんて、リスクでしかないですよね。積極的なスキルアップも望めないし、やりたいことができる人生からどんどん遠ざかるだけ。

GOROman:そう、やっぱり「何もしないことが一番のリスク」ですから。

(構成:西山武志)