メルカリはなぜ「2頭体制」に踏み切ったのか? 拡大するスタートアップの組織再編成

日本だけでなく、アメリカやイギリスにも開発拠点を置き、着実に世界展開を進めているメルカリ。同社でCTOとして開発チームを牽引してきた柄沢聡太郎さん(@sotarok)は今年4月、新たにVP of Engineering(Vice President of Engineering。以下、VPoE)に就任した。同社の新CTOには名村卓さんが就任し、開発チームは2頭体制となる。

日本ではあまり聞きなれないVPoEというポジションだが、実は、Facebookやクックパッドなど、国内外を問わずスタートアップ企業を中心に導入されている。VPoEは具体的にどんな役割を担い、どのような基準でCTOとの業務分担を行っているのか。メルカリVPoEの柄沢さんの話に耳を傾けてみよう。

CTOとVPoE、2人制開発トップの役割とは?

私がメルカリにジョインしたのは2015年です。執行役員CTOとして技術領域全般を担当してきましたが、このたび執行役員VPoEに就任しました。

実は、CTOとVPoEの役割に明確な定義はありません。組織の大きさや企業が置かれている状況によって、その役割はさまざまに変化します。

私が現在、VPoEとしてメルカリで取り組んでいるのは、開発チームにおける「技術面以外のマネジメントすべて」。今後の事業戦略に鑑みて、開発チームに必要な人材を判断したり、採用業務や社員の育成業務を進めたりしています。

組織づくりは、入社当時からメルカリの課題として認識していました。私が入社した当時、優秀なエンジニアは集まっていたのですが、個々の力で成り立ってている部分が多く、組織として力を発揮するにはまだまだ弱い面があったのです。たとえば、情報の整理・共有体制が整っておらず、新しく入社したエンジニアが開発環境を整えたり、慣れたりするまでに時間がかかってしまい、せっかく技術力の高いエンジニアが入社しても、最大限のパフォーマンスを発揮できないケースがありました。メルカリの事業をより大きく成長させるには、エンジニアの力を最大限に発揮できる組織づくりが急務でした。

これまで私はCTOとして、技術面の統率はもちろん、組織づくりやマネジメント業務にも力を入れて取り組んできました。しかし、事業の成長に伴って100人近くのエンジニアを抱えるほどに規模が拡大し、これらの役割を私一人で担うことが困難になってきました。そこで考えたのが、開発チーム内で技術面とマネジメント面の担当者を分けることです。

メルカリが2頭体制に踏み切れたのは、現CTOの名村の存在が大きかったと言えます。サンフランシスコでUS版の開発をリードしてきた彼のスキルと能力があれば、技術面における意思決定を一任できる。そう考えて名村にCTOを引き継ぎ、私は組織づくりによりコミットを強めていくために、VPoEに就任しました。

会社の規模が大きくなるほど組織づくりの重要性は高まる

技術面をCTOに委ねたからといって、私自身の技術への関心が薄くなったわけではありません。今でも自分で手を動かしてコードを書くことは好きですし、新しい技術の情報も常にキャッチアップしています。ただ、会社の一員として働くにあたり、全体を見渡せる立場で組織開発に関わっていきたいという気持ちの方が勝ったのです。

組織開発にチャレンジしたいと考え始めたのは、前職のクロコスのCTOとしてマネジメントを経験したことがきっかけです。ヤフーの子会社となり、開発メンバーが増えていくなかで、自分一人でバリバリ活躍するよりも、チーム全体のパフォーマンスを上げるほうが、会社の成功に近づけるではと改めて実感しました。
たとえ凄腕のエンジニアでも、メルカリほどの大規模サービスを一人で開発・運用するのは不可能です。規模が大きい会社であればあるほど、全員が同じ目標に向かって本気で取り組まないと、事業はうまく回りません。事業の拡大に比例して、組織づくりの重要性は間違いなく増していくと思っています。それなら、より多くの人に愛されて世界で通用するサービスを作るために、自分はプレイヤーよりも組織全体を牽引していく役割を担いたい。コードを書く楽しさは個人でも追求できますが、組織づくりへのチャレンジは会社に属していないとできませんからね。

メルカリは現在、「世界中で使われるマーケットプレイス」を目指しています。それを実現できる開発チームを組織することが、私の当面の使命です。

重要なのは「肩書」ではなく担うべき「役割」

メルカリでは、今回CTOとVPoEによる2頭体制を採用しましたが、これはすべての企業や組織で応用できる体制ではないと考えています。CTOやVPoEだけでなく、CEOもCOOも会社の規模や状況、本人の特性によって担うべき役割は変わってくるもの。肩書そのものには、何ら重要な意味はありません。それでも、私がこの肩書を名乗るのは、社内外へ向けたアプローチの側面が大きいのです。新たにVPoEという肩書をつけて、「CTOとは違うマネジメントを担っています」と宣言することで、自分の役割が明示しやすくなると考えています。

今後はVPoEとして、大規模組織にマッチする組織体制をより迅速に確立させていく必要があると考えています。現時点でメルカリの開発チームメンバーは、世界中に100人ほど。それが今後、500人、そして1000人と、どんどん増えていくだろうと予想しているためです。

どんなに会社の規模が大きくなろうと、個々のエンジニアが最大限のパフォーマンスを発揮できて、その結果がプロダクトにしっかり反映されるような組織体制を作っていかなくてはなりません。

新卒やジュニア層の採用、優秀なエンジニアリングマネージャーの育成、メンバーがモチベーションを保てるような評価制度の実現……やるべきことは山積みです。メルカリという組織もVPoEである自分自身も、これからもっと成熟していかなければならないと感じています。