「ネット炎上対応が、企業イメージを左右する」 損保ジャパン日本興亜の“ネット炎上保険”

インターネット上で非難が殺到する“ネット炎上”。SNSが普及した今、企業は生活者の信頼を損ねて大きなダメージを負うことがある。

そんな炎上のリスクを回避し、最小限に留めるべく、損保ジャパン日本興亜が発売した「ネット炎上対応費用保険」が注目を浴びている。いったいどんな保険サービスなのか? 企業商品業務部賠償保険グループ課長代理の大野真樹さんに話を聞いた。

ネット炎上件数は5年で10倍に

――「ネット炎上対応費用保険」は、画期的な保険商品だと思いました。まずはどういったサービスなのか、詳しく教えてください。

スマホの性能向上やSNSの普及で、ネット炎上の件数は、2010年頃からおよそ10倍に増加しています。そこで今後、ますます炎上件数が増えていくのではないかと考えていました。

炎上の背景はさまざまです。メーカーが製造物に何らかの欠陥があって炎上してしまうケースでは、本来そういう事故が起きないように注意すれば防げます。でも、従業員の不適切な投稿や情報の漏洩、異物の混入はどうでしょうか? 炎上に至る背景すべてを企業が防止するのはなかなか難しいですよね。

そこで、炎上の発生後に対応できる何らかのサービス付き保険を提供できないものか。こう考えたのが、ネット炎上保険のきっかけです。炎上後にどんな対応をすればいいのか迷う企業も多いので、単純にお金を払うだけではなく、アドバイスや金銭面の補償を同時に提供できるような商品を作れないかと検討を開始しました。

炎上が発生すると、各種原因の調査についてコンサルティングを依頼したり、対応窓口となるコールセンターを設置したり、メディアへのお詫び文書の掲載や記者会見を開いたりといった対応が必要になります。

そもそも、この保険の特徴は大きく分けて二点あります。一つは炎上事故後のサービスとして、弊社のグループ企業でリスクコンサルティングを行うSOMPOリスケアマネジメントとリスク検知に特化したビッグデータ解析を行うエルテスと共同でお客さまにサービスを提供できる点。もう一つは、サービスにかかった費用が保険で支払われる点です。

もちろんこの2社でなくても、補償費用はお支払いできます。ただ、まずどこに相談すればいいのかわからない企業が多いと考え、無料でその相談ができるサービス付帯の形にしました。

――昨年12月に、SOMPOリスケアマネジメントとエルテスが「ネット炎上対策パッケージ」の提供を開始しましたね。

こちらも弊社が関わっています。本パッケージでは、エルテスが提供する 有料の24 時間 365 日体制の「Web リスクモニタリング」に、万が一炎上が発生した場合の緊急対応サービスがセットされています。事故時にかかる緊急対応費用を弊社がエルテスに対して支払うことで、お客さまは追加費用を支払わずに済むもの。エルテスとお客さまの間で約定、つまり取り決めがあり、それを履行するためにかかる費用を弊社が保険金として支払います。なかなかマニアックな保険ですね。

この保険はお客さま自身が保険に加入していません。エルテスが弊社と保険契約を結んでおり、実は事故後の対応にかかった緊急対応費用がその保険で支払われます。一方、「ネット炎上対応費用保険」は、炎上が発生したときにかかった費用を保険金としてお客さまに直接お支払いします。そこに、エルテスのネット炎上対応支援やSOMPOリスケアマネジメントの緊急時マスコミ対応支援に関するサービスが自動付帯する商品です。

定義が難しいネット炎上、保険加入審査では“事故歴”も加味

――この保険では、何をもってネット炎上と定義しているのでしょうか?

炎上の定義を一概に決めることはできません。たとえば、「ネガティブな書き込み件数が100件になったら炎上」かというと、そうではない。企業の規模によっても変わってきます。「普段の投稿数がおおよそ100件で、10倍になったら炎上」と定義してしまうことは簡単ですが、なかにはたった1件でも今後の企業活動にとって重大な炎上リスクに発展するような投稿もありますよね。

画像付きで「食品の中にこんなものが入ってた」とTwitterにアップされたら、それだけで炎上の恐れがある。そういった投稿を見逃さないよう平時からモニタリングしておくのが、炎上拡散を防止するのに最も必要です。そういう理由から、第三者によるモニタリング機能を入れるのがこの保険の加入条件になっています。そのモニタリングで、炎上かどうかを判断しています。

――具体的にはどのように判断するのですか?

モニタリングサービス会社と被保険者の間で、「この条件に合致したときは、被保険者に緊急通知を出します」という基準をあらかじめ決めてもらいます。そしてモニタリング会社が、その企業に関する投稿の状況を定期的にチェックするんです。単純にネガティブな投稿数が何百件になったら通知するとか、「異物混入」といったワードが1件でもあれば通知するといった基準も設定します。

モニタリング会社さんと決めてもらって我々はその内容を見させていただいて、たとえば通知基準が緩ければ緩いほど炎上と認定されるリスクって増えるので、その場合は保険料が高くなりますね

モニタリングにかかる費用は炎上による事故発生前の費用なので、保険での補償はできません。モニタリングサービスを利用されてない場合、保険料とは別に費用が発生しますが、最近はSNSで新商品の反応をチェックするなど、マーケティングの一環として導入している企業も多いと聞きます。炎上を拡散させない事後対応も大切ですが、何よりいち早く炎上の気配に気づいて対応するのが一番の炎上防止策だと思います。

――保険に加入できないケースはあるのでしょうか?

加入条件は、モニタリングサービスを導入しているかどうかだけなので、基本的にはすべての企業をお引き受けしたいと考えています。ただ、業種や企業によっては、審査のハードルが上がるケースもあると思います。炎上リスクがほかに比べて高い業種もありますので。

――芸能関係は炎上リスクが高そうな業種ですよね。プロの記者が追いかけていて、そのスクープきっかけというケースもありえますし。

そうですね。あとは、炎上商法というか、あえて炎上させる手法もあります。そういう企業だと、審査は厳しくなるかもしれません。

――たとえば、ウェブ業界でも炎上マーケティングをしている個人がいますよね。そういった方が法人化していて、加入したい場合はどうですか?

過去の炎上歴を調べて、個別に対応させていただくことになります。ただ、もともと故意の炎上は免責事項なので。

――難しいですよね、周りに炎上商法だって言われたとしても、本人が認めないケースも……。

企業でも歯に衣着せぬ社長もいますし、そこは事故歴次第で判断させていただくことになるでしょうね。対象業種に関しては、BtoCビジネスを展開している企業のほうがBtoB企業よりも炎上リスクは高いので、必然的に保険料は高めの設定になります。また、売上高や従業員数が多ければ多いほど保険料は高くなります。アルバイトの学生スタッフまで行き届いた教育を施すのはなかなか難しいですし、「何かあったら辞めればいい」という考えのスタッフもいると思いますので。

――ちなみに、従業員が1人でも法人化していれば加入できますか?

もちろん検討はできます。ただ、個人事業主向けは想定していません。個人向けの要望はネット上で見かけますが、直接の問い合わせはまだありません。

――保険料や支払額は、大まかにいくらくらいなのでしょうか?

保険料は、支払限度額を1,000万円にした場合、年間で平均50万円~100万円です。支払保険金額は1,000万円くらいを想定していますが、ご希望によって1億円くらいまで引き受け可能です。

我々の調べでは、1カ月あたりの炎上対応にかかる費用はおよそ300万円。かつ、約3カ月で炎上が収束するというデータがあります。1,000万円あれば1回の炎上には耐えられるという試算ですね。ただ、企業の規模や対応方法によっても、炎上対応にかかる費用は大きく変わります。新聞紙面にお詫び文を出すならどんな大きさで全国何紙に載せるか、とか。

――どういったメディア対応をするかで、費用が大きく変わりそうですね。

そうなんです。一例ですが、全国紙5紙と東北・西日本エリアに19センチ×17センチほどのサイズで掲載すると、約3,000万円の費用がかかります。カラーになると、サイズによっては1億円を超えてくる。新聞に掲載するお詫び文は「緊急告知」の記事扱いで、通常時の広告出稿より費用は高くなるそうです。企業によってどこまで対応するかは変わってきますが、メディア対応の費用ってみなさんの想像以上にかかるんですよ。

テクノロジーの進化とともに増える“ニューリスク”

――すでにネット炎上保険の契約を結んだ企業は何社くらいいるのでしょうか?

契約件数ははっきりとお伝えできないのですが、見積のご要望も数百件レベルで頂戴しています。

――ネット炎上保険の開発に至るまでに、ネット炎上保険のニーズや具体的な要望があったのでしょうか?

いいえ、私の思いつきですね。アイデアが浮かんだのは1年ほど前で、同時期にいくつか新しい保険を考えていたのですが、保険料の設定や加入企業条件といった基準のロジックが作れないと商品化できません。形にできたのはこれだけですね。こういった何らかの“ニューリスク”に対して、保険を使ったサポートできないかを日々考えるのが、私のいる企業商品業務部の仕事です。

――“ニューリスク”とは?

たとえば、AIのような新しくできた技術や製品に関するリスクです。過去に、先日販売を開始した「ロボット保険」や「ドローン専用保険」「自動運転の保険」、サイバー攻撃のリスクに備える「サイバー保険」なども開発しました。

――テクノロジーの進化と密接に関わる仕事ですね。今後、ネット炎上の件数がさらに増えて規模が大きくなっていくと、それに伴って炎上の対応の費用も高額になっていくのでは?

高額化の可能性はあると考えています。ただ、それはネガティブな側面だけではありません。たとえば、製品のリコールで最後の一台まで必死に回収することが、炎上の沈静化よりもむしろ企業の評判を上げる可能性もある。炎上自体を否定的に捉えるのではなく、逆に炎上対応次第で企業への評価が高まるケースがあるため、炎上対策に費用をかけていく企業が増えていくのではないかと考えています。

――誠実な対応が信頼回復にとどまらず、チャンスにもなりえる、と。

はい。だからこそ、それを費用面でもサービス面でもサポートしていければな、と。この保険は、単なる費用補償ではなく、サービスを提供するのがポイントです。ネット炎上は、対応を間違えると会社の倒産危機に陥る重大なトラブルなので、そこを私たちがしっかりサポートしていくことで、ネット炎上保険以外のお付き合いが広がってくることを期待しています。

私たちは現在、IoTやビットコインに使われているブロックチェーンなど、既存の保険では対応できないリスクについて日々勉強しています。大事なのは、開発チームがいろいろ調べてどんなリスクがあるかを洗い出し、それに対してどんな保険が提案できるかを常に考えること。これからもお客さまの安心につながる商品を提供していきたいですね。