アニメを見て“働き方改革”!? 「働く」視点で楽しむ2017年夏アニメ

日本はアニメ大国。この7月から放送が始まった作品(夏アニメ)は50本を越えている。これだけタイトル数があると、一言にアニメと言っても多種多様。子ども・マニア向けだけでなく、大人が観ても学びが得られるものが少なくない。

近年、アニメは配信も充実しているので、今からでも1話から追いかけることが可能な作品も多数【※】。そこで、このコラムでは「働く」という視点から楽しめて、学びも多い2017年夏アニメ作品の見所をご紹介しよう。
※ 見逃し配信は、無料/定額見放題で放送済みのエピソードが視聴できるサービスを中心に紹介。配信に関する情報はすべて2017年8月28日現在のもの。

先輩としてどう振る舞えばいい? そんな悩みにヒントをくれる『NewGame!!』

  • 公式サイト http://newgame-anime.com/
  • TV放送 TOKYO MX 火曜日 24時30分~など
  • 見逃し配信 Amazonプライムビデオなど

高校卒業後、ゲーム会社イーグルジャンプに入社した涼風青葉(すずかぜ あおば)が、3Dゲームの開発チームに配属され、「働くとはどういうことなのか?」 をイチから学びながら、幼い頃からの夢であるキャラクターデザイナーとして成長していく物語。

今期でシーズン2を迎えた人気作。主人公も社会人2年目を迎え、登場人物たちもそれぞれ少し上の役職・立場となった。第1期を見ていない人も、第1話は社内面談のシーンを通じて、登場人物の役割や特徴が把握できる。ちなみに、Amazonプライムビデオでは第1期も全話視聴が可能なので、最初からストーリーを追いたい方はまずそちらをチェックしよう。

青葉が所属するのは女性ばかりのチームだが、同性同士のドロドロとしたやり取りはみじんもなく、先輩もみんな親切な“やさしい世界”。なので、仕事で疲れていても、(たぶん)心を削られることはない。一方で、プロデューサーやプログラマー、デバッカーといったさまざまな職種のキャラクターたちは、「売上のために一見冷たい判断も下す」「コミュニケーションを取るのがすごく苦手なのに、趣味の話をしだすと止まらない」「仕様変更をひどく嫌う」など、一癖ある人物たちが揃っており、リアルさも兼ね備えている。

入社から1年がたち、少しずつキャラクターデザインの経験を積んだ青葉が、憧れの先輩である八神コウ(やがみ こう)と社内コンペで競い合う展開も待ち受ける。お互い気を使いながらも、まっすぐに自分に向かってくる後輩を、突き放すべきか応援すべきなのか悩むコウの姿には、後進の育成に悩むビジネスパーソンにも共感できる部分が多いはずだ。

基本的にはほのぼのコメディながら、働く上で誰しも経験する困難を描いている『NewGame!!』。ゲーム開発現場が舞台であるがゆえに、徹夜で期日に間に合わせる……というハードな場面も多い。決して「楽」ではないが、完成を目指してみんなが「楽しく」働きながら成長していく――そんな姿に元気をもらえる物語だ。

この作品の見どころ ※ここからネタバレ要素を含む

「働く」という視点で注目したいのは、第2話。人気ゲームシリーズ最新作のコンペで、自身のキャラクターデザインが初めて採用された青葉。青葉の上司でアートディレクターのコウは、「従来の作風から飛び出せていない」という自分のデザイン案へのダメ出しを受けたショックと、才能あふれる後輩に追い抜かれるかもしれないという危機感から、青葉にキツく当たってしまう。

しかし、コウの同期のプロデューサー・遠山りんから「入社した頃に同じような思いをしたなら、どう接すればいいか。彼女にどうなってほしいかわかるはず」というアドバイスを受け、心機一転、青葉と一緒にデザインをブラッシュアップすることに。長くシリーズ作品に関わることで、技術は高いものの作風がパターン化しがちなベテランと、未熟ながらも新鮮なアプローチができる新人が力を合わせることの難しさ、そしてその困難を乗り越えることで得られる成果が、30分という短いエピソードでしっかりと描かれている。

かわいいい絵柄も相まって、本作は一見すると、いわゆる“萌えアニメ”っぽい(もちろんそこもこの作品の大きな魅力の一つだ)。しかし、原作マンガの作者である得能正太郎さんはゲーム会社に勤務した経験の持ち主で、アニメ版の制作スタッフたちも、実際のゲーム開発の現場を丹念に取材しているという。『NewGame!!』は、ゲーム制作現場=現代のものづくりの最前線を舞台にした王道の「お仕事アニメ」なのだ。

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冴えない彼女の育て方』や『少女たちは荒野を目指す』もゲーム作りに邁進する物語。制作会社が舞台であった『NewGame!!』とは異なり、いずれも学校のサークルを舞台に、同人アドベンチャーゲーム制作を描いている。同人即売会に向けた締め切りの追い込みやライバルとの競争といった障害を乗り越えつつ、ものづくりをめぐるコミュニケーションについて考え、学べるエピソードが数多く登場する。

ポジティブオタクは逆境に強い!? 『ナイツ&マジック』

  • 公式サイト http://knights-magic.com/
  • TV放送 TOKYO MX 日曜日 夜22時30分~など
  • ネット配信 dアニメストアなど

いまアニメ界では、“異世界転生もの”と呼ばれるジャンルが大人気だ。『ロード・オブ・ザ・リング』のような独特なファンタジー世界とは異なり、「ドラクエ」に代表されるわかりやすいRPG的な世界に、現代(現実世界)から主人公が転生して、現代技術や知識を用いて生きていく、というのがその物語の基本的な構造となっている。当然、主人公は圧倒的に有利な立場に立つように描かれることも多く、チート(ずる)をするキャラと揶揄されることも。

この「ナイツ&マジック」の主人公も一見、そんなチートキャラに見える。物語の冒頭、凄腕プログラマーで重度のロボットオタクである倉田翼は、交通事故によりあえなく死亡してしまう。しかし、剣と魔法、そして「シルエット・ナイト」という人型兵器が活躍する異世界に“美少年”として転生するのだ。生まれ変わった主人公は、とある騎士の家の子エルネスティ・エチェバルリア(通称エル)として、前世の記憶と知識を持ったまま新たな人生を歩み始める。

プログラマーとしてのコーディングのスキルを、人型兵器の動力や火力となる魔法の術式に応用したり、前世で培ったビジネスパーソンとしてのコミュニケーション力で窮地を切り抜けたりと、異世界でもその知識や才能を遺憾なく発揮するエル。異世界での人生を順風満帆に謳歌できるかのように思えたが、巨大モンスターやテロリスト集団といった強大な敵との戦いに加え、人型兵器の開発をめぐる政治的な駆け引きにも巻き込まれていくことに……。

この作品の見どころ ※ここからネタバレ要素を含む

前世でロボットオタクだったエルは、シルエット・ナイトを、敵国やモンスターといった脅威を取り除くべく、より強く・合理的な兵器を目指して、開発工房を巻き込みながら改良を施していく。同時に、操縦士としてロボットに乗り込んで戦果を上げ、ついには新型機の開発を任されるに至る。

それを快く思わないのが、数百年にわたってロボット開発を一手に担ってきた国立の開発研究工房。国王の側近ディクスゴード公爵は、「エルに政治的な野心があるのではないのか?」という疑いをかける。幽閉に近い形で公爵に尋問を受けるエルだが、なんと、惜しげもなく新型機の概要やその課題点を黒板で解説してみせる。その様子は、いかにも現代の「プレゼン」を彷彿とさせる演出だ。しかし、プレゼンの結果、新型機の評価・運用は公爵の管理下に置かれることに。せっかくの新型機も召し上げられてしまう。

新型機という成果を携えて出世を図ろうとするならば、エルにとってまったくおもしろくない展開だろう。それにもかかわらず、エルは目を輝かせながら「あとはどうかよろしくお願いします」と応じる。ロボットオタクの彼にとっては、次々と自らの手でロボットを作れることこそが喜びであり、それをめぐる権力争いや駆け引きなどにかまけている暇はないのだ。

現実の仕事の現場でも、夢中になって立てた企画を上司やライバルに横取りされてしまうケースは、残念ながら皆無とは言えない。それをずっと根に持って、報復の機会ばかりを狙ったり、次のアイデアを共有することに消極的になってしまったりして、結果として埋没してしまう人も少なくない。しかし、エルのような“ポジティブなオタク”は、こんな逆境にも強い。国王からの報賞として人型兵器の動力源に関する情報を求めたエルは、その理由を公爵に問われてこう即答する。

「趣味にございます!」

そんな純粋さは危うさとも表裏一体。あまりにも趣味に走ったエルの開発機は、燃費が悪かったり、常人には扱いづらかったりするものに。そこで国王は、エルには“暴走”を許してシルエット・ナイトのイノベーションを促進させる一方で、国立の開発研究工房には量産化における極端な設計や運用上のリスク排除の役割を担わせ、両者を適材適所で組み合わせる老練さも見せる。周囲のキャラクターたちもなかなかに魅力的だ。

マネージャーやプレイヤーなど、読者の仕事上の立場はさまざまだとしても、自分と重ね合わせて味わえる物語になっているだろう。原作は小説投稿サイト「小説家になろう」で連載中なので、あわせて読み進めるのもオススメだ。

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ファンタジー世界でのロボットバトルという要素では、『天空のエスカフローネ』が原点の一つとも言える。こちらは、現実世界と異世界を行き来することになる女子高校生が主人公。また、数々の障害を乗り越えながらロボット開発に情熱を注ぐというテーマでは、手塚治虫の『鉄腕アトム』を原案に、鉄腕アトム誕生までを描く『アトム ザ・ビギニング』も最近アニメ化された作品として押さえておきたい。

また、エルも憧れたパイロット自らがロボットを改良するシチュエーションが効果的に使われた作品としては、『機動戦士ガンダム』は外せない。Amazonプライムビデオでは、その前日譚『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の第4話までが配信中だが、そこでは主人公アムロ・レイの父がガンダム開発に至る経緯も取り上げられているので、こちらも要チェックだ。

「町おこし」というお仕事の幻想と現実――『サクラクエスト』

  • 公式サイト http://sakura-quest.com/
  • TV放送 TOKYO MX 水曜日 深夜24時~など
  • ネット配信 Amazon プライムビデオなど

お仕事アニメの名作を手がけてきたアニメ制作会社P.A.WORKS(ピーエーワークス)の最新作が、この『サクラクエスト』。就職活動に失敗し、1日限定のバイトのつもりで田舎町を訪れた主人公の木春由乃(こはる よしの)が、村おこしを率いる「国王」として仲間たちと難題を解決していく。

かつては観光地として栄えたが、現在は目立った産業もなく寂れてしまった田舎町「間野山」という、現実に日本のどこかにありそうな場所を舞台にしている。今年4月から放送している2クール(半年間)作品ということもあり、取り上げられるテーマは多岐にわたる。売れない名産品をネットでPRしたり、かつての観光資源である木彫り細工を現代風にアレンジしたり、ご当地グルメ開発に取り組んだり……といった具合だ。

現地で仲間となる女性たちは、面倒見のよい観光協会の職員や元女優、商店会長の孫でオカルトマニア、IターンしてきたWEBデザイナーと多彩な顔ぶれ。それぞれの得意分野を活かした活躍を見せる。

この作品の見どころ ※ここからネタバレ要素を含む

物語の舞台として、トーマス・マンの代表作『魔の山』にかけた町名を登場させていることからも、本作が時代の縮図を描いた作品であることがわかる。これは、人口減少と産業の衰退が押し寄せる地方と、そこで都会から訪れた主人公が何を感じ取り、学んでいく物語なのだ。

明るい色調で描かれ、一見楽しそうな雰囲気のアニメ作品だが、主人公の由乃が置かれた状況はなかなかに過酷。1年間という期限付きでの町おこしが失敗すれば、東京に戻ることになる。ことごとく就職活動に失敗した彼女が満足できる仕事に就けるかどうかの保障はない。仲間の助けを借りながらトラブルを解決していくが、観光協会・地域住民・地元商店街の思惑はバラバラ。新参者の由乃のアイデアはなかなか形にならないのだ。

アニメとしてデフォルメされているものの、取り上げられる出来事は、実際の地域おこしでよく聞く失敗事例と重なる。象徴的なのは、第12話~第13話で地元テレビ局の協力を得ながら、イベント運営をするエピソード。テレビは町おこしに邁進する彼女たちを「町興しガールズ」として取り上げ、人気バンドを間野山に招いてイベントを盛り上げるという「演出」を施す。その結果、予想を遙かに超える来場者が町に押し寄せたが、あくまでそれは人気バンドが目当て。町に残されたのは、使われなかった買い物券と来場者によるゴミの山だけだった……。

この失敗をきっかけに、由乃たちはより地元に根づいた活動を目指すようになっていく。たとえば、住民に配布されていたタブレットを活用して、住民同士の交流を図るオンライン掲示板や、廃線予定のバスの代わりにネット予約制のデマンドバスを運行させる。これらの町おこし施策は、イベントやお祭りのような派手さはなく、効果が見えるまでにとても時間がかかる取り組みだ。だが、本当の意味での「町おこし」には何が必要なのかを、サクラクエストは描き出している。

2クール作品ということもあり、物語前半は主人公と登場人物たちの挫折が続くので、なかなか見ていてスカッとする作品ではないが、「衰退する地方」は私たちの誰もが無関係ではない問題。彼女たちがどんな解決の糸口を見出すのか、注目しながら物語のクライマックスを見守りたい。

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『サクラクエスト』を手がけるP.A.WORKSは、これまでにもアニメ制作の現場を描いた『SHIROBAKO(シロバコ)』、温泉宿を舞台にした『花咲くいろは』などのお仕事アニメを生みだしてきた。特に、現実世界でも最近低賃金や長時間労働といった問題が指摘されているアニメ業界を、そこで働く人々がどんな情熱を持って取り組んでいるのか、実在の人物もモデルにしながら鮮やかに描いた『SHIROBAKO』は、筆者も繰り返し視聴している名作だ。未見の読者にはぜひ一度ご覧いただきたい。働くことの厳しさと同時に、そこにある喜びも再発見できるはずだ。

 

今回ご紹介したのは「働く」ことに焦点を当てた3作品だが、このほかにも続々と新作が生まれ続けているアニメ作品には、社会人が見ても学びが多いものがまだまだたくさんある。ドラマではなく、アニメがなぜ物語を表現する手法として存在感を示すようになったのかは、こちらのインタビューも参考にしてほしい。

「アニメなんてオタクっぽい」といった先入観は一旦脇に置いて、どうか最初の3話だけでも見てほしい。そうすることで、そこに込められた作り手の情熱やメッセージの奥深さを感じ取ることができるはずだ。それはあなたの働き方を変えるものになるかもしれないのだから。