「お役立ち情報はいらない」 エッセイ中心で支持を集める『SUUMOタウン』が目指すメディアの価値

「街に関するメディア」といえば、オススメのお店やイベント情報が並んだページが浮かぶだろう。しかし、そういった一般的な街メディアと一線を画しているのが、リクルート住まいカンパニーのオウンドメディア『SUUMOタウン』だ。

横関さん(左)と岡さん

メディア立ち上げの背景を振り返ってもらった前編に引き続き、ここからはより具体的な運営の舞台裏や、オウンドメディアとして異例の「エッセイ中心」というスタイルになった経緯にフォーカス。『SUUMOタウン』を運営するネットビジネス統括本部の横関崇志さんと岡武樹(たつき)さんに伺った。

「お役立ち情報」よりも、書き手の主観を重視する

――編集は岡さんがメインで担当されているんですよね?

 はい。一部の記事を除いて、基本的には自分で進めています。スタート当初は、はてなさんにすべてお任せしていましたが、評判がよく、内製化をしてみることになりました。執筆者は自ら気になる方にアプローチしてみたり、一度執筆していただいた方から紹介していただいたり、Twitterで募ってみたり、いろいろな経路で探しています。

横関 同じような人ばかりだと偏ってしまうので、あえて幅広くしているんです。

 そうなんですよね。たとえば、当初気になるライター、ブロガーの方に声をかけてみたら中央線とか下北沢に縁がある方が不思議と多かったり……。同じ街を二度と取り上げないというわけじゃないのですが、特定の街に偏らないように意識はしていて。東京だけでなく、地方やそれほど一般的な知名度の高くない街も、読者に知ってもらう機会を作りたいと思いながら、トライしています。

――記事のテーマ設定は、「この人に書いてほしい」という「人」ありきなのか、まだ『SUUMOタウン』の記事にない「エリア」ありきのどちらですか?

 そこは、100%人ありきです。書き手の方と話して、その人が魅力を伝えられる、伝えたいと思う街をいくつかピックアップしてもらい、その中で特に想いを込めて書いてもらえそうな街で執筆いただくようお願いしています。

横関 たとえば、ヨッピーさんに書いてもらったのは、過去に住んでいた上野の記事ですが、最初は「最強の銭湯がある武蔵小山について書きたい」という話でした。その後、雨宮まみさんの西新宿の記事をリリースしたら、内容を変更したいと連絡があり。

当時サラリーマンだったヨッピーさんが住んでいた上野・浅草エリアがテーマ。人にフォーカスしながら、自身の思い出とともに街の魅力を語り尽くしている

 いつものヨッピーさんっぽくないというコメントもありましたが、とても素敵な記事だと思っています。ヨッピーさんの場合は、武蔵小山についても愛のある素晴らしい記事を書いてくれたと思いますが、書き手が「書きたい」という想いがそれほどなく、「良く知っているから書ける」という場所だと、街の有名スポットの紹介のような記事になってしまうかな、と思うんです。

横関 ライターが行ったこともない場所について書いた「〇〇のオススメスポット10選」みたいな記事は嫌でしょう。だから、その人にしか書けないものを書いてもらいたいなっていうのはありますね。

――オススメスポット情報はある意味いらないとのことですが、『SUUMOタウン』の記事として、書き手にどんなことを求めているんですか?

 大前提として、その街のことが好きであること。地方にいらっしゃる執筆者の方ともできる限り対面で、もし難しければ電話などでお話しして、どこが一番熱意を込めて書けそうか、というのを伺いながら進めています。はてなさん経由でお願いする企画なども、その点を重視していただいています。

打ち合わせして「ここがいいんだ」っていうポイントが執筆者から強く出る場所じゃないと、結果的に良い記事にならないと思うので。やっぱり熱量を持って書いてもらいたいから、その街が好きだという条件は大切にしています。

あとは、リアルさというか、良い点だけじゃなくて悪い点も書いてもらいたい。積極的に悪い点を書いてもらうということはしていませんし、その人がないと思うならそれでよいのですが、しっかりと事実、リアルなところを伝えていくのは重要だと思っています。

たとえば、恵比寿に住んでいて、「いつも恵比寿ガーデンプレイス行きます」というのが、事実なら紹介いただいていいんですが、そうでないのならあえて触れずともよいかな、と。あと、交通の便が悪いのならそこは隠さず書いていただいてもよくて。でも、とにかく、「リアルさ」は意識して書いてもらうようお願いしています。

横関 ただ、こういう情報を入れてほしいとか、中身については指定しません。たまに「もう少し街の要素を足してください」と言うことはありますが、記事を書いてもらう前に「このエリアのこのスポットについて書いてください」といった話はしません。

 もう一つは主観を大切にしています。

――え、客観的な情報ではなく?

 街の情報はガイドブックやその街のホームページなどを見れば知ることができるので、その人の目線で見た街がどうなのかを重視しています。「『恵比寿はおしゃれな街だ』ってテレビでいわれたりすることもあるけど、私は意外と人情味がある街だと思っている。なぜなら……」みたいに。「みんなそう言うけど、自分はこう思うし、ここが好きなんだ」という話なら、あくまで一個人の主観的な意見なので誰も否定できないし、同じように思っている人たちにはしっかり共感されるのでは、と思います。

横関 そのほうが、読み手に刺さるんですよね。似たような人生や生活を送っている人が読んだときに、主観的な話のほうが共感しやすい。バズを狙うなら、情報が網羅されていることよりもエモーショナルなほうが共感を得る傾向もあるし、そういう観点でも主観的であることって大切なんですよね。

――反響がそれを証明していると思います。オウンドメディアでここまで自由な文章を載せるのって異色ですよね。

横関 確かに最初の頃は、街のネガティブな面も取り上げた記事に対して「これSUUMOとして出すの?」とも言われました。ただ、お願いしているライターの方々はこだわりを持っていらっしゃる。そこを殺したらダメじゃないですか。

――確かに、作家性が強い書き手が多いですよね。

横関 ブロガーの人たちってやっぱり、クセのある人が多いですよね。修正をお願いしても「ここだけは外せない!」とか言ってくる人はいて、逆にそのくらいのこだわりがある人にこそ、記事をお願いしたいです。

クラウドソーシングによる記事の大量生産ではできなかったこと

――立ち上げ当初は、クラウドソーシングで記事を作っていたんですよね。

横関 はい。2015年12月に在華坊(ざいかぼう)さんの記事が出るまでは、クラウドソーシングでお願いしたライターさんに記事を制作していただいていました。今とは全然違う記事で、まったく拡散されませんでしたね。記事だけ見るとそこまで悪くないんですが、ここまでの形に持ってくるのも大変でした。自分で撮影した写真を使用してくださいと言っていたものの、どこかからダウンロードしてきた画像を無断で使っていた人もいて、何度も修正の指摘をしました。

――過去のインタビューで「クオリティコントロールが難しい」とおっしゃっていたのは、そういう意味があったんですね。

『SUUMOタウン』で横浜の記事は2本ある(2017年11月現在)。在華坊さんによる記事(画像上)と、クラウドソーシングで作った記事で、見えてくる横浜の姿は大きく異なる

横関 そうですね。当時は一気に何十記事も作りましたが、品質を担保するため社内でかなりの編集リソースを割いているにもかかわらず、まったく読まれないということで、サイトクローズの危機でしたね……。「このサイト、やる意味あるの?」って話が持ち上がって初めて、「いいコンテンツを作るので、試させてください」って今のスタイルに変えた結果、反応がよくなって、読まれるようになり始めました。

最初からいまのような形のメディアにしたいという気持ちはありましたが、当時はキュレーションサイト最強時代。クラウドソーシングに発注し、機械的にコンテンツを生産するのが、メディアの1つの勝ち筋ともいわれていました。実際、当時はそういったことを堂々と語っていた人もいましたね。ただ、僕自身は懐疑的で、ある意味、記事量産じゃダメなんだという証明のために、そのフォーマットでやってみていたと言えます。

――たとえ記事として成立していても、「じゃあ、これが誰に読まれるの?」と。

横関 そう、「耐えられない」と思いました。これには2つの意味があって、1つは、記事の量産と品質の担保に編集体制が耐えられない。もう1つは、書き手としても耐えられない。僕自身、学生時代にライターをしていたので、これで仕事したと胸を張れるかと考えた時に、きっとできないな、と。それで方針転換しました。クラウドソーシングのライターさんにも優秀な方はいますが、どちらかと言うと、客観的な情報をもとに記事を量産するのが得意な書き手が集まっている。主観を重視するいまの『SUUMOタウン』とは、相性が悪いと思います。

――書き手を大事する姿勢は、そういう経験があればこそなんですね。

横関 いえ、それは元からですね。なぜかと言うと、直近2年で作られたコンテンツが今のウェブの9割を占めているという話もあるくらいで、とにかくインターネット上の情報量はどんどん増えていく。そうなったときに、おもしろいコンテンツじゃないと読まれないし、意識されなくなってしまう。

じゃあ、おもしろいコンテンツとは何か。1つは当たり前ですが、作品自体がおもしろいこと。けど、「誰が作ったか」も大事じゃないですか。大量の情報の中で目立つものとして、考えやすいのは「すごく有名な人が書いた情報」ですよね。だからこそ、人気の書き手に書いてもらえるメディアにならなければ、これからのメディアはキツい。そこで、書き手を大事にしようと思うようになりましたね。

 その意味では、『SUUMOタウン』は今とてもいい循環になっているのかなと思っています。最初はこちらから個別にお声かけしていたんですが、次第に執筆いただいた方から「あの人も紹介していいですか?あの人の記事読んでみたいんです」って紹介してもらえるようにもなったり。最近だと、寄稿してくれた方とその街を実際歩いてみて、記事の中に出ていた素敵なお店に行って、そこで新しい方を紹介してもらうということもありました。

――それは定量的には測れない価値だと思います。

 見える反響以外でも、執筆者の方から「記事を書いたおかげで、地元のお店の人からありがとうと言われた」「紹介したお店の人との距離が近まった」「ずっと会っていなかった昔の友人と久しぶりに会うきっかけとなりました」といった声をいただくことがありました。『SUUMOタウン』をきかっけに何かいいことが起きているんじゃないかなと思えたときは、とても嬉しいです。

SUUMOとしては、「住みたい街ランキング」といったウェブアンケート調査も毎年発表しているのですが、みんながみんなランキング上位の街に住むのが良いかといえば、絶対そうではない。知名度がなくても素敵な街はたくさんあるし、いろんな街の選択肢があるということを、『SUUMOタウン』で示していけたらと思っています。

街の『週刊少年ジャンプ』のようなメディアを作りたい

――今後、メディアとしてこういうものを作っていきたいというイメージはありますか?

横関 “街の『週刊少年ジャンプ』”を目指しています。

――街のジャンプ!

横関 柿次郎さん(※ 株式会社Huuuu代表の徳谷柿次郎さん)は「『ジモコロ』を“街のNHK”にしたい」と言っていましたが、僕らも何かにたとえるならジャンプを目指したいですね。読んだ人に「この街に行きたい」と思ってもらうには、やっぱり質の高い記事を出していかないといけない。なので、あんな有名人が載っているとか、こんなにいい・おもしろい記事が載っているっていう。『週刊少年ジャンプ』って、王道作品もそうでないマンガも人気が出るじゃないですか。常に新しい切り口のマンガが読める。そういうメディアだからこそ、そこで書きたい人たちも出てくるわけで。

 ただ、「書きたいと思われる場を作りたい」って思いながら運営している気持ちは自分には1ミリもなくて。これまで『SUUMOタウン』を運営していて、執筆者に楽しく書いてもらっていれば、結果的にそうなっていくのかな、と。できる限り1人でも多くの人に書いて楽しかった、良かったと思ってもらえたらいいですね。

横関 いいコンテンツを作っていくなかで自然にそうなるものですよね。そうじゃないと持続性がない。

 持続性という話だと、今後は今のメインのエッセイだけではなく、『SUUMOタウン』らしさは残しつつもっといろんなアプローチの記事を作っていきたいと思っていて。たとえば、はてなさんに協力していただきながら、先日はジャンプ作家の鈴木信也さんに漫画を描いていただいたり、「上京企画」というインタビュー企画もチャレンジしてみました。ただいろいろチャレンジしたいですが、譲れないのは、絶対に量よりも質を担保すること。そこは妥協しないで大切にしていきたいです。

――ありがとうございます。どんなコンテンツが更新されるか、これからも楽しみにしています。

 

編集:ノオト