プロの20倍の価格で売れる素人写真!? スナップマートの「インスタグラマーブツ撮り出張サービス」

SNSが普及し、誰もが発信者になれる時代。投稿一つが新たな仕事を生んだり、キャリアを切り開くきっかけになったりすることもある。とりわけ、Instagram(インスタグラム)ではその動きが活発で、近年は“インスタグラマー”と呼ばれる人気アカウントが脚光を浴びている。

そんなインスタグラマーが活躍するサービスが、今年4月に登場した。そのサービスとは、フォロワー1万人以上のインスタグラマーが商品の撮影を行う「インスタグラマーブツ撮り出張サービス」だ。料金は構図の提案・小物の準備・交通費などすべて込みで9万8,000円~。

川北さん(左)と江藤さん

同サービスを運営する、スナップマート代表取締役の江藤美帆さんが書いたnoteの記事によれば、プロカメラマンの撮影相場の20倍以上という価格設定にもかかわらず、企業からの問い合わせが殺到しているという。なぜ、このサービスを立ち上げようと思ったのか? またリリース後の動きをどう見ているのか。江藤さんとマーケティングアシスタントで、自身もフォロワー6.8万人以上(2017年6月現在)を誇るインスタグラマー「もろんのん(@moron_non)」こと、川北啓加(のりか)さんに話を伺った。

少しずつ感じていた、“素人コンテンツ”需要の高まり

――「インスタグラマーブツ撮り出張サービス」をリリースした、きっかけは何だったのでしょうか?

江藤 スマートフォンで撮影した写真を気軽に売買できるサービス「Snapmart(スナップマート)」を運営していくなかで、企業からの“素人コンテンツ”に対する需要の高まりを感じていました。私自身、前職のSNS運用会社で、プロが撮影した写真に「なんか違う」という実感があり、周囲でも同様の声を耳にしていました。そこで、企業が欲しいテーマをもとに、写真を公募できる「Snapmartフォトコンテスト」を開催してみることにしたんです。

ただ、企業自らコンテストを開催して写真を集めるのはハードルが高かったようで、期待した成果が得られませんでした。それなら、誰かがイメージに合う写真を撮ってあげればいいんじゃないか、と。

そこで、「Snapmart」ユーザーの中で、写真の質が高く人気がある人、なおかつInstagramのフォロワーが1万人以上いる人を対象に、企業のリクエストに合わせて撮影するサービスをやってみようと考えたんです。とはいえ、うまくいくかは半信半疑だったので、まずはInstagramのフォロワーが多い弊社の川北にテストでやってもらったら、すごく好評で。これは需要がありそうだと思い、正式にサービス化しました。

企業からの申し込み数は想像以上でしたね。1カ月に20~25件申し込みがあり、SNSで少しバズったnoteの記事公開後は、さらに10~15件くらい申し込み数が増えました。

――このサービスの存在を知ったとき、価格設定に驚きました。9万8,000円(撮影者の指名ありで12万8,000円)はプロのカメラマン相場よりもかなり高い設定です。その狙いは?

江藤 実は、緻密に考えていたわけではないんですよ(笑)。自分の中で「自分がクライアントだったら、これくらいは出せるかな」と考えて、“10万円”を一つの区切りにして価格設定しました。受け入れられるかどうか確信はありませんでしたが、企業からは「小物の準備・交通費・場所代などが全て価格に含まれているのがいい」と言ってもらえています。プロのカメラマンに依頼すると、別途モデル代や小物代などが必要となるので、意外と高くなってしまうことが多いんです。

――なるほど。そう考えると、9万8,000円は妥当な価格なのかもしれませんね。

江藤 そうですね。noteで公開した記事には、「プロカメラマンの20倍以上の価格」と書きましたが、細かいオプションも含めて考えると、そこまで差がないかもしれません。

インスタグラマーだからこそ撮影できる写真がウリに

――サービス公開後、企業から撮り直しの依頼がほとんどないとお伺いしました。具体的には、どこに満足されているのでしょうか?

江藤 どのような世界観の写真を撮影するのか、どの領域が強いのか。インスタグラマーたちは、すでにInstagramというポートフォリオを持っています。企業はそれを見てから、相性がよさそうな人を指名して発注するので、完成物に対するイメージの齟齬が起こりにくい。もちろん事前のヒアリングシートですり合わせをしていますが、これが一つの大きな要因になっています。

川北 クライアントにもよりますが、「世界観まで含めてお任せします」というケースが多いですね。物撮りサービスで提携しているインスタグラマーには、人物が得意な人もいればテーブルフォトが上手な人もいるので、そこは適材適所のマネジメントを心がけています。ターゲット層と年代が近いインスタグラマーなら、自然とユーザーにとってなじみやすい写真を撮影できるのかな、と。

――なじみやすさ、ですか。

江藤 たとえば、ベテランの男性カメラマンが考える“かわいい”と、20代前半の女の子が思う“かわいい”って違うじゃないですか。商材のターゲット層が持つ感覚との乖離が小さいことは、プロのカメラマンとの差別化につながっていると思います。

愛媛県在住の主婦chii(@chii_moi)さんが自宅で撮影した、アイロボットのルンバ

江藤 あと、インスタグラマーが撮影した写真は、企業がかなり力を入れなければ撮れない写真も多いんです。たとえば、子どもとルンバが一緒に写っているこの写真。これは、インスタグラマーさんのご自宅で、彼女のお子さんをモデルにして撮影したものです。

もしこれを企業が撮影しようとすると、場所を押さえたりモデルを用意したりと、ものすごく工数やコストがかかってしまいます。インスタグラマーが持っているリソースを活用すれば、それはカットしつつクオリティの高い写真が撮れる。そこが非常に満足度の高い理由かもしれません。

――普段のInstagram投稿と物撮りサービスの撮影では、感覚的に何か違いはありますか?

川北 主な違いで言えば、ライティングですね。普段、私が写真を撮影するときは自然光を活用するのですが、自然光で物撮りをすると逆光になって、肝心の商品の細部が隠れてしまうんです。なので、レフ板を使うなどして、商品の全体像やロゴがしっかり見えるように気をつけています。あとは、加工の色味にも自分の個性が出すぎないようにしています。

――逆に、プライベート用の撮影で、どのようなことに気をつけていますか?

川北 印象が強い写真はInstagramでウケがいいですね。こうして自分の投稿を見返すと、動きがあってストーリーを感じさせるものが多いかもしれません。具体的には、奥行きがあって「壮大だ」と思わせる写真だったり、水が弾けていて「きれい」と思わせる写真だったり。何かとセットではなく、1枚の写真で印象を強く残せるものが、Instagramでの「いいね」の獲得につながっていると思います。

なぜ投稿・拡散をメニューに含めなかったのか?

――物撮りサービスのメニューに、インスタグラマーによる投稿・拡散を含んでいないのが意外でした。この意図は?

江藤 従来の企業からのインスタグラマーへの撮影依頼のほとんどが、本人のアカウントでの投稿よる拡散が目的になっています。その現状に、私自身はずっと違和感を覚えていました。インスタグラマーが撮影する写真には、拡散してもらえる以外の価値があるんじゃないか、と。これを確かめる意味で、投稿・拡散は別料金にしました。

あとは、インスタグラマーの間では、「企業の案件はやりたいけれど、自分のアカウントに投稿するのは嫌だ」という声が意外と多くあります。やはり、これまで築き上げてきた世界観の中に、いきなり企業の商品が出てくると、パッと見て違和感がありますし、ファンもそれがわかるんですよね。それがきっかけで、獲得していったフォロワーが離れていってしまう……。そうした状況も投稿をメニューから外した一因です。

――多くのフォロワーがいる川北さんから見て、この点はどう思いますか?

川北 企業からコスメや時計が贈られてきて、「Instagramで宣伝してください」とお願いされる。こうしたPR案件にインスタグラマーたちが飽きてきている、という状況はあります。その一方で、「自分のアカウントには投稿したくないけど、写真を撮るだけならぜひやりたい!」という声は多いですね。やはり自分の撮影技術を認めてもらえるのはうれしいので、そういう意味でこのサービスは企業だけでなく、インスタグラマーにとってもメリットがあると感じています。

江藤 Instagramブームに乗っかろうと、企業は安易に「インスタグラマーに撮影をお願いすればいい」と考えるようになっているんですよね。すごく雑なPR案件が多くなっていると感じています。

その原因は、発注する企業側もそうですが、依頼を受けるインスタグラマーの中にも「お金がもらえるから」と何でも引き受けてしまう人がいるから。客観的に「この人の日頃の生活スタイルと絶対に合わない」と思う商品がバンバンInstagramのタイムラインに流れてきますからね。そんな風に、自分の世界観を大事にせずに企業案件を引き受けている人は、残念ながらインスタグラマーとしての寿命は短いだろうな、と思います。

フォロワー数よりも、専門知識を持つマイクロインフルエンサーが求められる時代へ

――フォロワーが数十万規模のインフルエンサーもいますが、江藤さんは1万人くらいの“マイクロインフルエンサー”に注目されています。彼らが持つ魅力は何でしょうか?

江藤 女優やモデルなどのインフルエンサーが何かを紹介しても、「たぶんお金をもらっているんだろうな」と直感的に感じてしまうんです。「本当に使っているのかな?」と。一方で、メイクアップアーティストやスタイリストが商品をオススメしていたら、「あ、買おうかな」と思う。この違いは、情報に対する信頼性にあります。

たとえば、エンジニア界隈だけで有名な人が、エンジニア向けのツールを紹介すると、たちまち多くの企業で導入されるようになったケースがあります。ニッチな領域の有名人は、フォロワーとの間に信頼関係ができあがっているので、反応率が高いんですよね。

たとえ数十万フォロワーを獲得していても、そのフォロワーが熱心なファンであるとは限りません。Twitterでもフォロワーがたくさんいるのに、よくよく投稿を見てみると、リツイートや「いいね」がまったくされていないアカウントってありますよね。これからはフォロワーの数ではなく、情報の質が重要視される。だからこそ、今後は専門知識に長けたマイクロインフルエンサーがトレンドになり、単にフォロワー数だけが影響力の指標にならなくなっていくのかな、と考えています。

――最後に、一般ユーザーのコンテンツが持つ可能性について教えてください。

江藤 これまでは何か作品を発表しようと思ったら、賞に応募して選考を受けたり著名な人の弟子になったりして、誰かのフィルターを通さなければなりませんでした。そこにインターネットが登場し、SNSが普及したことで、誰かのフィルターを通さなくても、いきなり世の中に作品が出せるようになり、直接ユーザーの支持を得られるようになった。

誰もが簡単にコンテンツを発信できるし、おもしろければ自然と拡散されていく。この変化で、今までであれば、フィルターではじかれていたであろうクリエイターや作品を見つけやすくなりました。2000年頃に流行した「魔法のiらんど」なんかは、まさにその先駆けですよね。“ケータイ小説”は、体裁もめちゃくちゃで文章が推敲されていない作品が目につきましたが、それでも多くの人の心をつかむ作品が現れた。

既存の価値観や経験から形成されたプロのフィルターを通していれば、確実にはじかれていたものでも、世に出て支持を得ることができる世の中になったんです。今後も、どんどん“素人コンテンツ”が生み出されていくんじゃないか、と思います。