きっかけはハッカーへの憧れ!? 女性エンジニア向けコミュニティ「CTF for GIRLS」

日々、高度化と多様化が進むサイバー攻撃。ハッキングを仕掛ける攻撃者の考えを読み、脆弱性を予測してその脅威に対抗するのが、情報セキュリティ領域のエンジニアたちだ。そんな技術者たちが腕を競う「CTF」というイベントがある。

「CTF(Capture The Flag:キャプチャー・ザ・フラッグ)」とは、情報セキュリティ技術を競うコンテストだ。セキュリティ問題を解いて点数を競うクイズ形式、またはチームのサーバーを守りつつ相手チームのサーバーに攻撃をしかける攻防戦形式で行われる。米国のハッカーの祭典「DEF CON(デフコン)」で行われる「DEF CON CTF」をはじめ、楽しみながらセキュリティ技術を磨ける大会として、世界各地で開催されている。

中島明日香さん(左)と中島春香さん。「同姓だが姉妹ではない」とのこと

しかしながら、「CTFに興味はあるが、男性ばかりの大会へ参加するのは気後れしてしまう」という女性たちの声がある。そこで、2014年に女性エンジニアの手で設立された団体が「CTF for GIRLS」だ。

今回は、発起人である中島明日香さんにCTF for GIRLSの活動や女性エンジニアとしての課題について話を聞いた。また、副代表の中島春香さんが発案し、8月19日に開催された学生向けワークショップ「CTF for SchoolGIRLS」の様子もリポートする。

女性エンジニアの心理的なハードルを下げるために

――はじめに、主催の中島明日香さんにお伺いします。CTF for GIRLSを設立した意図をお聞かせください。

中島(明) まず、私自身の話になってしまうのですが、高校生の頃に、女子高生ハッカーがサイバーテロリストから世界を救う小説『Project SEVEN』(アルファポリス刊)を読んで、かっこいいと感銘を受けて情報セキュリティに興味を持ちました。大学でもセキュリティ専門の研究室に入り、現在はNTTセキュアプラットフォーム研究所に勤めています。

CTFとの出会いは大学生のとき。日本で一番強い「sutegoma2(すてごまツー)」というチームに入ることができました。幅広くセキュリティ分野の勉強になることはもちろん、競技形式で燃えるのがCTFの魅力です(笑)。

でも、CTFの勉強会には女性プレーヤーはほとんどいません。男性ばかりの大会なので、心理的なハードルを感じる方が多かったんです。「すごくおもしろいのにもったいない!」という気持ちから、女性にもCTFの機会を広げるために、このCTF for GIRLSを立ち上げました。同時に、技術的な質問や何気ない悩みを話し合うことができるコミュニティ作りも目指しています。

――これまでに7回のワークショップに加え、SF作品「攻殻機動隊」とのコラボイベントも2回開催するなど精力的に活動されていますね。

中島(明) 第1回のワークショップは、20~30人ぐらいしか集まらないのではと考えていましたが、実際には3日間で80人もの申し込みがあり、「こんなにセキュリティ技術に興味がある女性がいたのか」と驚きました。以降も、毎回80~100人ほどから申し込みをいただいています。

参加者は20代・30代の方がメインです。技術レベルとしては、情報系は知っていても、セキュリティに関しては初心者という人も含めて、ほとんどの方が初心者。セキュリティ関連の仕事に就いたことで興味を持ってくれた方が多いようです。毎回参加してくださる人もいますが、新規の方とリピーターは半々ぐらいです。女性エンジニアの数はまだ少ないので、コミュニティ作りに貢献できている実感があります。

2016年10月に行われた「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT × SECCON CTF for GIRLS」には、約40人の女性エンジニアが参加した

――大変好評なんですね。イベントの運営も順調に行われていらっしゃるようですが、課題に感じている点はありますか?

中島(明) お子さんがいらっしゃる方の参加は今後の課題ですね。ベビーシッターの用意や託児施設のある場所での開催などは、これから考えていきたいな、と。前回のワークショップでは、試みの一つとして、幼いお子さんがいる方に講演をお願いしました。講演中は、みんな交代でお子さんのお世話をして。こういった形で、少しずつですが前進していると感じています。

また、参加者にはCTF for GIRLSだけではなく、男性の方もいるような普通のセキュリティ勉強会にもどんどん参加していってほしいですね。

――CTF for GIRLSの今後の展望をお聞かせください。

中島(明) まずはコミュニティの拡大サイクルを維持して、もっと大きくしていくことですね。これまで都内でしかイベントを開催していないので、地方での開催も検討しています。

さらに言えば、国際化していきたいという願望もあります。韓国には「Power of XX」という女性限定のCTFがあり、実はその存在を知ったのがきっかけで、このCTF for GIRLSを立ち上げたんです。

また、台湾でも「HITCON GIRLS」という女性CTFコミュニティが生まれたので、彼女たちとの連携の第一歩として、仕事で台湾へ行った際に、HITCON GIRLSのメンバーと交流してきました。そこから、昨年の「攻殻CTF」で、HITCON GIRLSから問題提供もしていただいきました。いつかイベントを共催したり、何かの形で連携したりできたらと考えています。

さらに、11月10日開催予定の情報セキュリティ国際会議「CODE BLUE」で行われる一般向けのCTF国際大会「CODE BLUE CTF」とともに、CTF for GIRLSでも女性向けに「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT × SECCON CTF for GIRLS in CODE BLUE」を行います。9月19日から参加申し込みの受付を開始しました。出題する問題やアナウンスはすべて英語化するので、これまでにない挑戦ですが、国際社会に向けてCTF for GIRLSをしっかりとアピールしていきます。

女性エンジニアとしての優遇には葛藤を感じる人が多い

――圧倒的に男性が多いエンジニアの世界ですが、中島さんは男女差についてどう感じていますか? 先日Googleの社員が「女性は生まれつき技術者に向いていない」などと主張して解雇されたというニュースがありましたが。

Googleでのインターンでは”女性エンジニアゆえの配慮“を感じるシーンもあったという

中島(明) エンジニアの性差に関しては偏見が大きいと思います。そのニュースの根本には、母数の問題があるのかな、と。男性エンジニアよりも女性エンジニアが少ない現状、レベルの高いエンジニアを上から取っていくと、当然女性が少なくなる。そこで男女偏りなくに採用しようとするので、能力のレベルがずれてしまうのではないでしょうか。

私自身、学生時代にGoogleの「BOLDインターンシップ」に参加しました。当時は女性の学部生限定のインターンで、採用面接は一般のインターン応募者の男性たちと同じようにあったものの、私の主観ではその内容や倍率は一般のものと比べて易しかったのではないか、と感じました。インターンでは非常に貴重な経験をさせてもらい、大変感謝はしていますが、同時に私はこの「女性枠」でなければ、受かっていなかったのではないのかという葛藤も生まれました。

女性枠を作る動きは、エンジニアに限らず男性の多い業界にはあると思うのですが、女性を増やしていくために配慮してもらうことは、女性にとっても葛藤があります。本当は枠を取り払ってもらうことが理想ですが、まずは敷居を下げて女性を増やすことが必要な段階です。私は、その枠を利用して経験を積むことが大切だと考えています。

理系女子たちがつながる場「CTF for SchoolGIRLS」

――では、副代表の中島春香さんにお伺いします。今回のワークショップ「CTF for SchoolGIRLS」は、初めての学生向けイベントですね。

中島春香さんは慶應義塾大学大学院で村井純研究室に所属している

中島(春) 私はセキュリティを含めたインターネット全般について研究室で学んでいる大学院生ですが、そこでも女性は少なく、数十人のうち5~6人だけです。「CTFはおもしろい」と感じて友人や後輩に声をかけても、なかなか参加には結びつかず、学部2年生のときに参加した学生向けのCTFには50人中2人しか女性がいませんでした。学生の中にも、私のように女性の仲間が欲しい人はいるのでは、と思い、今回コミュニティ作りの場として企画しました。

今回の参加者は33人で、理工系学部の人を中心に、全国から集まっていただきました。ちょうど前日まで、情報セキュリティに関する技術教育の場である「セキュリティ・キャンプ」の全国大会が開催されていたので、1日延泊して参加してくださった方もいるかもしれません。

「CTF for SchoolGIRLS」ワークショップは手厚いサポート付き

さて、ここからは「CTF for SchoolGIRLS」の様子をお伝えしよう。中島春香さんの開催の挨拶に続いて、現役の女性エンジニアを講師とした「ウェブ分野」と「暗号分野」の講義が行われた。

学生たちは45分ずつの講義に聞き入っていた

その後、演習として、ウェブ分野・暗号分野ともに、初級・中級・上級の問題が出題された。上級問題でも、講義の資料や演習に利用したツールのヘルプなどを参考にすれば、初心者でも解けるレベルで作成したという。

参加者たちは、各自持参したパソコンにCTF for GIRLSから提供されたツールをインストールし、演習に取り組んだ。少しアップテンポの音楽が鳴るなか、それぞれが黙々と解いていく。

SQLインジェクションやCryptoの問題に取り組む参加者たち

もし演習でつまずいてしまっても、参加者が挙手すると、スタッフがすぐサポートに駆けつける。なかには、母国語が英語の人もいたため、スタッフたちは日本語と英語を交えながら、丁寧に解説をして正解へと導いていた。

英語と日本語の両方で参加者をサポートするスタッフ

初級問題は、参加者全員がすべて解けるまで手厚くサポート

スタッフの気遣いは実に細やかで、イベント中に設けられた歓談タイムでは、なかなか話しかけられない参加者たちがいると、スタッフが間に入って交流が生まれる場面も見られた。イベントの締めとしてスイーツが振る舞われたのは、唯一女性向けであることを感じさせるシーンだったかもしれない。まだまだ男性が多いエンジニアの世界で、性差を感じることなく技術のレベルアップを目指すことができ、自分と同じような志を持つ仲間が集うコミュニティがあるということは、未来のエンジニア候補である女子学生たちにとっても、きっと心強さを感じさせたに違いない。