キュレーションメディアが抱える問題をクリアして読者に届ける――講談社の女性誌コンピレーションメディアが掲げる使命

“出版不況”が叫ばれて久しい。そんななか、講談社の2016年度決算は、3年ぶりの増収増益となった。その軸の一つとなったのが、同社が長年取り組んできたデジタル事業と版権ビジネスだ。

今回は、講談社のデジタル分野における新しい取り組みの一つ、AI技術を活用した「コンピレーションメディア」について、ライツ・メディアビジネス局デジタルソリューション部副部長の織田順一さんに話を伺った。2010年にIT業界から経験者採用で講談社へ入社した織田さんは、全社のデータ基盤構築や、AI領域のスタートアップ企業への出資など、同社のデータ活用を推進してきた人物だ。

コンピレーションメディアに、織田さんが描く新たなビジョンとは――。

 

読者のニーズに応えつつ、キュレーションメディアの問題点をクリアする……新しいメディアへのトライ

女性誌コンピレーションメディアの運営を担うDK Mediaは、「価格.com」などの消費者発信型メディアを手がける企業を傘下に持つデジタルガレージと、講談社の合弁会社。2社が持つノウハウとテクノロジーを融合させた、新たなメディアを目指す

――「コンピレーションメディア」という新しい概念について、気になることが山ほどあります。まず、立ち上げのきっかけは何だったのでしょうか?

紙の雑誌全体の売上は、約20年間ずっと前年割れです。今のままだと、雑誌を買わない層が増えて、売上がもっと落ちていくだろうなと思います。一方で、『MERY』のようなキュレーションメディアの利便性がユーザーに受け入れられているという認識は、数年前からありました。

――コンピレーションメディア立ち上げの発表を知ったときに、やはりキュレーションメディアを強く意識されていると思いました。

そもそも、デジタルガレージと講談社の合弁会社であるDK Mediaを設立したのが2016年8月。『WELQ』の騒動に端を発するキュレーションメディア問題が表面化する前でした。

コンピレーションメディアの立ち上げを検討し始めたのは、さらにこの2~3年前。その頃からすでに、キュレーションメディアがコンテンツの権利処理をしないまま記事配信している点に疑問を感じていました。

出版社は、取材をしたり校閲を通したりと、コストや手間をかけてコンプライアンスと信頼性を担保したコンテンツを出しています。そうやって作ったコンテンツを引用し、組み合わせて発信しているメディアは、コンプライアンスと信頼性を誰がどうやって担保するのかな、と。ただ、ツールとしての利便性がユーザーの支持を集めていたのは事実だと思います。

――いまだに公開停止を惜しむユーザーが多くて、“MERYロス”なんて言葉もありますよね。

従来のキュレーションメディアに問題があると理解しているものの、ユーザーがいまだに『MERY』のようなメディアを求めている感覚はあります。なので、従来のキュレーションメディアとは異なる、「コンピレーションメディア」を作ることにしました。大まかに言うと、コンプライアンスと信頼性が担保されたコンテンツだけを集めて、ユーザーに個別最適化して届けるというコンセプトです。

――キュレーションメディアとの大きな違いは、自社コンテンツを組み合わせ、新たに最適化されたコンテンツに再編集して読者に届ける点でしょうか?

繰り返しになりますが、キュレーションメディア騒動で問題になった点は大きく2つあって、コンプライアンスと信頼性です。コンプライアンスについては、著作権を侵害してコンテンツを勝手に使うのは出版社として許されないことなので、当然ながらこれを担保します。信頼性については、「これって本当なの?」という情報に関して、編集や校閲の機能でフィルターがかかったコンテンツだけを使う。ここが、従来のキュレーションメディアとは異なります。

ここに関しては、今まで蓄積してきた雑誌づくりのノウハウを生かしている部分。「コンピレーションメディア」ではそれに加えて、テクノロジーを活用した配信の個別最適化を追求します。従来のキュレーションメディアは、一部を除いて、まだAIを活用できていませんでした。

――確かに。クラウドソーシングで記事制作を発注していて、いわば人力ですよね。

そうです。そうやって大量に記事を制作しているものの、配信の個別最適化はまだこれからだと聞いていて、そこはチャンスだなと思いました。講談社は2016年11月に、自然言語処理と機械学習に強みを持つ白ヤギコーポレーションと資本業務提携しました。白ヤギコーポレーションが持つアセットをうまく活用し、コンテンツ配信の個別最適化の基盤を構築しようとしています。「コンピレーションメディア」は、データとAIを活用して、コンテンツを客観的に評価する試みでもあります。

「コンピレーションメディア」は、コンテンツデータやユーザーデータ、AIを活用して、コンテンツを客観的に分析し、評価するシステムも兼ね備えています。雑誌には難しかった、かといってウェブメディアでも十分とは言えなかったコンテンツの評価について、より踏み込んだシステムを構想しています。

――そのコンテンツ評価システムについて、もう少し具体的に教えてください。

紙の雑誌は、何よりもまず実売部数で評価されます。さらに、アンケートでコンテンツ単位の評価もします。そういった評価の蓄積でクリエイターの“評判”も定まってきますが、どうしても定性的な評価だけになってしまい、雑誌が売れた・売れなかったの定量的な評価が難しい。

一方、ウェブメディアはコンテンツ単位で細かい定量的なデータが取れるものの、結局はPVがすべてになりがちで、なぜそのコンテンツのPVが伸びたのかを定性的に評価できていません。両者の欠点をクリアして、コンテンツを客観的に評価・フィードバックする仕組みを「コンピレーションメディア」で実現していければと考えました。

テクノロジーを活用しても、最終的な責任を持つのは人間

――雑誌がなぜ売れたか、売れなかったのか、わからないことが“出版不況”と呼ばれる状況につながった一因だとすれば、そのソリューションとして客観的指標を持ち込むというのは興味深いですね。

もちろん講談社はこれまでもクリエイターを重視して、お互い評価・フィードバックしながらいいコンテンツを作り続けてきましたし、これからも同じです。そういう意味では、「コンピレーションメディア」構想はあくまで今までやってきたことの延長です。ただ、データに基づいて、より客観的に評価する仕組みは有意義ですし、AIをうまく活用すれば実現できるのではないかと。それが、今回のプロジェクトの使命だと考えています。

しかし、コンテンツの良し悪しをAIが評価できたとしても、最後は人間が責任を持って判断するしかありません。これを担うのが「コンピレーター」の役割です。記事を完全自動生成して配信するのではなく、コンピレーターがコンテンツの質に対して責任を持つことが、メディアとして信頼されるために必要不可欠なんじゃないか、と。

昨今、Googleアドセンスでも問題になりましたが、望まれないコンテンツに自社の広告が表示されたことで、大手クライアントの出稿ボイコットが起こりました。これは、アルゴリズムによる自動化に任せすぎたがゆえの出来事だと思います。

――やはりそこはAIに任せるんじゃなくて、人の目を介することが必要である、と。

そうですね。責任を持ってユーザーと向かい合うこと。個人的にはこの責任が鍵だと思っています。誰かが責任を持って発信していく大変さは、出版社として常にやってきたことなので十二分に理解しています。デジタルの世界においても、講談社が積み重ねてきた知見が、ユーザーと真摯に向かい合う核になると期待しています。

――責任を持ってテクノロジーを運用するというのは、これからのメディアにとって重要なキーワードになってきそうですね。

テクノロジーを否定するわけではありませんが、やはりノウハウのある人間が見てあげないと、本当の意味で現実世界まで寄ってこないのではないかと感じています。どうやったらテクノロジーと人間がうまく融合していいコンテンツを作り出せるのか、私も日々頭を悩ませています。

コンテンツと、それを作ってきた人の「愛」を伝えたい

――読者にとっては、雑誌の枠組みを超えてコンテンツが読める「コンピレーションメディア」の仕組みは、非常に便利だと思います。でも、果たして出版社として望ましいかは、また別の話ですよね。今回の取り組みに対して、社内の反応はいかがですか?

雑誌の既成概念を覆す取り組みなので、さまざまな反応がありました。でも、雑誌を買わない層が増えているのなら、やり方や考え方を変えていくしかありません。弊社社長の野間が提唱している、“出版の再発明”への挑戦です。

――現状のデジタル施策では、既存の雑誌ごとの電子版というスタイルが確立していますよね。「コンピレーションメディア」との両立をどう考えていますか?

いろんな形があっていいと思っています。雑誌の読み放題もやはり読者のニーズをつかんでいるわけですし、書店以外にもチャンネルが広がるのは非常にありがたいことです。それはそれで提供しつつ、新しい形でコンテンツを届ける試みだと考えています。紙の雑誌と電子書籍、そして新たに「コンピレーションメディア」です。

――同じコンテンツでも届け方に選択肢を設けて、読者に最適なものを選んでもらうわけですね。ここまでお話ししていて、今までできなかった道をズバズバ突き進んでいくような印象ですが、それができるのは織田さんがIT業界ご出身だからでしょうか?

他の業界を経験したことで、ある程度客観的に自分の会社を見ているところはあるかもしれません。出版社に新卒で入社する人は、100%「本が好き」です。本に対する愛があり、本を通して伝えたいことも山ほどある。クリエイターや作家と人間関係を築きながらいいものを作っていくっていうのは本当に大切なことだし、他業界の人間にはなかなか真似できないものです。そうやってできたコンテンツと、それを作ってきた人の愛が、どんな仕組みだったら読者に伝わるかを常日頃から考えています。

そのためには、今までのように紙の本を売るという考え方から、コンテンツを伝えるという考え方にシフトする必要があります。そうなると、コンテンツはもちろん、読者もデータとして捉えなければいけません。コンテンツを伝える仕組みをデータの流通と捉えると、その基盤が確立できることで生まれる効果は、読者へ伝わることだけではありません。これまでのような広告掲載による雑誌ビジネスの枠にとらわれずもっと幅広い形で、雑誌ビジネスのお客さまである企業のマーケティングにもお役に立てるのではないでしょうか。

データを活用してマーケティングしたり、会員組織を作って様々なイベントを開催しながらファンを育てたり、すでに多くの企業が当たり前のようにそういった取り組みをしています。今後はお客さまと一緒になって、データを活用したマーケティングを実践したり、会員組織を融合させた取り組みを実行したり、そういったコラボレーションがどんどん生まれたらいいなと思っています。白ヤギコーポレーションのAI技術といったオープンイノベーションを活用し、その基盤となるデータの管理・活用の仕組みを構築するのが今の私のミッションです。

――コンテンツもデータであり読者もデータであるという考え方は、出版業界では先進的な気がします。やはりこれは、今後の出版ビジネスにおける危機感から生まれたものなのでしょうか?

業界的に見ても、講談社は電子書籍を中心にデジタル化には相当早く取り組んできました。私見ですが、社長の野間がまだ40代なので、自然と向こう20年~30年ぐらいを見据えているのだと思います。結果的に、講談社は新しい挑戦への理解がある会社と言えると思いますし、やりがいがあります。

今回の取り組みに限らず、いろんな仕組みを模索するのは、講談社が出版業界全体を見てやってきたことであり、今後も続けていきます。たとえ「コンピレーションメディア」がうまくいかなくても、そこから得たことをもとに、また違った形にトライするでしょう。常に変わっていかなくてはという意識があります。まずは、この「コンピレーションメディア」は2017年前半の提供開始に向けて、新たな試みがうまくいくように、仕組みづくりから着実に進めていこうと思います。