「スマホの人には残念ですが」 大判写真にこだわるプラモデルブログ「超音速備忘録」運営者の美意識とは


「『模型で作った模型の模型』、バンダイのミレニアムファルコンが持つ”パーフェクト”の意味」
「キミは『ランナーに付いたままの女の子』に横乳の宇宙を見る」

これらは、あるブログの記事タイトルだ。シュールだが、どこか心に響くキャッチーさがある。スマートフォンではなく、PCから訪問すると、目に飛び込んでくるのは画面いっぱいの横位置大判写真。

ブログの名前は「超音速備忘録」。ネット界隈で「このプラモデル紹介ブログがすごい」と話題となることが増えている。

近年のブログは、独自ドメインを設定し、スマホからアクセスした時に見栄えがいい縦型レイアウトのテンプレートを用いるのがスタンダードだ。しかし、このブログは違う。『超音速備忘録』は老舗ブログサービスのエキサイトブログ上で展開されており、URLも初期設定のドメイン「exblog.jp」を使用。

自分がいいと思ったことを追求する反面、細かいことは二の次、三の次と言わんばかり。独自路線をアクセル全開で突っ走っているように見える。そんなブログ管理者の「からぱた」さんは、元模型専門誌の編集者。その美意識についてお話を聞くことにしよう。

 

「スマホの人には残念です」の真意

――「超音速備忘録」はPCで見たときに圧倒的なインパクトがあるんですよね。メインの写真が飛び出してくるかのような。

僕、スマホユーザーはメインの読者さんだと捉えていないんですよ。

――ほとんどのサイトで、スマホのアクセスがPCを超えているというこの時代に(笑)

僕は「スマホの人には残念ですが、よろしければPCで見てください」って思っています。よく「時代に逆行してる」って言われるんですが、PC環境での閲覧を重視しているのは、むしろ他ブログとの差別化につながるのかな、と。今はもう、いわゆるホームページを作る個人ってなかなかいませんが、ブログを作る人はいっぱいいる。でも、「本当にブログというメディアを使う必然性があるのか?」と考えてしまうものもあります。スマホでFacebookやTwitterから簡単に情報発信できる世の中で、ブログの記事もSNSと変わらない情報密度やテーマのものが多いんです。

本来的なブログの役割とは違うかもしれませんが、何かについてずっと語り続けて、後で見たらすごいアーカイブになっている。そういう情報ストックもブログの特性だと思っています。だから僕は、ブログはPCで書いて、PCで見るのが一番いいと思っています。もちろん、それはスマホユーザーを排除したいわけではありません。できたらPCで見てもらえると、紹介しているものの魅力が一番よく伝わりますよ、ということですね。

 

模型専門誌の作り方をブログ上で再現

――写真をダイナミックに見せる手法には、どのような狙いがあるのでしょうか。

構成は、雑誌のページに詰め込むべき内容を縦一列に展開するイメージです。タイトルやキャッチコピーがあって、写真があって、それを説明する短いキャプションがあって、スクロールした先に固まりの文章があって、という流れ。

ブログに使う写真は、雑誌の見開きページをイメージしています。プラモデルを大きく見せたいのに、写真が実物よりも小さくなっちゃったら、おもしろくないじゃないですか。だから、画像をとにかく大きくしたいと考えていました。

――「雑誌の見開き」ですか。なるほど!

僕は以前、『モデルグラフィックス』という模型専門誌で編集の仕事をしていました。別の出版社に内定をもらっていたんですけども、このブログがきっかけで、『モデルグラフィックス』の編集部から「ブログの記事を雑誌に掲載したい」という連絡をもらったんです。そのまま載せるのは反則だと思ったので「書き直しさせてほしいし、どうやって雑誌を作っているのか見せてほしい」と返事をして、編集部に遊びに行ったら、そのまま就職することになりまして。

そもそも『モデルグラフィックス』は「模型の写真もちゃんと見せたい」「文章もおざなりではなく、ちゃんと書こう」っていう編集者の思いが込もっていて、一読者として愛読していました。いつも「この文章を誰が書いてるんだ?」「これ誰の企画なんだ?」と、気にしながら読んでいましたね。

退職までの9年間は、当時の編集長とプロデューサーに、オタク的なものを語る時に何を見ないといけないか、何を語らないといけないか、何を伝えないといけないかを、ありえないくらいみっちり教わりました。それが『超音速備忘録』のベースにあります。

 

対象の魅力を最大限に引き出す工夫

――記事を拝見すると、ランナー(プラモデルの各パーツを保持する枠のこと)についたままの写真が多いですよね。

誰かが完成させた作品としてのプラモデルよりも、ランナーにパーツが整然と並んでいて、組み立てられるのを待っている状態が好きっていう性癖がありまして(笑)。というのも、完成したプラモデルは「プラモデルなのかそうでないのかわからないくらいよく仕上げられていること」が評価されますよね。

たとえば、ダース・ベイダーの塗装済みフィギュアと完成したプラモデルの写真があるとします。ぶっちゃけ、写真で見たらほとんど同じ。どちらもダース・ベイダーの形をしているので、プラモデルなのかフィギュアなのか、見分けがつかないじゃないですか。

そこで、ダース・ベイダーのヘルメットがランナーについたままの写真をブログにアップしたんですよ。こうすれば、プラモデルであることが、より伝わりやすいだろうと思って。それを見て「おっ」と思ってくれた読者が割と多かったんですね。模型業界の人でもプラモデルに興味がない人でも、ランナーが写っていると、パッと見でプラモデルだとわかる。それに、バラバラになっているものって、人間は本能的に組み立てたいと思うんじゃないかな、と。

――あと、模型の影が写っていないのも、からぱたさんの写真の特徴ですよね。

単純に、プラモデル以外の情報をなくしたいんです。写真の中にはランナーとパーツだけがある状態を見せたい。光を当てた時に背景に落ちる影も消したくて、浮かせて撮るようにしています。

影の映り込みを許さない徹底したこだわり(画像提供:超音速備忘録)

――ランナーを透明のアクリルブロックかなにかで浮かせているのですか?

写真に写らないように持っていたり、クリップで挟んでいます。まぁでも、それをどうやって撮っているかの詳細なテクニックは聞かれても答えるのが難しいんですよね(笑)

――この記事でバラしていいんですか?

「クリップで挟んでます」ってところまでは大丈夫です。でも、そのまま真似したとしても、きっと同じ雰囲気にはならないでしょう。ライティングや背景こそがポイントで、実際に自分で試行錯誤してみないと、意外とできそうでできないんですよ。

 

「真っ白」「真っ黒」な背景での撮影のコツ

――撮影にはどんな機材を使っているのですか?

カメラはニコンのD500。これはセンサーサイズがAPS−Cなので、ピントを深めに取りやすい。また、シンクロターミナルがあるので、有線ストロボが使えるんです。

レンズはAF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDというマクロレンズです。APS−Cのセンサーサイズと相まって、画面が歪みづらい。形をきちんと収めようとなると、中望遠以上じゃないとできません。

シンクロターミナルが撮影時に活躍するという、愛機のニコンD500

――真っ白、または真っ黒な背景の作り方のコツは?

PVC(ポリ塩化ビニル)っていう、ちょっと柔らかい下敷きみたいな素材があるんです。幅90センチ、長さ150センチくらいのものを背景に使っています。布だと汚れやすいし、紙はシワがついたら取れないし、照明の熱で燃えやすい。でも、PVCは汚れたら拭けるし、あまり折りグセもつかない。丸められるのも便利です。

スタジオで使うデコラ(化粧板)って、メラミン製で割れやすく、折りたためない。プロ用の機材って値段が高いじゃないですか。1枚2万円とか3万円とかするので、そうそう買えない。PVCは何より安いんですよ。2,000円ほどで買えるので、これは本気で超オススメです。

やっぱり、コスパは重要です。『超音速備忘録』では、お金をかけているからできるっていうのは、あんまりやりたくないんです。他の人にも機材をオススメしたいし、真似してもらいたいから。

コスパの意味では、モノブロックストロボ(カメラ装着タイプではなく、外部電源で駆動する大光量のストロボ)が使いやすくなりましたね。昔は1台20万~30万円するような製品でしたが、中国系の製品なら1万円台で買えるんです。ただし、品質はそれなりですね。たまに発光しないとか、光量が安定しないとかはあるので、プロの現場では厳しいかもしれません。でも、個人で試しながら使っている分には、一番よかったんです。結局、自宅にモノブロック2台という、スタジオのような撮影システムになりました。1つを逆光気味に、もう1つは背景を白く飛ばすために使っています。

 

模型は角度が5度違うだけで、伝わる印象が変わってくる

――雑誌の仕事をされていた時は、どのように撮影していたのですか?

ネタを集めてきて、そのネタをどう料理するかを決めるまでが、普通の編集の仕事ですよね。もう少し踏み込んで「ここを撮りたいです」とカメラマンに指示する編集者もいます。僕はさらに、画角やライティングといった細部まで指定していました。

模型の写真というのは、角度が5度違うだけで、伝わるものが違ってくることもあるんです。「真上からじゃないとダメ」とか、「これはこの角度で、ここに隙間が見えるからすごい」とか。自分で写真の色調整やレイアウトのアイデア出しまでやって、原稿も特別な記事でなければ自分で書く。全部自分でマネジメントせざるを得ない特殊な編集部にいた経験が、いまのブログに生きています。

――では、ブログの記事もかなり本格的に?

いえ、ブログはもっと気軽に作っていますね。どんな文章をどんなテーマで書こうか、というのをいつも考えているので、PCに向かっている時間は短いです。早ければ30分くらいでアップしています。

――撮影を含めて、ですか?

そうですね。カシャカシャと撮影して、そのまま編集しているので、かかっても2時間。それ以上かかるようなら、ビールでも飲んで寝たくなってしまう。普段は、まとめて3~4個撮ってネタをストックしておいて、書きたいときに書けるようにしています。ただ、最近発売されたバンダイのミレニアムファルコンは、箱を開けてパーツの入ったビニール袋を全部開封するだけでも2時間ぐらいかかりましたね(笑)。メカコレというシリーズの「ヤムチャのマイティマウス号」は、箱開けてから30分ぐらいで記事も書きました。すぐに撮影できるように、常にバック紙とかストロボを整えてあるので。

――システムが確立されているからこそのスピード感ですね。

飽きっぽい性格なんですよ。あとは、ブログでプラモデルを紹介するのに、雑誌記事のような正しい日本語でしっかりと書いてもあまり意味がないと思っています。読者も飽きちゃうじゃないですか。「ここがすごい」とか「何を組めばこういうことができるのか」というポイントにフォーカスして見せたいです。

 

見てわかることを書いても仕方ない

――からぱたさんの記事は言葉遣いがすごく独特というか、勢いがありますよね。

写真ばっかりだと飽きられるけど、真面目なことを書いても読んでくれる人は少ない。なので、大喜利じゃないですが、さり気なくおもしろいことを書くようには心がけています。読者に何を感じてほしいのか考え、「そういう見方もあるのね」と思ってもらえるように意識していますね。

言葉選びの面で大いに影響受けているのは、小林銅蟲さんという漫画家さんです。「パル」という料理ブログを書かれていて、実際に読めば理解してもらえると思うんですが、相当に独特なセンスがある方なのでしょうね。あれは狙って書けるものではありませんが、「この人はなんなんだろう」とすごく気にするようになって……うーん、カットしてほしいな、これ(笑)

あと、学生の頃は海外SFや三島由紀夫を読みあさっていましたが、商業ライティングを学んだのは、モデルグラフィックスに入ってからの9年間でしたね。一般的な編集部にはなかなかない厳しさで、言葉を尽くして原稿を書く、ということをみっちりやらされました。

専門的な話ですが、たとえばガンダムの写真があって、キャプションに「白いです」って書いてあったとします。それは、写真を見ればわかることじゃないですか。「飛行機に翼が生えている」とか「ヒジが90度曲がります」とかも。だからこそ、「写真を撮る前に、何を説明したいかを先に考えなさい」と言われてきました。「なんかよくわかんないけど、撮りました」だと、その後で困る。それを無理やり説明しようとするから、見ればわかることしか書けなくなってしまう。

見たままじゃなくて、情報を伝える側が、「こういうところがすごい」と思っているのかが伝わるように撮影して、その意図を書く。そうすれば、読者も見たままではなくて、もう一段深いレイヤーで理解できるようになります。なので、モデルグラフィックス時代は「見ればわかるじゃん」っていう文章だと、編集長から差し戻されました。

それは今のブログでも同じで、どこがおもしろいのか、実際に買ってきた人がどこで「わーい」って思えばいいのか。それを伝えたいと思っています。

プラモデルが好きな人は何も言わなくてもプラモデルを買います。でも、そうじゃない人に向けて説明をするとなると、見たままじゃなくて、僕はこういう風に見ましたとか、僕にはこういう風に見えますとか、そういう視点で語らないとメディアとしては弱くなってしまいます。

――プラモデルを作らなくなって10年以上が経過しているのですが、からぱたさんの記事を見ていると、欲しくなっちゃいますね。

僕の役目は背中をドンと押してあげることだと思っているんですね。僕のブログに来る人って、99%はSNSやブックマークサービスからの流入なんですが、商品名で検索したりしてナチュラルに情報を求めて来る人もいます。

検索流入の人は、ある商品を買うか買わないか、最後のジャッジのところを求めている。だから僕は、極力製品を褒めようと思っているんです。「これはダメだったわ」って話があっても、あまり書きたくない。検索するぐらいだからポジティブな思いで来ている人の方が多いはずじゃないですか。

だから僕は、買ってよかったなとか、おもしろいな、手に入れてよかったな、食べてよかったなと思う情報を紹介しようと。それで最後は「よし、買おう」「行ってみよう」「食べてみよう」という、最後のひと押しになりたいなぁと思っています。

 

「後世にカルチャーを残していこう」と思う若い世代が増えてほしい

――今後の野望はありますか?

願わくば、「超音速備忘録」をきっかけに、若い世代の人が、「ちゃんとカルチャーを残すって、どういうことだろう」と感じるようになってほしいです。写真を撮ったり、文章を書いたりする人を増やしたい。

インターネットの普及に伴い、模型に限らずあらゆる製品の速攻レビューが増えました。誰でも発信できる昨今は、情報が均質化し、鮮度だけを競う状態になっている。この現状を僕は危惧しています。メーカーやメディアもバズることが最優先で、何かについて深く考えたり長く楽しんだり、じっくりと向き合うことは、時代遅れになりつつあるのかもしれません。だからこそ僕はブログを続けていて、なるべく“誰でも気づけるわけではないところ”に焦点を当てて、ちゃんと写真や文章で残していきたい。

実は模型を含むホビーの業界って、30代が若年層で、ライターもプロダクトを作る人も、年上ばかりなんです。だから、このブログで「“モノの本質”を見極め、後世にカルチャーを残していこう」という志を持った若い世代を、1人でも増やす手伝いができたらうれしいですね。