サボり問題や会議への影響は? リモートワーク本格導入で、リクルート社員の働き方はどう変わったのか

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近年、日産自動車や日本マイクロソフトなど、在宅勤務を含むリモートワークを導入する企業が増えている。「イノベーションの起こりやすい環境づくり」を掲げ、積極的に働き方変革を進めているリクルートグループもその例外ではない。

2016年1月には、雇用形態を問わず、リクルートホールディングスの全従業員を対象にリモートワークを導入した。働き方のダイバーシティ推進を目標に、場所にとらわれない働き方の提案や生産性の向上など、「働き方変革」につながるさまざまな取り組みを実施している。

しかし、従来の勤務スタイルを変えていくには、乗り越えなければいけないハードルも少なからずあるはずだ。新制度導入までの経緯やリモートワークを効果的に導入するためのヒントについて、同社の働き方変革推進部の趙愛子さんに伺った。

多様な人が活躍できる環境を目指し、場所や時間にとらわれない働き方を推進

リクルートホールディングスがリモートワークを導入した経緯として、まず弊社の「働き方変革」についてお話しましょう。

リクルートグループのミッションは「私たちは、新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く 豊かな世界の実現を目指す」こと。このミッションの実現に向けて、リクルートグループでは働き方変革を進めています。ゴールは「イノベーションの起こりやすい環境づくり」です。これを実現するには、業務プロセスを改善して従業員個人の自己裁量時間を創出したり、外部の方とのコラボレーションを増やしたりする努力は欠かせません。

そもそも「働き方変革」というテーマを検討することになったのは、経営において「2018年に女性管理職比率を30%以上にする」という目標を掲げたことがきっかけです。この達成には、今の働き方を見直すことが不可欠だと考えました。

リクルートは、昔から男女が平等に評価される会社。20年前当時の社長は女性でした。しかし、そんな中でも育児・介護は女性が担う割合が高いというのが実態で、「結果に対する評価は平等であっても、プロセスが不平等ではないか?」と。短い時間で高い生産性を発揮しながら働いている人を、この状態では正当に評価できないという課題感のもと、変革に着手しました。

「チーム一丸となり、夜遅くまでオフィスで働く」風潮が一概に悪いとは言い切れませんが、働く場所や時間にとらわれるため、働き方の選択肢が狭まることは事実。そこで、柔軟な働き方の推進を決めたのです。

リモートワークの導入を検討し始めた2015年当時、「まずは一度やってみよう」という基本方針のもと、リクルートホールディングス、リクルートアドミニストレーション、リクルートマーケティングパートナーズの3社で2カ月間、計2回のテスト運用を実施しました。

その結果、社員のロイヤリティが向上しました。ESアンケート(従業員満足度アンケート)では、「この会社で働き続けたいか?」「この会社で働くことを友人や家族に勧めたいか?」の両項目において、「はい」が約2倍に増加したのです。また、「仕事と育児介護との両立がこの会社でできますか?」のスコアも高評価を獲得。想定以上の成果を上げたため、2016年1月、リクルートホールディングスの全従業員を対象としたリモートワークの本格導入に至りました。

セキュリティポリシーの変更から着手

リモートワークの導入にあたって、はじめにセキュリティポリシーを変更しました。絶対に持ち出してはならない情報を決めた上で、それまでNGだったクラウドストレージの利用を解禁。さらに、PC端末もVDI(デスクトップ仮想化)方式でシンクライアント化の準備を進め、個人の端末内にデータを残せないようにすることで、オフィス以外からもセキュリティを担保しながら情報にアクセスできるように順次移行しています。

たとえば、営業資料などは持出しOK、コンプライアンスに関わるカスタマーの個人情報は絶対にNGという具合に、持ち出せる情報の線引きを決めました。持ち出せる情報についても、いつ・誰がアクセスしたのかすべてログが残るようにしています。

リモートワーカーが多数派になれば、リモート会議は円滑に進む

リモートワークでつまずきがちなのが会議のあり方です。リモート会議を円滑に進めるには“お作法”が存在します。たとえば、10人の会議で9人が会議室、1人だけがリモートだと、リモート側はどうしても発言しづらく、置いてけぼり感が出てしまうことも……。

リモートワークを導入したての頃は特に、参加者のうちリモート側を多数にするよう計らい、発言しにくい状況を回避するのがポイントです。また、リモート会議に限った話ではありませんが、事前のアジェンダ設定や資料送付など、発言しやすくするための準備も大切です。

多くの会議がリモートで実施できると実感している一方で、ホワイトボードを使った企画のブレストなど、「場を共有することによる相互作用」は確実にあります。会議の性質に応じてリモートOKにするかリアル会議にするかを選択すべきで、何でもかんでもリモートでやろうとしないことが大切です。

リモートワークを支える“成果主義”の社員評価システム

リモートワークに関して「サボる人がいるのでは?」という懸念の声を聞くこともありますが、リクルートの場合はあまり問題になっていません。従業員の評価は、会社で勤勉に働いたかではなく、アウトプットの質と量によって決まるからです。

評価の仕組みとして「Will Can Mustシート」というツールがあります。

「Will=短期・中期的にありたい姿」と、「Can=現段階の強みと弱み」を社員と上長がそれぞれ書き出し、半年ごとに「Must=Willの実現につながるミッション」を、達成できたかどうかで査定します。

Willは、本人が心から「こうありたい」と思う姿。熱意をもって取り組み、実現を目指せる内容まで落とし込みます。Canは360度サーベイ【※】の結果などを踏まえ、自分の強みと弱みを言語化します。
※ 上司だけでなく、部下や同僚、取引先といった人からも、多面的に評価をおこなう人事考課の手法

結果を出せば評価が上がり、逆に結果が出せなければ査定は自ずと下がります。なので、たとえWillにつながるミッション達成の過程で多少サボろうが、あまり問題にはなりません。そもそもナレッジワーカーにとって、サボりか否かの線引きは非常に難しい。外出したり読書したりといった行動からインスピレーションが生まれ、仕事に還元されることもあるからです。

リモートワークは成果主義の社風にうまく合致した働き方だと言える反面、より大きな成果を出そうと、働きすぎる社員が出てしまう懸念もあります。働きすぎを抑止するために、月の労働時間内で働いてもらうことをグループ全社で徹底しています。最近ではPC稼働時間のログを取り、申告された時間とPCのログイン時間が一致しているかを確認しています。

マネジャー層の意識改革が課題

このように、リモートワークを円滑におこなう工夫をしてきましたが、大きな課題となったのはマネジャー層の意識です。

昨年、リクルートホールディングスとリクルートアドミニストレーションを合わせた約700人の従業員を対象に、リモートワーク実施実態アンケートを実施。そこからは、理想と実態のギャップとして「マネジャーがリモートを推奨していない(推奨しているかどうかわからない)」という課題が浮かび上がりました。

たとえば以前、あるマネジャーが定例会議にメンバーが集まった際に、「みんなに会えてうれしい」と話したことがありました。もちろん善意から出た言葉ではあるのですが、マネジャー自身がリモートワークは働き方の選択肢であるという価値観をしっかり伝えないと、メンバーはマネジャーの顔色を伺い「本当にリモートワークをしていいのか?」と不安になってしまいます。こうした何気ない一言で組織の価値観ができあがり、働き方変革の阻害にもなり得ることを、現場マネジャーが認識した上で変革を進めていかなければなりません。

ツールに不慣れな人のためにサポート役を選定

ビジネスチャットやTV会議システムといったツールを介したコミュニケーションに慣れておらず、リモートワークに否定的な人も社内にはいます。そこで、部署内で積極的に新しいツールを使用し盛り上げていく役、いわゆる「エバンジェリスト」と呼ばれる役割を定めました。

チャットの導入を例に挙げましょう。エバンジェリストは、チャットを使って業務に関わることもちろん、「○○さん元気?」という世間話レベルのコミュニケーションまで率先しておこないます。ツールを積極的に使う人がいれば、おのずとその人に合わせて周囲のメンバーも使い始める。そうして、ツールを使ったコミュニケーションがチーム内に定着していくことが狙いです。

エバンジェリストに適しているのは、やはりチームのムードメーカー役かつ、新しいツールも積極的に使える人になりますね。

リモートワーク導入のメリットは、「まとまった時間の確保」

現在、国内リクルートグループで主要な会社のほとんどがリモートワークを導入、または実証実験中です。分社化されているため取り組み状況は会社ごとに異なりますが、リクルートホールディングスの場合はおおむね全社員がリモートワークを利用しています。

私個人の実感としてリモートワーク導入のメリットはいろいろありますが、「集中できるまとまった時間の確保」が大きいです。以前はグループ会社のリクルート住まいカンパニーでマネジャー職についていたこともあり、平日は会議室から会議室を渡り歩き、メンバーからの質問や相談への応対だけで一日が終了。休日に業務のアイデアを練らなければならないような状況でした。

リモートワーク導入後は、役職が変わった影響もありますが、オンラインでのやり取りがメインとなり、作業や思考が中断されることも減りました。結果、まとまった時間で課題に集中して取り組めるため業務が大幅にはかどり、17時にすべての業務を終えて、夜は子どもとじっくり向き合える日も増えてきました。アイデアを練る時間も取れるようになり、新たな提案を創出しやすい環境だと感じています。

よく「リモートワークを導入すると、コミュニケーションが希薄になるのではないか?」ということを聞かれますが、それは逆なんです。我々がトライしてきたのは、ビジネスチャットやクラウドストレージ、TV会議システムの活用によって「サイバーオフィス化」を進め、情報共有とコミュニケーションをよりスピーディに、より密にしていくこと。そして実際に、リモートワークで会議時間を大幅に削減しつつも、意思決定のスピードやチームの関係の質向上につなげられることがわかってきました。

ただ、リモートワークはあくまで1つの手段。リクルートが真に目指しているのは「従業員それぞれが働き方を選べる環境をつくること」です。その実現によって、自分の仕事に対する主体性が生まれ、イノベーション創出につながると考えています。イノベーションの起こりやすい環境づくりを目指し、これからも働き方変革を進めていきたいと考えています。