はてブ1000超の新人研修! ITエンジニア教育のポイントをリクルートテクノロジーズに聞いた

新人教育をはじめ、人に何かを教えることは難しい。特に、技術力や専門分野に差が生まれやすいエンジニアであればなおさらだろう。

そんな新人エンジニアの研修資料を、リクルートグループが展開する数々のウェブサービスを支えるリクルートテクノロジーズが公式ブログで公開し、はてブ(はてなブックマーク)数1000を超える反響を呼んだ(2017年8月現在)。同社の現場で活躍するスペシャリストたちが手がけた内容は、日々の業務に役立つ知識にとどまらず、エンジニアとして成長するためのマインドや学び方など、一人のエンジニアとして生きていくことも意識したものになっている。

同社でも初めての試みだったという「新人研修 特別編」の背景や内容、目指したゴールについて、企画から中心メンバーとして携わった、テクノロジープラットフォーム部 アプリケーションプロダクト開発グループでマネージャーを務める五味和人さんにお話を聞いた。

画一的な研修からの脱却を目指す初の試み

――今回の「特別編」と銘打った新人研修は、どのような背景から企画されたのですか?

これまでも「ブートキャンプ」と称して、社外講師を中心とした新人研修を毎年3カ月間実施してきました。しかしリクルートでは、エンジニアコースやデータ解析コース、UXデザインコースなど、一口に新人と言っても、バックグラウンドや専門性がさまざまな若手を採用しており、経験値もバラバラ。画一的な内容では、すでに知識がある人にとっては退屈な時間になってしまい、時間的にもモチベーション上も非常にもったいないと感じていたんです。

そこで今年は、アドバンストプログラムとして、エンジニアリング知識を学ぶ最初の1カ月間をより専門的な内容を教える形に変えてみました。しかも、現場で活躍しているスペシャリストによる実践的な研修です。

――研修の対象者はどんな方だったのですか?

特別編の研修は初の試みだったので、まずは私が所属するテクノロジープラットフォーム部に配属予定の新入社員4人を対象に実施しました。新人はみな優秀な人ばかりですが、それぞれの専門性は異なるので、たった4人でも足並みが簡単にそろうわけではありませんでした。

たとえば、一口にエンジニアと言っても、インフラエンジニアだと今回の研修で取り上げたJavaやJavaScriptには詳しくない人もいます。特に、Javaはもう古い言語として扱われており、学ぶ機会が減っているようですからね。学生時代に「Webサービスを作ろう」と思っても、今はJavaを選ぶことはほとんどない。人数が増えれば増えるほど、専門性のバラつきが大きくなってしまうので、まずは少人数で試験的に実施することにしました。

自分の足で前へ進めるように「道しるべ」を立ててあげる

――研修のゴールはどこに置いていましたか?

一つは、実際にリクルートで使っている主要な技術要素の全体をつかむこと。プログラミング言語ならJavaやJavaScript、データベースならOracle、全文検索エンジンならElasticsearch、AnsibleのようなIaCやAWS、セキュリティといった、コアとなる要素を理解してもらうことが第一のテーマでした。

そして、もう一つはそこから業務に必要な知識をピンポイントで拾いにいけるようになること。それぞれの技術要素には覚えなければならないことがたくさんあります。スペシャリティのある先輩社員たちが、自分の経験をもとに「まずはここを押さえておくべき」というポイントを示すことで、新人が知識を学ぶ上で、迷子にならないようにすることを考えました。どこを目指せばいいのか、道しるべを立ててあげよう、と。

私は社会人になって18年目ですが、自分の若い頃はまず覚えるべきことが今よりずっとシンプルでした。いまのITは技術要素が非常に多岐にわたります。リクルートで採用しているものだけでもさまざまで、新人にとっては、どこから手を付けるべきか迷いがち。いまの若い人が置かれている状況は、我々とはまったく違うのだということを前提に教えなければなりませんでした。

――最初に「エンジニアとしての心構え」の講義を担当された和田卓人さんは、いずれ技術書を執筆するように勧めていますね。

リクルートテクノロジーズの技術顧問を務めている和田は、多くの技術書を執筆・監修しています。技術の本は、その分野のことを本当に理解していないと書けません。表面的な理解にとどまらず、しっかり深掘りしましょうというメッセージだと思います。

和田の講義で特に大切だと思ったのは、時代や環境に左右されない“コア”の力を身につけることの重要性です。技術のトレンドはすぐに移り変わってしまうので、流行ばかりを気にしていては、いろんなことが中途半端になってしまいます。

枝葉よりも根や幹の部分を知ることは、一人のエンジニアとして生きていくための財産。コアが不十分で表面的な理解しかできていないと、いつか技術者としてはつらくなります。ベースがあってこそ新しい技術にもついていけるのかな、と。

――たとえば、どんなことがコアに当たるのでしょう?

いろいろありますが、個人的にはプロトコルレベルやCPU、メモリー、プロセス、スレッドがどう管理・活用されているか。並行性や並列性、歴史などですね。プログラム言語一つにしても、選択肢がものすごく増えて、流行りやシンタックスで選んだりするケースも見受けられますが、そこばかり見ていては、本来取るべきだったピースが欠けてしまうのではないでしょうか。

いまはハードウェアにも詳しくなくても、クリックしたらサーバーが使えます。メモリーが足りなくなれば、買ってきて取り付けなくても、画面上の操作だけで簡単に増やせる時代。チューニングしていかに効率よく動かすかなんて発想がなくても、どうにかなってしまうのです。

――その感覚だと、現実にサービスを運用していくときに通用しなくなる、と?

そうですね。“動くことが目的化する”のは、ビジネスとしてはNGです。データベースにアクセスして、データを取り出すのに数秒かかっても学生レベルでは問題ないでしょう。しかし、「スケールアップすればいいんでしょ?」という発想ではプロのエンジニアとしては通用しません。「処理を0.1秒、0.05秒にするにはどうすればいいか」という発想が絶対に必要です。実際、データベースの研修の感想として、「効率化する発想が乏しかったので、学べてよかった」という声がありました。

――実際の運用まで想定して教えられる点は、現場のエンジニアが研修を担当するからこそですね。

これまで外部講師に依頼した研修は、単に使い方を教えるだけで終わってしまうことが少なくありませんでした。現場のエンジニアは何度も壁にぶつかって、「これを知っていればなんとかなる」という肌感があるので、その体験を伝えることができます。実際に問題に直面するまで、なかなか自発的に解消法を調べることはありませんが、問題が起きてからでは遅いこともある。トラブルの原因を探る方法や対処法は、いざというときに備えて教えておきたいことです。

――でも、せっかく教わっても、使わないと身につかないのでは……?

新人研修がそのまま役立つかといえば、すべてがそうとは限りません。しかし、いざ問題を前にしたときに、あのとき何か教わったなと振り返れるだけでも意味があるはず。具体的な内容は忘れていても、解決の糸口を見つける第一歩ともいえる“ググる力”があるのとないのとでは、大きく違います。そのときの講師が社内にいれば、直接連絡を取ることもできますしね。

リアリティのある研修は、新人以外も刺激する

――特別編の研修には新人以外も参加可能だったそうですね。

社内報で参加者を募り、対象となった新人4人と一緒に受講できるようにしました。職種に関係なく社員全員を対象にしていたので、和田の「エンジニアとしての心構え」は採用担当者も受講していました。

ただ、今回はあくまで新人のための研修。趣旨から外れてしまわないように、「新人の理解度に合わせて進める」「質問タイムは新人を優先する」「ディスカッションは既存の社員も一緒でもOK」といった基本方針を講師陣で事前に共有していました。また、全体に目がきちんと行き届くか、新人が萎縮しないかを考慮して、既存社員の定員は最大で12人に収めました。

――「特別編」として実施した成果はありましたか?

新人が例年よりも活躍しているかは単純に比較できませんが、間違いなく言えることは、実際のサービスに関わっているスペシャリストが教えることで、教科書にはない「リクルートは今こうなっている」ということを、リアリティを持って伝えられたのが大きいですね。リアリティがないと、なかなか頭に入らなかったり実にもならなかったりするので、そこは例年にない成果と言えるでしょう。

研修後に、新入社員4人に5段階で評価してもらったところ、軒並み高評価でした。もっとも、低評価はつけにくかったのかもしれませんが(笑)。参加してくれた2年目以降の若手からも「こんな研修は初めて」「自分たちの新人研修でも受けておきたかった内容」という感想が寄せられ、翌日には研修を受けた人から話が広がって、「研修資料が欲しい」という問い合わせがありました。

――そこで、社外向けのブログでも発信しようという流れに?

そうですね。もともと、情報をオープンにしていこうという価値観が会社全体で共有されているので、今回の資料公開もその一環です。こういった知見を世の中へ展開している企業であることを知ってもらえたら、とは考えていました。それに、リクルートはまだまだ営業のイメージが強く、いまだにインターンに参加した学生からは「こんなにエンジニアっぽい会社なんですね」という声も多い。そのイメージの前提を変えて、テクノロジーの会社としての存在感を高めようという狙いもありました。

成長するエンジニアは、何にでも興味を持って手を動かす

――今後、どういうエンジニアに育ってもらいたいと考えていますか?

技術の専門分野を伸ばして、リクルートのビジネスを加速させてほしいし、世の中にどんな貢献ができるのだろうと考えて、技術でアイデアを実現できるようになってほしいですね。

――そのために若いエンジニアが心がけるべきことは?

技術の古い・新しいを問わず、何にでも興味を持って手を動かしてほしいです。他人の意見や資料を見聞きして得た情報だけではなく、自分が触れて自分の言葉で消化して、常に自分の意見を発信できるようになってほしい。

和田が言う「本を書けるレベルになろう」ということにもつながりますが、「この分野では誰にも負けない」と胸を張れるものを複数持てるようになって欲しいですね。絶えず学び、成長することはプロのエンジニアとして必要不可欠ですし、たった一つの技術では何かを生み出すことはできませんから。