鹿島アントラーズが考える「ファンマーケティング」とその先――周辺人口が東京の20分の1でも生き残る道とは?

国内タイトル獲得回数は、最多の通算19冠。2016年にはアジアサッカー連盟 (AFC) 所属クラブで初めてFIFAクラブワールドカップ決勝進出も果たした「鹿島アントラーズ」。長年、強豪クラブとして、多くのサポーターを獲得してきたチームだ。

「勝利が最大のファンサービス」という言葉があるように、クラブ経営は「強いチーム」を作るための選手の補強に走りがちだ。しかし、アントラーズはJリーグ創設当時からファンクラブを通じた地道なマーケティング活動を行なってきた。

今年4月には、メルカリとオフィシャルスポンサー契約を締結。また、チームの本拠地である「茨城県立カシマサッカースタジアム」に高密度Wi-Fiも導入し、時代に合わせたサービスを提供している。一方で、鹿島アントラーズFC 取締役で事業部長の鈴木秀樹さんは「『ファンマーケティングをやろう』と考えて取り組んできたわけではない」という。

その真意とアントラーズがこれまで取り組んできたファンマーケティングについて、鈴木さんに話を聞いた。

周辺人口78万人。生き残るために必要だったのは、“常勝”と“データ活用”

――鹿島アントラーズはJリーグ創設時からファンクラブを運営しています。今でこそ当たり前のマーケティング施策ですが、当時なぜファンクラブを作ろうと考えたのでしょうか?

クラブ経営において最も重要な入場料収入を確保していくには、必要不可欠だったからです。我々のホームスタジアム「茨城県立カシマサッカースタジアム」がある鹿嶋市の人口は6万7000人。スタジアム周辺30キロ圏内の人口を含めても78万人しかいない。このマーケット規模で商売になるかと考えたら、商売にならない。なるわけがないんです。

だって、考えてみてください。同じ関東圏にあるクラブの浦和レッズやFC東京、横浜F・マリノスは都市部にあり、1800万人~2000万人規模のマーケットを対象にビジネスを展開している。我々とは20倍以上もの差がある。そもそも、置かれている環境がまったく異なるわけです。

そうした厳しい環境の中、入場料収入を確保していくためには、まず鹿島アントラーズの知名度を上げることが大切だろう、と。だからこそ“勝つ”ことを第一に考え、強いチームづくりに取り組みました。

――なるほど。だから当時、海外の有名選手だったジーコやアルシンドなどの補強を行なったんですね。

そうですね。私からしてみれば、このチームづくりもマーケティング活動の一つです。「アントラーズは強い」というイメージづくりに取り組んできましたが、その情報を伝える手段がなかった。その問題を解決し、一人ひとりのファンとつながるために、ファンクラブを創設しました。

――Jリーグに所属するクラブの中でも、かなり早い段階でファンクラブを立ち上げたんじゃないでしょうか?

約20年以上も前ですから、かなり早いほうだと思います。立ち上げ当初は、新聞の折り込み広告しか試合の告知をする方法がありませんでした。都市部にあるクラブなら、看板やポスターなどの駅広告、電車内の中吊り広告を使って告知できますが、茨城県における通勤・通学の手段はほとんどが車。電車を使っている人がいないので、中吊り広告は効果がない。全国で唯一、ローカルの放送局もない。

そうした状況の中、広告費をかけずにサポーターとつながれる唯一の手段がファンクラブでした。チーム強化を継続的に行いつつも、サポーターを固定化し、直接アプローチすることによって、鹿島アントラーズに興味・関心を持ってもらえる人を増やそう、と。こうした地道な取り組みを続けて、サポーターの数を増やしていきました。結果的に、現在は観客数の約50%が周辺30キロ圏外からのサポーターになっています。

新規サポーターの獲得を目指すデジタル施策

――高密度Wi-Fi環境の整備やメルカリとの提携など、デジタル施策を次々と展開されていますが、ずばりその狙いは?

新規サポーターの獲得です。1993年のJリーグ創設から、我々がファンクラブ会員の獲得と各試合の来場者数アップに注力してきたのは先ほどお話しした通りです。ただ、これまでの25年間を振り返ってみると、既存のサポーターを大事にしてきた一方で、スタジアムが非常に閉鎖的な空間になっていた。

「サッカーは嫌いじゃないけれど、スタジアムには熱狂的なサポーターが多そう」というイメージが先行し、ビギナーのファンにとってやさしくないスタジアムができあがってしまったんです。その結果、新規のサポーターは増えず、既存サポーターの平均年齢だけが上がっていく……という状況になってしまった。

もちろん、ここまでの成長は既存サポーターあってこそですが、今の状態のままでは将来性がない。放っておいたらクラブがなくなってしまう。この状況を脱するには、誰もが楽しめるスタジアムに変えていかなければいけないと考えて、現在さまざまな施策を展開しています。

――若年層を新規サポーターにしていこう、と。

そうです。2017年シーズンから、Jリーグがスポーツライブストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」と放映権契約を結んだことで、若年層のスマートフォンユーザーもアントラーズの試合の模様を観られるようになりました。CS放送からスマホへの配信切り替わった今がチャンスだろうということで、新規のサポーターが楽しめるスタジアムづくりを行なっています。

たとえば、メルカリとのパートナーシップの締結。これは両社が獲得している顧客層が異なるからこそ成立したものです。メルカリのユーザーは20代~30代の女性が中心ですが、アントラーズは30代~40代の男性やファミリー層がメイン。アントラーズからしてみれば、今までアプローチが難しかった若年層の女性に対してアプローチが可能になる。マーケット・新規顧客の開拓という点で大きなメリットがあると思いました。

メルカリとの取り組みとして、まずは、ホームゲームとクラブ関連イベントの開催時に、JR鹿島サッカースタジアム駅から茨城県立カシマサッカースタジアムまでの太陽光発電下の道を「メルカリロード」と名付け、4月8日に開催されたセレッソ大阪戦では、オリジナルステッカーの配布やフォトプリントサービスを展開しました。さらに、ライブ配信で商品の販売・購入ができる機能「メルカリチャンネル」を活用し、ホームゲーム開催時限定で、試合後に選手のサイン入りグッズなどを出品しています。

ファンの間に“差”を作り出していく

――高密度Wi-Fi環境の整備も、若いスマホユーザーを意識しての施策でしょうか?

そうですね。スタジアム内でのユーザーの利便性を考えての施策ですが、我々にとってもWi-Fi環境はメリットが大きいんですよ。たとえばチラシ。スタジアムでは、よく来場者に向けてチラシを配布しますが、あれって印刷代や人件費をかけているのに、あまり効果的ではないんですよね。最終的にはゴミ箱に捨てられてしまうことが多いわけですから。

それを、無料のWi-Fiを通じたクーポンやお知らせの配信に変えれば、自然とチェックしてもらえる。さらに「“いますぐ”登録すればサインがもらえる」という特典があれば、よろこんでメールアドレスや住所といったユーザーデータを提供してくれる。お互いWin-Winですよね。ユーザーは便利なサービスが受けられるようになり、我々は今までアプローチできていなかった層のユーザーデータを手にできる、というわけです。

――スタジアムでWi-Fiに接続したら、ポータルサイトに遷移するのでしょうか?

その通りです。7月から高密度Wi-Fiサービスの提供を開始しましたが、今後いろんな使い方ができそうだと思っています。

現在、ファンクラブにはフリークスメンバーやメガメンバー、ファミリーメンバーといったランクづけを行っています。ランクに応じて、選手直筆のサイン入りバースデーカードのプレゼントや、会報誌「月刊FREAKS」の裏側が知れるコラムの配信などの特典を提供しています。これをWi-Fiサービスにも適用し、ファンクラブのランクによってスタジアム内のご飯が優先的に購入できたり、限定コンテンツを閲覧できたりするという仕組みにしたいですね。

イメージは航空会社です。マイルのポイント数でランク付けを行ない、上位のランクになれば優先搭乗のような特別なサービスを受けることができますよね。このシステムを参考にし、サービス内容に差を出していければな、と。

スタジアムを“サッカーの試合をする場所”から“地域の拠点”へ

――ファンクラブに始まり、スタートしたばかりのデジタル施策など、ファンマーケティングがアントラーズを支えてきたのですね。

それはそうですね。ただ、いくらファンを増やすと言っても、やがて限界を迎えるでしょう。今後も継続的にチームを運営していくためには、スポーツやスタジアムのあり方を見直す必要があると思います。

――どういうことでしょうか?

たとえば、なんとなく「スポーツでお金儲けをするなんて汚い」と思っていませんか?

――確かに。そういうイメージはあるかもしれません。

日本では、これまで「スポーツ」ではなく「体育」、「スタジアム」ではなく「競技場」という言葉を使って、学校教育を行なってきました。その結果、スポーツとビジネスを結びつける考え方に疎くなってしまったと私は感じています。実際、GDP比率から考えると本来15兆円ほどあるはずの日本のスポーツ関連ビジネス市場は、5兆円規模に留まっている。これでは、わざわざ自分たちの首を絞めているようなもの。このままではジリ貧なんです。

先日、視察でニューヨークへ行ってきたのですが、アメリカと日本とではスタジアムに対する考え方一つとっても正反対でした。アメリカは、「スタジアムを維持するためのコンテンツの一つとしてチームを持つ」という考え方で、スタジアムを持っている人たちがスポーツチームを支えているんです。一方で、日本は「チームのためにスタジアムが存在している」という考え方にもとづいて、チームがスタジアム経営も行おうとしています。

そこで、我々は「カシマサッカースタジアム」を“サッカーの試合をする場所”ではなく、“地域の拠点”と捉え、試合がない日でも365日楽しめる場所にしていくことを目指しています。サッカーの試合があるのは年間でたった30日ほど。それ以外の期間、スタジアムは空いているんです。

もちろん、サッカー以外の競技も行われますが、それだけではまだ足りないでしょう。そこで、たとえば、アントラーズのチームドクターが中心となって整形外科医療とリハビリテーションを提供する「アントラーズスポーツクリニック」や、最新のトレーニングマシンを導入したフィットネスクラブ「カシマウェルネスプラザ」をつくりました。

チームを支えるために、周辺ビジネスを行うんです。こうすることで、地域住民に愛されるスタジアムをつくるとともに、従来のファンマーケティグとは異なる面からクラブ経営を支えることができます。このように地域を盛り上げていく中で、新たなサポーターが増えていく。そうやって、スタジアムを中心とするいい循環を生み出していければと考えています。