報道に人間は不要? SNSからニュースの種を集めるAI「Spectee」は全自動メディアを実現するか

遠くない未来、あなたの仕事がAIやロボットに奪われる――そんな言葉をメディアで目にしたことはないだろうか。わずらわしい事務作業だけをテクノロジーが代替えしてくれるのであれば、人間はもっとポジティブな気持ちでいられるだろう。

しかし、すでに数十万曲をウェブで公開している自動作曲プログラム「オルフェウス」や作曲や日経「星新一賞」の一次選考を通過したAI小説など、クリエイティブ領域でさえ、すでにAIが活躍し始めている。人間がもつ感情までを膨大なデータが解析し、このままAIが創作活動を極めていけば、作者は誰かという議論も起こってくるだろう。AIの進化は今後、さらに人間のアイデンティティを揺るがしていくのかもしれない。

そんなAIの進化形の一つが、SNS上にアップされた事件・事故性のある動画や画像を自動収集し、報道機関向けにいち早く配信するサービス「Spectee(スペクティ)」だ。同サービスを開発・提供する会社Specteeはさらに今年5月、自動でニュース記事を作成する「AI記者」について2つのビジネス関連特許を取得した。AIの登場によって、報道やメディアはどう変わっていくのか。同社代表の村上建治郎さんに話を聞いた。

ローカルニュースの種はSNSから生まれる

――そもそも、「Spectee」のスタートは、ジオタグ(写真データに付加された位置情報)を活用した地域SNSだったんですよね?

そうです。

――なぜ報道向けのサービスに転換したのでしょうか?

地域SNSの投稿をエリアで区切って見ていくと、今そこで起こっている情報がどんどん取れます。その出来事をまとめれば、ニュースみたいな形で見せることができるじゃないかと気づいて、地域の出来事が見られるアプリを一般ユーザー向けにローンチしました。そうしたら、利用者に報道機関の方が結構いるのがわかったので、SNS上の一次情報をそのまま報道に利用できるサービスに、ビジネス的なニーズがあるんじゃないかと考えたのです。

「Spectee」のダッシュボード画面

リアルタイムで、「停電が起こっています」「川が氾濫しています」「冠水しています」など、こんなふうに最新情報が配信されます。システムは、基本的にジオタグを使っていた地域SNSとほぼ変わっていませんが、今は画像認識やテキスト解析がメインです。

このサービスで最も強みを持っているのは、特許を取得している画像認識システムです。画像認識にはAIを使っていて、消防士の姿やパトカーが停まっている様子を学習させてあります。それによって、実際に投稿に映っているものを認識し、事件性・事故性がありそうな画像を自動でピックアップします。TwitterとInstagram、Facebook、YouTubeをずっとクロールしてデータを取得し続け、その中でニュース性が高いと判断したものを「Spectee」にアップしていく仕組みです。

――ニュース性の高さを画像から判断しているんですか?

まずは画像からですね。たとえば、「これは火事」「これは事故」「これは事件」など、人がワーッと集まっていたり何か起こっていたりする状況をAIに大量に学習させてあるので、それに引っかかってくる投稿がどんどん見つかります。

――実際チェックしてみたら全然関係ない画像だった、ということもあるのでしょうか?

それはあんまりないですね。基本的に、サービスのダッシュボード画面に上がってきているのは、ほぼ間違いなく何らかのニュース性がある出来事の投稿です。ただ、そういった投稿すべてを網羅できているかといわれると、もちろん拾えていない投稿もあります。

情報としての信頼性が低い情報までピックアップしてしまっては、その中から正しいものを見つける作業が必要になるので、使い物になりません。Twitter上で検索するより多少は手間が省けるかもしれませんが、それではあまり意味がない。「Spectee」を見て記者や防災・防犯スタッフがすぐ現場へ駆けつけられる状態を目指していたので、情報の正確性にはこだわっています。

――見出しに「第一報」や「第七報」と書いてありますね。

たとえば、最初に火事の現場らしき投稿をSNSでキャッチして流した後も、いろんな人がSNSに次々と投稿してくれることで、情報がどんどん厚みを増していきます。まず「東京で火事がありました」という第一報があったら、そこから「世田谷区です」と判明し、さらには「世田谷区船橋5丁目」と、徐々に詳細が見えて、場所も特定される。より情報が積み重なってきたり、より大きな変化が起こったりした場合は、第二報、第三報……というように、配信されていく仕組みになっています。

――なるほど。個別の情報ページには、SNSの投稿が張り付けてあり、補足として文章が入っているものもありますが、ここは人の手が入っているのですか?

基本的に人が関わるのは、補足テキストとタイトルですね。人の手を加えることもあれば、自動で完結するケースもあります。海外の情報は簡単なサマリーが入るときがありますが、地元警察・消防の情報を確認して人が書く場合もあります。最近はテロの影響もあって、日本の報道機関が海外の情報を使うことが増えているようですね。

――「Spectee」がメインに使っている情報源はTwitterでしょうか?

日本の場合はTwitterが多いですね。日本はSNSをクローズドに使う人が多いので、こういった事件性のある情報って、FacebookやInstagramにはあまり上がってきません。投稿の収集は、海外のほうが圧倒的にやりやすいんです。海外ではInstagramにも容疑者が逮捕された瞬間とか普通にアップされていますから。

人力のほうが効率化につながった――投稿者とのコミュニケーション

――集めた投稿は、Specteeのスタッフが投稿者に対して、各報道機関で自由に使えるように使用許諾を取っているのですか?

すべてではありませんが、使用許諾を取っています。以前は、許諾の交渉をbotの自動応答で行っていましたが、今はスタッフがすべて個別にメッセージを送っています。日本だけでなく、英語圏やスペイン語圏などの海外のものに関してもそうです。

――botから人力に切り替えた理由は?

不特定多数のSNSユーザーに定型文を送ることで、スパム・メッセージっぽくなってしまったのと、もう一つはレスポンスの悪さですね。なんとなくbotのメッセージっていうのがわかるようで、それに気づくと、返信をくれなくなっちゃったりブロックされちゃったりというケースが多発しまして。

許可取りは、いわゆる“中の人”である感を出すというか、ユーザーさんとは人対人で、ちゃんと会話をするのが大切だと気づきました。コンタクトするときは、シチュエーションによって個別にメッセージ内容を考えています。事故や事件の場合は、投稿者自身が被害者であるケースもあるので、そういう場合は「大変な状況ですが、こういう理由でこの映像を使わせてください」と、先方の心情を察することを忘れないようにしています。

一方、そういったシリアスなケースではないハプニング映像的な投稿には、「おもしろそうですね!」みたいな率直な感想を伝えます。ユーザーから「どんなメディアに使うの?」といった質問をされることもあるので、そういうときは丁寧に説明するようにしています。手間はかかりますが、このほうが結果的にユーザーの反応がよくなって、許可を取れる件数も増えますから。正確に数字は取ってはいませんが、botで許可取りしていたときと比べて、おそらく3~4倍くらいはレスポンスがよくなりました。

――将来的にもう一度自動化にトライすることは考えられますか?

現在は24時間体制で弊社スタッフの誰かが許可取りをしていますが、物量がものすごく多くなってきたら、やっぱり自動化していかないと追いつかなくなるでしょうね。

6月からAP通信社が運営する「AP Video Hub(APビデオハブ【※】)」への動画提供をスタートしました。もちろん、ここに配信するのは権利処理を行ったものだけで、日本語や英語、スペイン語などを駆使して世界中の投稿者とやり取りをして流しています。今のところは弊社スタッフだけで対応できていますが、今後さらに世界中の投稿を扱っていくなら、言語の壁を超えるという意味でも自動化を考え直さなきゃいけないとは感じています。
※ 世界のテレビ局やデジタルメディア向けにニュース映像を配信するサービス。映像ニュースに加え、AP通信社が所有する過去の映像も提供している。

――人力のままだと、「スワヒリ語できる人募集」みたいになってきてしまいますよね。

そうですね(笑)。使わせていただきたい映像があったら、何語であろうと対応していかなくちゃいけないので。

確認事項はミニマムで2つあります。まずは嘘がないか、合成して作られたものでないかといった事実確認。もう1つは、その動画や映像を本当に投稿者本人が撮影したかどうかです。いわゆる“パクツイ”のような転載かどうかのチェックは、使用許諾をもらう上で欠かせません。

なお、前述のとおり「Spectee」に出している画像や動画は、すべて使用許諾が取れているものではないので、許諾が取れているものには「確認済み」の表示をしています。「AP Video Hub」に提供しているのは、すべて事実確認と使用許諾が取れていて、すぐにダウンロードできるもののみです。

――では、各報道機関が投稿者に使用許諾を依頼することもあるんですね。

そうですね。特に東京のキー局は、そういった対応を担当するスタッフが内部にいるので、個別に確認や取材をしています。地方局になってくると、人手が少なくそこまで手が回らないので、こちらで使用許可を得たものを流すことがありますね。

「Spectee」に近いサービスはいくつかありますが、我々のサービスが高く評価されているのは、単純にツールとして情報を投げているわけではなく、細かいところに人の目が入っている点です。日本の映像提供してくれるパートナーを探していたAP通信社にも、ここが好評でした。

――すでに、国内の報道機関で100社以上が利用されているんですよね。想像以上に多い印象です。

はい。100社のうち85%くらいが地方局を含むテレビ局で、キー局はほとんど導入していただいています。そのほかは、新聞社やウェブメディアですね。海外メディアは、「AP VIDEO HUB」を通して提携する報道機関に映像を使っていただいている形です。

――「Spectee」の導入コストは月額いくらなんですか?

具体的な金額の公表は差し控えさせていただきますが、一番安いのは1アカウントだけのプランで……(筆者に耳打ちして)月額○○万円くらいです。大きな報道機関になると、複数アカウント持って各スタッフで情報を探したり、スマホの通知アプリも導入して常にチェックしたりと、費用は上がりますが。

――イメージよりもずっとリーズナブルでした! 情報収集に記者を1人あてるリソースとコストを考えると、安いように感じます。

AI記者が苦手なジャンルは、政治?

――報道機関の情報源の1つとなるサービスを提供しているなか、AI記者を開発して特許を取得したというリリースを拝見して驚きました。

もともと僕らは「Spectee」のタイトル入力や自動翻訳といった機能に関して、独自に開発を進めていました。それは、「なるべく速くニュースを届けるための自動化」という意図だったのですが、現在は「速さよりも、正確性の高い記事を自動で書くこと」に重きを置き、開発に取り組んでいます。

具体的には、過去のニュースや新聞記事の機械学習ですね。さまざまなニュースの中で、いわゆる社会部ネタと呼ばれる火事や事件、災害といった記事本文を品詞分解して学習させ、Twitterのテキスト情報に該当するキーワードを含んだ投稿が上がってきたときに、それをもとに記事を書かせる取り組みをしています。

Specteeが開発中のAI記者は、SNS投稿から自動で記事を作る技術と、複数の投稿から事象の発生地点を割り出す技術の特許を取得 画像提供:Spectee

先日、フジテレビの発表でもありましたが、AI記者の開発に取り組み始めたきっかけは2016年の熊本地震です。私たちも一緒になってデータ中継したところ、地震発生当時から数日間、Twitterにアップされた被害状況に関する投稿は、九州エリアだけでも2000件ほど。こういった大規模な災害時に、これらの情報をすべて人の手でチェックして迅速に報道するのは、非常に難しいとわかりました。

日常的な事件や事故の場合、上がってくる投稿は少なく、緊急性を要するばかりではありません。一方、大規模な災害になればなるほど、より早くて正確な情報が必要になります。そこで、AI記者がSNSにアップされる膨大な投稿をきちんと解析し、客観的かつ確実性の高いニュースが作れたら報道の現場で大きな役目を果たせるのではないでしょうか。AIなら現場の混乱や人手不足、深夜業務といった悪条件でも対応できますから。

――AI記者は人間の仕事を奪う存在になるのかと危惧しましたが、人が対応しきれない場で活躍してくれるなら、頼もしい助っ人になりますね。実用化のメドは立っているのでしょうか?

実用化はまだまだこれからですね。一番重要なのはニュースを正確に書けるかどうか、です。ニュースの深掘りは人間が取材して記事を書けばいいとして、最初のストレートニュースを誤報なく正確に書けるようになることを目指しています。

AIには過去の膨大なニュース原稿を学習させてあるので、「いつ・どこで・何が発生した」という正確なインプットを与えれば、文脈に沿って記事を書くことは一応できるんですよ。ただ、その正確な情報をいかに投稿の中から抜き出して、場所や発生時間はもちろん、何が起きてどんな状況に陥っているのかを判断・執筆するのが、AI記者が今後クリアしていくべき課題になります。

――すでに日経新聞やNTTデータをはじめ、AI記者を活用して新聞記事やニュース原稿を作成する動きが出ていますよね。

そうですね。昨年のリオデジャネイロ五輪でも、アメリカの「ワシントン・ポスト」がAI記者を速報担当にしていました。IR情報や気象情報、スポーツ、経済、そして私たちが取り組んでいる社会情報などは、ある程度フォーマットが決まっているので、これらについては十分AI化できると考えています。

おそらく、AIに難しいジャンルは政治ではないでしょうか。事実を正確に伝えるのはAIにもできますが、政治は過去の経緯を踏まえていたり、書き手の意志が反映されたりする世界ですので、これをAI記者が担うのはまだまだ難しいでしょう。

主観のない“生の情報”はおもしろい

――過去に村上さんは堀江貴文さんとの対談で、“記者の目”を通した報道の大切さを認める一方で、一般ユーザーが発信する生の情報にしかないおもしろさについて語っていたのが印象的でした。

私がよく言うのは、ライブ感なんですよ。目の前で起こっていることについてリアルタイムで事実だけを伝え続けるだけで、そこにおもしろさが生まれる。ラジオのスポーツ中継がそうですね。アナウンサーは「打った」とか「走った」としか言ってないけど、何も主観が入っていない生の現場情報を流し続ける楽しさがある、と。

――きれいに編集されていないものの価値、ということですか?

そうですね。そもそもTwitterのおもしろさってそこなんです。SNSの投稿は、編集されていない一般ユーザーの投稿だからこそおもしろい。同じものをプロが上げると、途端につまらなくなることってありますよね。

インターネットが普及する以前は、プロが作った記事を読む、映像を見るのが情報摂取のスタンダードでした、そこに素人が書くブログが出てきて、SNSが出てきて、素人が書いて、素人が写真を撮るようになっていった。そのおもしろさは、既存メディアの情報発信とは対極にあります。今、メディアは少しずつ一般ユーザーに寄ってきていて、バラエティでもYouTubeの映像とかネット発のものをバンバン流しているじゃないですか。

ただ、その数はどんどん増えて、そこから正しく価値ある情報を見つけなきゃいけない。各メディアはいま、ものすごく手間をかけてそれを探しているわけです。誤解を恐れずに言えば、一般ユーザーの投稿って99%くらいは情報としての価値がありません。その中で必要なたった1%を懸命に探しているわけですよ。「Spectee」は災害や事件に特化していますが、その必要な1%をいかに効率よく、リアルタイムに届けるかが私たちの使命です。

「Spectee」が広がることで、ニュースそのものの質がどんどん変わってきているのではないかと感じています。UGC(User Generated Contents ユーザー生成コンテンツ)を積極的に取り入れるようになって、それに対する動きも非常に速くなっている。最近は、夕方5時台のニュースに結構な確率で速報が入って、そのまま生中継しているんですよね。そのくらい、マスメディアがライブ感を出していくために動いているし、そうしないとウェブメディアに勝てないところまできてしまったんじゃないでしょうか。

全自動メディアは実現可能なのか?

――こういった技術が進歩した先に、ロボットジャーナリズムを超えて、全自動のメディアが生まれるんじゃないかという可能性を感じます。村上さんはどうお考えですか?

完全かはわかりませんが、自動化は進んでいくと思います。実は、もうすぐ「Spectee」で開発していた自動読み上げ機能をリリースすることになりました。実際の音声を再生してみましょう。こんな感じです。

「第二報。神奈川県、強風で足場が崩れ電線に倒れかかり。海老名市、海源寺交差点付近」

この機能は、ずっと「Spetee」画面を監視していなくても、最新情報がチェックできるようにするために開発した機能です。まだイントネーションについては調整が必要ですが、これに映像をつけたら全自動のニュース番組になりますよね。

――確かに……。ということは、アナウンサーもいらなくなるってことですか?


ソニーが開発中のデジタルアナウンサー「ニュースマネージャー」。2016年8月に、渋谷で公開実証実験が行われた

そうです。すでにソニーは、バーチャルアナウンサーを開発しています。この映像は、共同通信デジタルのニュース原稿を読み上げて音声をつけたものですね。私たちが同様のものを開発すれば、情報収集から報道まで全自動でできるようになるでしょう。

読み上げ機能自体は、今までにもさまざまな技術があります。このソニーの技術は単に読み上げるのではなく、口の動きをテキストに連動させているので、すごく自然な感じで聞こえるんですよね。この技術が進歩すれば、情報収集からニュースキャスターの読み上げまで、全自動メディアが実現できると言えるのではないでしょうか。

――ネットの速報記事どころか、そう遠くない未来にAIはニュース番組までカバーしてしまうかもしれない、と。

そうですね。ただ、やはりAIがすべてではありません。AIの読み上げと人間の生の声で読んでいるときに受ける印象は違うものですから。バーチャルだけずっと聞いていたら、人間はすごいストレスを感じると思います。AI記者でも、読む人間側がそれに飽きたり不快に感じたりすることはあるでしょう。

今は「AIでここまでできるのか」と高い関心が集まっていますが、SNS投稿の使用許諾botのように、人間はbotだってわかった瞬間に冷めてしまう可能性は高いと考えています。たとえ理屈として全自動化できるとしても、生活者がニュースや報道に接する際、どこか血の通った人間らしさを求めるのではないでしょうか。