8年連続赤字からV字回復――熱狂的ファンを生み出すヤッホーブルーイングのブランド哲学

低迷が続く、ビール市場――。大手メーカー5社(アサヒ・キリン・サントリー・サッポロ・オリオン)の発表によれば、2016年のビール類(ビール・発泡酒・第三のビール)出荷量は前年に比べ2.4%減。12年連続で過去最低を更新している。

そんな縮小傾向にあるビール市場に、新たな風を吹き込んでいる会社がある。長野県軽井沢のクラフトビール醸造所、ヤッホーブルーイングだ。同社は看板商品の「よなよなエール」をはじめ、「インドの青鬼」や「水曜日のネコ」といった個性豊かなクラフトビールを展開。多くの熱狂的なファンを生み出し、ビールメーカーとしては異例の12年連続増収増益を達成している。

ただし、その道のりは順風満帆だったわけではない。地ビールブームで売上が絶好調だった創業から間もない90年代後半から一転、2000年代にはブーム衰退の影響もあって、8年連続赤字というどん底を味わっている。そこからいったいどのようにしてV字回復を遂げたのか。そして、どうやって熱狂的なファンを獲得していったのか?

社長の井手直行さんに、同社の公式ビアバル「YONA YONA BEER WORKS(よなよなビアワークス)」で、ビール片手のほろ酔いインタビューを決行した。

“知的な変わり者”を狙い撃ち

まずは「よなよなエール」で乾杯!

――クラフトビール「よなよなエール」を全国展開するまでに紆余曲折あったと聞きました。現在の好調な業績は熱狂的なファンなしに成立しなかったと思うのですが、ファン獲得のために心がけたことはずばり何ですか?

大きく分けて2つのことを意識しました。まず1つ目は製品の差別化。いわゆる個性を出すということです。他にはないコンセプトを決め、そこを軸に味やネーミング、デザイン、プロモーションを行っていく。大手ビールメーカーと違いを明らかにすることで、他にはない価値を感じてもらえる。そして、それが熱狂的な“好き”を生み出していきます。

2つ目はファンイベントの実施です。我々はネット上だけでなく、リアルでもファンと交流する場を設けるようにしています。ヤッホーブルーイングとファンはもちろん、ファン同士がつながることで、熱狂度が高まっていくとともに、その輪が広がっていくんです。

――時々「よなよなエール」を飲むと、明らかに他社のビールとは違うなと感じます。製品開発にあたって、最もこだわっている点は?

まだ世の中にないものを創り出すことですね。表面化していない、潜在的なニーズを掘り起こし、そのニーズを満たす製品を世に出す。これが製品の開発において、弊社が一貫して持ち続けている考えです。

――潜在的なニーズの掘り起こし、ですか。

「よなよなエール」が誕生したのは今から20年前、1997年です。当時、「このビールをどう思いますか?」と市場調査しても、ほとんどの人が「これはビールじゃない」と答えました。そもそも“クラフトビール”というものを知らないので、当然といえば当然の結果です。

一方、世界に目を向けてみると、アメリカでは酒税法の規制緩和をきっかけに、日本よりも十数年早いクラフトビールブームが到来していました。アメリカも昔は日本と同じような状況だったのに、クラフトビールが受け入れられていた。そして、「よなよなエール」の開発にあたってモデルにしたビールが支持を集めていたのです。

――「よなよなエール」にはモデルがあったのですね。

はい。ただ、アメリカで支持されているものが、すぐに日本でも支持されるわけではありません。けれど、いつかは日本でも支持されるようになるのではないか。アメリカのビール市場を見て、日本にも潜在的なニーズがあると思いました。

もちろん、ビールがすべての人に受け入れられるものではないので、まずは情報感度が高く、いろんなことに興味がある人、我々は“知的な変わり者”と呼んでいるのですが、その人たちをターゲットに「よなよなエール」を展開していきました。

「よなよなエール」(レギュラーサイズ 400ml=税別680円)

5年前に発売した「水曜日のネコ」も、潜在的なニーズを掘り起こして開発したビールです。当時、大手ビールメーカーの市場調査では、30代前後の女性の大半はビールを飲まないという結果が出ていました。となると、普通はそこをターゲットにしたビールを開発しようと思わないですよね。ただ、細かく結果を紐解いていくと、一部の人は一般的なビールではなく、ベルギー発祥のフルーティーなビール“ホワイトエール”を好んで飲んでいることがわかりました。

それを知ったとき、「日本のスタンダードなビールが嫌いなだけであって、自分好みの味わいであれば飲んでもらえるのではないか?」という仮説を立てたわけです。そこで、30代前後の女性をターゲットにしたビールを開発することにしました。

――「水曜日のネコ」というビール名は、すごくユニークですよね。このネーミングの由来は?

新製品の開発にあたって、30代前後の女性にどんなときにビールを飲むか聞いてみたら、「週の真ん中で一息つきたいときに飲む」という声があったんです。一般的に、“ビールは週末に飲むもの”というイメージが強いのですが、30代前後の女性は週の真ん中あたりでビールを飲むことがある。だからこそ、「水曜日」という言葉を使いました。

そして「ネコ」にしたのは、単純に犬よりもネコ好きのほうが多そうだな、と思ったからです(笑)。もちろん、これによって犬好きを取りこぼすかも……という議論もありましたが、そもそも我々のビールは誰にでもいい顔をするような製品じゃない。熱狂的なファンを作るには、偏りや割り切りを恐れてはいけないんです。

ヤッホーブルーイングのファンは“ハーレーダビッドソンのファン”と似ている

――先ほど、ファンイベントを大切にしてきたとおっしゃっていましたが、どんなきっかけがあったのでしょうか?

ファンイベントは2010年に開催し始めたのですが、それまでは、なぜヤッホーブルーイングのビールが支持されているのかどうか、よくわからなかったんです。そこで、約20人にインタビューを試みました。その結果を、ブランディングの担当者に見せたら、こう言われたんです。「ヤッホーブルーイングのファンは熱狂的で、値段が高いにもかかわらず高いロイヤリティを示している点が、ハーレーダビッドソンのファンと似ている」と。業種は異なりますが、それからハーレーダビッドソンジャパンさんの施策をベンチマークしました。

本社まで話を聞きに行ったりイベントを偵察したりと調査を重ねた結果、「ハーレーダビッドソンが熱狂的なファンを生み出している秘訣はイベントだ」という結論に達して、我々もファンイベントを始めてみたというわけです。

――ファンイベントを開催するにあたって、もっとも大事にしていることは何ですか?

短期的な売上を求めないことです。イベントがどれくらい売上に寄与するかなんて考えていたら、製品を宣伝するためのイベントしか開催できません。イベントの目的は、あくまでファンに楽しんでもらい、長期的なファンになってもらうこと。売上とファンづくりを直接結びつけないことが大切ですね。

――ちなみに、イベント開催の効果は……?

いまだに売上との直接的な因果関係はわかりません。確実に言えるのは、かなりの効果があるという手応えです。

その後、ファンイベントは回を重ね、3年前からは「超宴(ちょううたげ)」を開くようになりました。1年目の集客は500人で、2年目はギリギリ1000人を超えました。そして今年は、チケット発売開始から申し込みが殺到し、数日で定員1000人分のチケットが完売したんです。SNSの反応を見たら、ありがたいことに「チケットとれなかった」「ずっとスタンバイしてたのに」という声がたくさん上がっていて。これはある意味、全方位的に打つCMにはない大きな宣伝効果があったと感じています。

ファンの数が増えてきたので、今後はもう少しキャパシティの大きな会場でイベントをやろうと思っています。もちろん、イベントの質は落としません。2020年にはドームツアーができるようになっていたいですね。

――まるでアイドルがドームツアーを目指すみたいな感じですね(笑)。

「窯焼きローストチキン」(ハーフサイズ=税別1,800円)

石の上にも3年。目先の利益を捨て、チームビルディングに注力

――業績を伸ばすためにはファンに愛される新製品の開発は欠かせませんが、どうやって着手しているのでしょう?

まずは私が中心となって、市場環境や競合の調査を行います。そして、「こういうビールを出そうと思うんだけど、やりたい人いる?」と募集をかけ、名乗り出た人全員でプロジェクトを組んで動き出します。だいたい5人~8人くらいのチームになることが多いですね。

――誰も立候補しない、という事態にはならないんですか?

まったくないですね。募集をかけると、みんなが「やりたい! やりたい!」と手を挙げてくれます。最近は、逆にやりたい人が多すぎて困っているくらいです(笑)。

――社員が自発的に動く企業風土なんですね。

いまはそのとおりなですが、実はここに至るまでも一筋縄でいきせんでした。2008年の社長就任当時、ヤッホーブルーイングは暗い会社でした。誰も積極的に動かず、人の手伝いもしようとしない。そんな状況を目の当たりにして、「さすがに、これはダメだ」と感じて、社員に「もっと楽しく働ける職場にしよう!」と呼びかけました。でも、結果は空回り……。自分の力だけではこの状況を打破するのは無理だと思い、外部のチームビルディング研修を受けることにしました。

――井手さん自ら、社外の研修を受けに行ったんですか? ビールメーカーの社長なのに?

はい、そうなんですよ。社員から選んでそういった研修を命じることはできますが、当時は私が率先して社内改革に乗り出すしかありませんでしたから。結果、その研修で自分の人生観が大きく変わりまして。「この研修をヤッホーブルーイングで、そのまま実践したらいいのではないか」と思い、社内でチームビルディング研修をやってみることにしたんです。

無理だと思われていた課題を一丸となって解決する、一致団結したときのパワーを知る。そして、一致団結するためには、お互いのことを知り、人の個性を認めて適材適所で働くことが大切だ、ということを、毎年1回参加希望者を募って丸3カ月かけて教えていきました。

また、チームビルディングには社員同士のコミュニケーションが何より大事なので、飲み会も地道に開催していきました。その結果、積極的に行動したり周りに協力したりする、モチベーションの高いチームができあがっていきました。今ではチームビルディング研修もすっかり根付き、今年で8年目を迎えます。

――8年続けていくことで、モチベーションの高い組織ができあがった、と。

そうですね。3年目くらいからようやく少しずつ組織に変化が起こってきて、5年目には社外からも「いい会社だね」「活気があっていいね」と言われるようになりましたね。

「窯焼きバーニャカウダ」(レギュラーサイズ=税別1,300円)

――なかなか簡単にできることではありませんよね。

「すごくいいと思うんだけど、実際できないよね」と、周りからもよく言われます。ただ、自分はそんなことないと思うんですよ。やると決めたらコミットしてやり抜く。ただそれだけのことです。経営のトップが本気でチームビルディングに取り組めば、組織は必ず変わります。チームビルディングが下手くそだった自分が言うんですから、間違いありません(笑)。

ただ、ほとんどの会社は短期的な成果を求めてしまうせいで、変化が起きるまでそういった地道だけど大事なことを継続できない。途中で挫折してしまうんですよね。チームビルディングには時間がかかります。ヤッホーブルーイングも組織に変化が見られるまで、3年の時間を要しました。この3年を長いと見るか短いと見るか、単純にその違いだけなんですよ。すぐに結果に結びつかないけれど、チームビルディングを行っていった結果、売上も右肩上がりで成長していきました。

――いつ頃までに成果が出るだろう、という見通しはあったのですか?

成果が出るまでやり続けるしかないし、継続すれば必ず成果が出るはずだという確信がありました。当時の社長だった星野からは「売上だけは絶対に落とすな」と言われていたので、前年の売上を伸ばすことは最低限のハードルです。成果が出るのが先か、売上が落ちるのが先か、まさにデッドレースでしたね。

――社員が自発的に動く企業を作るために、社長自らが社内改革を断行したということですよね。チームビルディングにおいて、井手さんが最も大切にしていることを教えてください。

きちんと本音をぶつけ合うことですね。多くの人は上司や経営者に対して、何か意見することはよくないというイメージを持ちがちですが、意外と経営者や上司は意見を求めているものです。ときには、冷や飯を食わされるかもしれませんが、お客さまのほうを向いて正しいことをやっていれば、必ず評価はついてくるし、社内でも見ている人は見てくれています。意見が対立しても、自分が正しいと信じていることをはっきりと主張していくことが、私は大切だと思っています。

大のお酒好きという井手社長。さすがの飲みっぷり