人気マンガのコマが自由に使えるウェブサービス「マンガルー」立ち上げ秘話

2017年2月、とあるウェブサービスが一時Twitterでトレンド入りするほどの反響を呼んだ。その名は「マンガルー」。利用者はユーザー登録するだけで、同サービスが利用許諾を得た作品に限り、マンガのコマをウェブサイトやブログ、SNSで使用できるのだ。

たしかに、Twitterのタイムラインでは、作家に掲載許可を取っていないと推測されるマンガを勝手にアップしている個人ユーザーをよく見かける。しかし、事前に誰かが利用許可をまとめて取ってくれれば、ファンは好きなマンガのコマを遠慮なく使えるので、とてもありがたいサービスといえるだろう。

「マンガルー」の立ち上げにはどのような背景があったのか? 同サービスを運営する株式会社ムーヤン代表取締役の渡邊健太郎さんに話を伺った。

マンガのコマが自由に使えれば、おもしろいことが起こると思った

「マンガルー」のサイト上で使いたいコマを選択すると、埋め込みコードが生成される。この埋め込みコードや共有URLを貼り付けるとコマが表示される

――リリース情報を知ったとき、ありそうでなかったサービスだなと思いました。このウェブサービスの特徴について詳しく教えてください。

「マンガルー」は、登録ユーザーが自分のブログやSNSで、当社が著作権許諾を得たマンガのコマを使える無料サービスです。メールアドレスや利用先のサイトURLといった情報を申請して、承認されると利用できるようになります。画像そのものを転載するのではなく、自社サーバーに保存したコマを、埋め込みコードか共有URLで表示できるシステムが大きな特徴ですね。コピーライトと電子書店へのリンクを表示することで、新しい作品を知ったり購入したりするきっかけにもなると見込んでいます。

――立ち上げのきっかけは何だったのでしょうか?

もともと私が、大日本印刷で電子書籍サービスの立ち上げに携わったとき、コミック系の出版社からマンガの使用許諾をもらう仕事をしていたんです。当時、掲載許諾をいただけた作品もあったのに、残念ながら途中でクローズすることになってしまい……。その経験もあって、電子書籍の領域で何かサービスを立ち上げたい、自分が大好きなマンガ界に貢献したいという思いがありました。

電子書籍関連のサービスといえば、真っ先に作品の販売をイメージしますよね。しかし、その領域にはすでにAmazonや楽天などの素晴らしいプラットフォームがある。販売ではなくどんなサービスがいいのかいろいろ考えていたところ、ふとインターネット上でマンガのコマが無断で使われているのをよく見かけるな、と。もしインターネットで使われているコマが書籍を購入する入口になったら、権利者も利用者も全員が幸せになるんじゃないか。そう思ったのが、「マンガルー」を立ち上げるきっかけです。

――渡邊さんご自身の経験が背景にあるんですね。

「マンガルー」のアイデアに至ったのは、大日本印刷での経験もそうですが、その後「ボケて(bokete)」を運営する株式会社ハロに入社したのも大きいですね。

「ボケて」は、写真に対して一言ボケを投稿していていくユーザー参加型のウェブサービスで、名前も知らない人たち主体となってボケを作っていく過程を見て、「CGM(Consumer Generated Media)サービスはおもしろいな」と思ったんです。

それに対して、マンガってとてもクローズドなコンテンツというか、これまでは基本的に1回読んだら終わりじゃないですか。そんな状況に対して、ユーザーがマンガを使って何かできたらおもしろいんじゃないかと思い、ユーザーがマンガのコマを活用してコンテンツを生み出せるサービスにしました。

――『賭博堕天録カイジ』や『ポプテピピック』などメジャーな作品もラインナップされているので、リリース直後からかなり反響があったのでは?

ノンプロモーションなんですが、いろんなメディアで紹介してもらえたり、Twitterで話題にしてもらったりしました。ありがたいことに、登録ユーザー数は順調に伸びています。

意外だったのが、Twitterでの利用が一番多い点ですね。リリース当初は、ブログやメディアで記事内に埋め込むために使われると思っていたので。

著作権の許諾、その裏側はどうなっている?

――サービスの立ち上げにあたって、最も苦労したのは権利者から使用許諾をもらうことだと思うのですが、どのように進めていったのでしょうか?

最初は、大日本印刷時代に築いたつながりを使って、出版社に直接「マンガルー」の説明をして、許諾を得ていきました。最近は認知度が少しずつ上がってきたので、出版社や作家さんから問い合わせをいただいて、説明しに行くことが多くなっています。期間限定の作品も含めると、現時点では74作品の使用許諾が取れています。

スマホでは、画像をタッチすると2秒間、作品クレジットと書店リンクが表示される

――1コマだけ抜き出して使用することに厳しい著作権者もいますよね。出版社側の反応はいかがでしたか?

反応はさまざまですね。作品は大切なコンテンツなので、一般の人に自由に使わせることに対して抵抗感はあったと思います。その一方で、マンガのコマが不正に利用されている現状も知っていて。だからこそ、「マンガルー」は画像そのものを転載させるのではなく、コマを自社サーバーに保存する形を取っています。販促につながる書店サイトへのリンクといった仕組みまで説明したら、出版社も理解を示してくれましたね。

そうすると、この空気感は電子書籍が普及し始めた頃と似たところがあると感じ始めました。当時、紙だけに向き合ってきた出版社や作家は電子書籍に対して懐疑的だったのですが、今では一般に広く浸透し電子書籍の出版も当たり前になっています。

自由にマンガのコマを使えるようにすることで、「作品について何か悪いことを書かれるのではないか?」と懸念されている出版社もいます。ただ、ユーザーが「マンガルー」をおもしろがって使ってくれることで作品の売上に貢献できれば、コンテンツホルダーである出版社はもっと多くの作品に許諾を出してくれるのではないかと思っています。

――意図しない形で作品が使われるリスクを下げるために、サービスの登録で審査を設けているのでしょうか?

そうですね。公序良俗に反するサイトでの利用は規約で禁止しており、審査ではじいていますが、念のため各サイトを巡回して問題ないかを確認しています。人力には限界があるので、申請したサイト以外で使用された場合にわかるような仕組みも設けました。作品を守るために、そこはしっかり対応していかなければならないポイントですね。

コンテンツホルダーとユーザー、双方の課題を解決できる存在に

――お話を聞いて、「全てのかく(書く、描く)人のために!」というコンセプトどおり、出版社や作家、そしてユーザーの三方にメリットがありそうだと感じました。

ありがとうございます。これまで書評を書いてもらう場合は、出版社や著者がたくさんのメディアに献本して、どこかが記事にしてくれる形が主流でした。でも、SNSの普及によって、ここ数年“個人の発信力”が格段に強くなっています。そういう意味では、「マンガルー」を使って個人が書評を書いてくれたり、口コミを投稿してくれたりする可能性が高まれば、販促の場が広がると思っています。

――現状、ネット上では著作権侵害にあたる画像転載をしているケースをあちこちで見かけますが、「マンガルー」はそういった違法行為の抑止力になると思いますか?

不正利用する人はずっと不正利用し続けると思っています。逆に、著作権をしっかり守っているユーザーが「あのマンガのコマを使いたいけど著作権が心配……」という状態であるのは、すごくもったいない。そういう人が安心して使えるサービスになればいいな、と。

――ちなみに、「マンガルー」はどうやってマネタイズされているんですか?

実は、まだまったくマネタイズできてないんです(笑)。一応、アフィリエイトを導入していますが、マンガ1冊の売上から得られる収益は微々たるもので、これだけではビジネスになりません。ただ、ウェブマーケティングを手掛ける株式会社ヤンも一緒にムーヤンを立ち上げた株式会社ムービングスクワッドも、お互いに本業で収益が得られているので、「マンガルー」はその収益をもとに、じっくり腰を据えて成長させていこうと思っています。

――具体的な今後の展望を教えてください。

とにかく、より簡単に利用してもらえるサービスにしたいですね。いちいちスマートフォンに画像を保存して、カメラロールから選択して……なんてのが面倒に感じるくらい、手軽なサービスにしたい。たとえば、iTunesは簡単で使いやすいから、海賊版を不正にダウンロードするよりも、お金を払ってちゃんと買う後押しになっていると私は思っています。「マンガルー」もそこを目指していければいいな、と。

あとは、ありがたいことにリリース当初からたくさんの声をいただいていまして、なかには「『ドラゴンボール』と『ジョジョの奇妙な冒険』はマストだからよろしく!」みたいなご意見もあるのですが(笑)、ユーザーの声に耳を傾け、より使いやすいサービスにしていきたいですね。

これはまだ構想段階ですが、切り抜いたコマにコメントを書き込めるようにしたり、作品の特集ページを作ったりと、機能改善にはどんどん着手していこうと思っています。そして、ユーザー数や配信作品数を伸ばしていきたいですね。人気作品だけでなく、あまり知られていないマンガもラインナップに加えて、1人でも多くの人にマンガの存在を知ってもらうだけでなく、売上にも貢献していきたいです。

――ありがとうございます。いちユーザーとして、今後の展開も楽しみにしています!