「“勝ち戦”はしない」 トップクリエイター・佐藤ねじさんに聞く、発想法とアイデアへのこだわり

アクセス数の増加や時間の経過に連動して文字がかすれてページが黄ばんでいく「みんながアクセスすると劣化する記事」、一見ただのレシートなのに実は妻へのメッセージになっている「レシートレター」、燃え盛る炎の中に信長らしき人影が浮かぶ「本能寺ストーブ」……。こういったユニークなアイデアを次々に実現しているのが、ブルーパドル代表の佐藤ねじさんだ。前職のカヤック時代から、人気クリエイターとして各方面で活躍している。

あっと驚くようなコンテンツを次々と生み出すさまは、いかにも天才肌のように見えるが、本人はあくまで“コツコツ派”だという。それを示すように、著書『超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方』では、日々こまめにメモを取ることでアイデアを生み出す発想法を披露している。斬新なアイデアを考え出す方法とは、いったいどのようなものだろうか? ヒット作を出し続けるための発想法について話を聞いた。

佐藤さん流アイデアを生み出すノート術とは?

――佐藤さんのノート術を簡単に説明すると、まずアイデアの種になりそうなことを見つけたら即座にメモを取り、その中から選りすぐりのネタだけを特別なノートに書き移す。そして、特別なノートを頻繁に見返すことで、アウトプットに生かす。これは、博報堂ケトルのクリエイティブディレクター・嶋浩一郎さんの著書『嶋浩一郎のアイデアの作り方』にインスパイアされた方法で、普段からメモを取るノートを「2軍ノート」、特別なノートを「1軍ノート」と呼んでいますよね。それぞれのノートの使い方を、もう少し詳しく教えてください。

2軍ノートは、ありとあらゆるシチュエーションでメモを取ります。インターネット上でおもしろいコンテンツを見つけたときはもちろん、映画を観たり音楽を聴いたり、雑誌や本、マンガを読んだりしたときも、後で企画を考えるときに役立ちそうなネタを見つけたら、書き残すようにしていますね。

アイデアをメモした2軍ノートは、週1回1時間ほどで精査します。「このアイデアはそのまま使えそう」とか、「こちらはちょっと膨らませないといけないな」とか。僕の場合、そこから1軍ノートに書き移す基準は「思わず人に言いたくなるコンテンツに化けそうなアイデアかどうか」。島耕作のスケジュールや秘密の写真が見られる「社長 島耕作のスマホ」や、突然フォローして5日間くらい経つとフォローを解除するTwitterアカウント「鳥インフルエンザbot」も1軍ノートのアイデアです。

――2軍ノートはテキストのみですが、1軍ノートはアイデアをイラストにしているんですね。

アイデアを具体的な形にするには、ノートを頻繁に見返すことが重要です。ノートを見るモチベーションを維持するためにも、イラストで見やすくするのがオススメですね。僕の場合、文章だけだとどんな内容だったか思い出すのに時間がかかりますが、イラストなら見た瞬間にパッと思い浮かべられるので。

――著書では「メモの取り方を試行錯誤するのが好き」と書かれていましたが、現在も佐藤さんのノート術は進化し続けているのでしょうか?

日々変わっていますね。ここ1カ月くらい試しているのは、「iPad Pro」と「Apple Pencil」です。これがなかなかいいんですよ。今までは紙のノートを使っていましたが、Apple Pencilがあると、iPad Proにノートと同じような感覚で書けるので、2軍ノートのデジタル版として活用しています。自分の肌に合う方法を見つけるには、デジタル・アナログ関係なく、いろいろ試し続けることが大事です。

――1軍ノートのアイデアを形にするコツはありますか? たとえば、クライアントから依頼される仕事には、細かな条件や要望もありますよね。

クライアントワークに限らず、物事には必ず何らかの制約はあるものです。個人制作だって、お金をそんなにかけられないといった事情はありますよね。クライアントワークであれば、とにかく“バズる”ことが大事なのか、会社や商品を詳しく知ってもらうことが目的なのか、ターゲットは誰なのか、ウェブの記事なのか、イベントなのか。

それらを要件として設定し、1軍ノートのアイデアと組み合わせてみる。そうすると、要件をクリアしつつ、自分がおもしろいと思ったアイデアがハマりそうな企画が見えてきます。要件にマッチしないアイデアをこじつけようとすると、クライアントの求めるものからずれた提案になってしまいます。流行っているからという理由だけで、むやみにARやVRを要件に盛り込むのも、自分らしいおもしろさが足りないので、いい企画とは言えません。

チーム内でアイデアの“壁打ち”をする

――著書では個人でのアイデア出しについて書かれていますが、チームでは方法が変わりますか?

チームで行うブレインストーミングは、それぞれアイデアを“壁打ち”できることが利点ですね。自分のアイデアを出すだけで終わりではなく、そのアイデアをおもしろいと思っているうちに誰かにぶつけてみる。もちろん、その逆もあります。相手からアイデアを投げてもらう場合、よりよい形に変化させるために、「こういう技術があるから、こういう風に使ったらおもしろいね」といった解釈を投げ返します。日常的にブレストできる仲間がいるといいですね。その意味では、僕にとっては一番身近な妻がクリエイターなので、とてもありがたく感じています。僕のブレストに根気よく付き合ってくれますから。

さらに、いい返しをしてくれる人がいるかも重要ですよね。ものすごく自信があるアイデアでも、「ふーん」っていう反応だけだと、不安がよぎるじゃないですか(笑)。もちろん、めちゃくちゃいい反応があったものが、必ずしも世の中でウケるとは限りませんが。説明ではピンとこないけれど、形にしたらウケるものもあるから、そこは出してみないとわからないんですけどね。

――仲間内で好評だったものが世の中でウケるのか、ジャッジする指標はないのでしょうか?

「この人にウケれば確度が高い」という人を見つけることですかね。そういう人は世間でウケるものに対しての感度が高くて厳しいから、気持ちのいい評価が返ってくるとは限りませんが。僕もどちらかというと、全部ポジティブに返すよりも、しっかりとした企画になるまで、一定以上のラリーを続けることを心がけています。

ただ、気分上げることが目的の壁打ちも必要です。世間にウケるとは限らないけれど、いい反応を返してくれる人がいることは、アイデアを出すことのモチベーションにつながりますから。

身近に壁打ちできる人がいない場合は、ひらめいたアイデアをTwitterやFacebookでポロッと発信して、反応を見るのはどうでしょうか。もっと踏み込んで、ウェブサイト上で公開するのもよいでしょう。おもしろいアイデアであればちゃんと聞いてくれる人がいるし、そこから仕事につながる場合もあります。

話題になるのが早すぎることも? 「変なWEBメディア」の目的

――ウェブサイト上での公開といえば、佐藤さんが手がけた「みんながアクセスすると劣化する記事」が話題になりました。こちらが掲載されている「変なWEBメディア」はどのような目的で作っているのでしょうか?

「変なWEBメディア」には明確な目的があります。クライアントワークだけでは、1軍ノートのアイデアがたまっていく一方で、消化しきれないんですよ。もちろん、無理に消化せずにクライアントワークにハマってくれるのが理想ですけど、いつ実現できるかわからない。もう一つは、ウェブサイトでの演出のバリエーションが、以前より減ってきているという印象があって。自分がおもしろいと思うものを自由に実験してみる場が、このサイトです。さらに、弊社のエンジニア教育にも活用しています。

「みんながアクセスすると劣化する記事」の元になった1軍ノートのアイデア。当初はお店のウェブサイトを想定して考えられたという

――「みんながアクセスすると劣化する記事」は、あっという間に劣化しましたよね。

あれはちょっと不本意でしたね。バズるのはありがたいんですけど、むしろ5年くらい後にかなり劣化してからバズったらうれしいコンテンツでした(笑)。

――佐藤さんがここまで自分らしい、ユニークな企画にこだわるモチベーションはどこにあるのでしょうか?

別にユニークな企画でなくても、目的を達成できればいいはずなんですよね。ネット上で注目を浴びたいのなら、人気キャラクターや著名人を起用するといった手段がいくらでもがある中で、自分ならではの方法にこだわるのは意思表示というか、自分の美学のようなものだと思います。

有名人やキャラクターを引っ張ってくれば、ファンが反応してくれるから世間で話題になる確率は上がるけれど、それはあくまでそのコンテンツの知名度のおかげ。自分以外の人でもできる企画よりも、自らひねり出した企画を大切にしたいなと……。だから、そういったウケているものに頼った“勝ち戦”は、なるべくやらないことを自分に課しています。

もちろん、美学よりも数字目標の達成に重きを置く人を否定している訳ではありません。僕だって目標達成は最優先なので、そのゴールへの向かい方の違いだと思っています。僕は“数字達成の最短ルート”を狙いすぎることを恐れています。もし、ツイート数を増やすことだけを目標にして、手段を選ばないような“バズのダークサイド”に落ちてしまったら、新しいチャレンジができなくなってしまいそうで……。ただ、そのルートが必ずしも悪だとは思っていませんし、別の角度から見ればそこに美学があるのかもしれません。

「有名人を出せば、それだけでバズる」っていう考え方は好きじゃないけど、どんなキャスティングだと時代に合っているかを選定するも一つのクリエイティブだし、その有名人の魅力をより引き出した企画なら、むしろかっこいいですよね。「ポケモンGO」や、『シン・ゴジラ』がヒットした要因は、人気シリーズがベースだからでしょうか? それだけではありませんよね。

料理店にたとえると、僕は高級食材を集めておいしい料理を作る店よりも、なんでもない素材だけど、それをうまく組み合わせて、おいしい料理を作る店を目指したいな、と。どんな素材であれ、それをどう料理したかにクリエイティブの価値やクリエイターの存在意義が宿ると、僕は思っています。