人の心は何によって動くのか? ヒットゲームクリエイター東山朝日さんが伝授する「ウケる企画」の作り方

旧ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)で「エースコンバット」や「機動戦士ガンダム」などのヒットコンテンツを数多く生み出し、現在はディライトワークスでディレクター/プロデューサーを務める東山朝日さん。

東山さんによれば、ゲームに限らず世の中で大きくヒットするコンテンツには、人の心を動かすための「仕組み」が内包されているとのこと。今回のインタビューでは、ゲーム開発の経験をもとに、他の仕事にも応用できる人の心を動かすメカニズムと、東山さんが日頃から実践されている日常生活の中からヒットコンテンツの種を見つける秘訣について伺った。

 

天才クリエイターではないと自覚したからこそ生まれた企画メソッド 

――東山さんは、これまで数多くの人気ゲームシリーズを生み出してこられました。どのようにして企画を立てているのでしょうか?

1993年にナムコに入社し、のちに「エースコンバット」と呼ばれることになる新規タイトルの開発にプランナーとして関わることになるのですが、当時は僕自身も企画の立て方、ゲームの作り方なんてわからなかったんです。自分なりに試行錯誤しながらなんとか発売にこぎつけたわけですが、その時の経験を通して漠然と感じたのは、「おもしろいと感じるものには、そう思わせるに足る仕組みがあるのでは」、ということでした。

それがきっかけで、「人がおもしろいと思う仕組みって何だろう?」と考えるようになりました。たとえば、夢中になる映画を観たり楽しい小説を読んだりした時、あるいは旅行に行って心が動いたりした時など、それぞれの場面で「なぜおもしろいと感じたのか」その理由を考え、それを仕組み化したうえでゲームデザインに活かすことができれば、一定水準以上の製品を継続的に生み出せるのではないかと考えたんです。以降、その考え方で企画立案に向き合うことが多いです。

ゲームを作るにはセンスや直感が必要だといわれますが、ゲームデザイナーたちは、必ずしも生まれつき才能があり、直感に優れた人ばかりではないと思っています。僕は自分のことを天才とはとても思えなかったので、おもしろいゲームを開発するためのユニークな手法を自分なりに確立しないと、たとえ1、2作を偶然生み出せたとしても、長期間にわたって作り続けることはできないという危機意識が常に気持ちの奥にあり、それが手法を模索する動機の一つになっていたと感じています。

 

おもしろいものには、必ず人の心を動かす仕組みがある 

――そのような危機感から、おもしろいと感じたものを観察し、再現性のある仕組みにされたのですね。具体的にはどのようなメソッドを考えられたのでしょうか?

当時僕がゲーム開発を通して作り出したメソッドの一つに「心情チャート」があります。かしこまって言うなら「開発者の意図した着地点までお客様の心情を誘導することを目的とする、仕様と心情の相関および遷移を可視化したチャート」で、1996年頃に発案し、以降さまざまな仕事で運用してきました。

(画像提供:東山朝日さん)

こちらは、以前にテレビ番組「しくじり先生」を見た時に思い立って作った「心情チャート」です。この番組は、著名人が自分の失敗と、そこから得た学びを披露するのですが、僕が見た回は、お笑い芸人夫婦が失敗をリカバリすることで、夫婦の絆が強まるという内容でした。それを見た時、僕はすごく心が動いたんです。心が動くからには、この番組に何かしらの仕組みがあるはずだと考えて、番組を仕様に分解し、どういった理由でどのように心情が揺り動かされたのかを逆算する形で自分なりに分析してみました。


横軸には「時間経過」を置き、番組開始から何分経過した時点でどんなことが起きたかを一覧でわかるようにしています。また、縦軸には出演者たちがどのタイミングでどんな発言をしたのか、それを「仕様」と捉え、時間経過に従ってプロットしています。さらに最上段にあるのは、その結果、僕自身の気持ちがどう揺れ動いたかをグラフで可視化したものです。

こうして自分の気持ちの動きを改めて整理してみると、「ここで泣きそうになったな」とか「ここでグッと来たな」というタイミングで、必ずそれに見合った仕掛けや発言があることに気づくんです。これは番組を後から分解したケースですが、ゲームデザインの実務では、「仕様」と「時間経過」をにらみながら、どのような仕様をどのような手順で提供すると心が動くか、という洞察を積み重ねていきます。心情チャートを“お客さまの心情の盛り上がりを企図した時系列のサービス”と捉えれば、さまざまな業種の方にも参考になるのでは、と思います。

さらに、こちらは実際のゲーム開発初期に作成した心情チャートの習作です。現存しているのがこの手書きの検討段階レベルのものしかないもので、見づらくてすみません。

東山さんがゲームタイトルを制作する際に書き起こした心情チャートの原型

僕のデビュー作は、先にも話した通りプランナーとして参加した1995年発売の「エースコンバット」です。それがヒットしたので、今度はディレクターとして続編を作ることになったんですね。

1作目はただがむしゃらに取り組んだだけで、売れるかどうかなんてわからなかった。それが実際に売れて「責任者として2作目を作りなさい」と会社から言われた時、なぜ1作目がヒットしたか、その理由を明らかにできていなかったので、「これは困った。さてどうしようかなぁ」という気持ちでした。

――1作目のヒットに安心せず、そのまま2作目を作ることに危機感を持たれたのは、何か1作目について気に掛かることがあってのことでしょうか?

1作目で留意したことは、「戦闘機パイロットをモチーフにした様々なおもしろい体験」を盛り込むことでした。ところが発売後改めて振り返ってみると、ステージごとにバリエーションがあるように見えて、抽象化すると「敵を追いかけて撃墜する」「特定の場所を爆撃しに行く」あるいは「狭い谷を通る」など、実は5パターンくらいしかないんです。それに絵やシチュエーションで変化をつけていた。それが幸い受け入れられたに過ぎないことに気がついたんです。

同時に、1作目には「比較的簡単な操作で戦闘機パイロットのように自由に空を飛べる」、「考えて行動する敵戦闘機とのスリリングな空中戦が楽しめる」という、これまでのゲームにはありそうでなかったコンセプトが盛り込まれていたので、それが受容された、という気づきもありました。が、2作目ではその体験はすでに自明のことなので、同じことをただ繰り返しても、お客様は満足してくれません。このまま2作目を作ったら、必ず飽きられてしまうでしょう。そこで、改めて1作目を振り返り、おもしろさについて徹底的に分解し、心情チャートのかたちで再構築することにしたのです。

心情チャート上にプロットする仕様として着目した項目がたくさんあるんですが、例としてここでは「難易度」、「見栄え」、そして「ものがたり」などに触れたいと思います。

一般にそのゲームをどのような手ごたえでクリアしていただくかは、作り手が設定した難易度とお客様の腕前との差分によって左右されます。

そこで、まず「エースコンバット2」では、お客様に適切な達成感や高揚感を感じていただくことを目的に、企画の初期段階でゲームの序盤から終盤まで、ざっと「難易度の推移」を設定してみました。難易度3(普通)から4(やや難しい)のステージに移った時、手応えを感じつつも無事クリアできると達成感がありますよね。もしくは、難易度3(普通)のステージが続いた後、ある程度プレイに慣れたところでいきなり難易度1(簡単)のステージが来ると、楽勝でクリアできるので気持ちよい高揚感が得られます。そういった「人間の気持ちを見据えた難易度設定の設計図」をひとまず検討したのです。心情チャート上では赤い折れ線グラフで記入しています。

(画像提供:東山朝日さん)

次に「見栄え」です。たとえば、グラフィックにすごく力を入れたビル群のステージ。当時のプレイステーションの技術としては、結構見栄えがするものでした。これを3つ目のステージに持ってきたのは、操作に慣れて少々余裕の生まれたタイミングでお客さまにビル群の景観を楽しんでいただくことで、「こんなグラフィック見たことない!」と気持ちがグッと盛り上がるのを期待したからなんです。同様に、ゲームの演出で心情の起伏を作ることもあります。たとえば、薄曇りの天気が続いていたのが一気に晴れると、心も晴れやかになる。心機一転、テンションを上げることができるんです。

最後は「ものがたり」ですね。実は「エースコンバット2」には明確なストーリーを用意していません。ゲームにストーリーを入れると、登場人物設定や詳細シナリオが必要になり、開発コストが格段に上がります。「エ—スコンバット2」では、シューティング遊びの充実を最も重視する仕様の優先順位上、ストーリー仕立てにするのは見送ろうと判断しました。でも、ストーリーが人の気持ちを動かすのに効果的なのは言うまでもないので、「ここは工夫のしどころだなぁ」と考えていました。

その結果、ゲームの流れを「1人の傭兵として厳しい戦況から敵を倒していき、都市の奪還や前線の押し上げを経て反攻に転じ、最終的に敵の本拠地での戦いに至る……」という、ざっくりと「戦争を模したステージ構成」にしてみました。そういう意図で構成されたステージを順番に攻略することで、たとえ具体的なストーリーがなくとも、お客さまの頭の中で「俺の力でこの戦争を勝ち抜いているぞ」といった“孤高のヒーロー気分”を味わっていただければと思ったわけです。

お客さまが自発的にものがたりをイメージできる仕組みを作れれば、作り手のコストを下げつつ、お客さま満足度も高くできる。ゲームは小説や映画と違って、お客さまが能動的に介入できるという強みがあるので、それを活用した「ものがたりの仕組み」と言えるかもしれません。心情チャート上で青い折れ線グラフで記入しているのが「見栄え」と「ものがたり」による気持ちの想定推移です。

――ステージの難易度も心情チャートのテンションも、上がる一方ではなく、一旦下がって谷間ができるところもありますね。これは何を意図したのでしょうか?

理由はふたつあります。ひとつは途中で難しすぎて先に進めずにプレイヤーが挫折するのを防ぐためです。単純に右肩上がりの難易度にするのではなく、難易度に起伏をつけながら後半に向けて徐々に難しくすることで、過剰な難しさのインフレを起こすことなく最終難易度まで到達できるようにゲームバランスを調整しました。

もうひとつは、難易度を規則的に上げていくと、そのパターン自体にお客さまが飽きてしまうと考えたためです。「前のステージよりも簡単」と感じるステージを挟むことで、「空中戦に慣れてきている俺ってすごい」と感じさせたり、一気に難易度を上げることで、「この難しい局面を乗り越えたら、先にもっといいことが待っているに違いない」という期待につながったりするんです。

「難易度」、「見栄え」、「ものがたり」、いずれも細かいことに見えますが、すべての仕様を「お客さまの心情を最適な形で誘導するために集約させていく」というのが重要だと考えています。

 

小説や映画、日常のあらゆるものに企画のヒントがある

――グラフィックや演出といった心情チャートの構成要素を選ぶ時や、人の心の動きを知る上で、ヒントにしていることはありますか?

たとえば、文学ってゲームに比べて非常に長い歴史がありますよね。それゆえか、読者の気持ちを動かすための「起承転結」というストーリー展開の基本形が確立されていますし、雅楽にも「序破急」という型があります。そういう歴史ある先人の知見に学びながら、ゲームデザインにも文学における起承転結のような、「文法」や「作法」を持ち込めないものか、という風に考えています。文学に限らず、映画や音楽、料理、恋愛などさまざまな「おもしろいこと・楽しいこと」に内包されている「仕組み」を分析し、ゲームデザインに置き換えたらどうなるか、というのは常に考えるように習慣づけていますね。

 

おもしろさの仕組みを分析し、ストックし続ける

――おもしろいと思ったことを仕組みにする方法について、もう少し詳しくお伺いできますか?

先に挙げた文学や映画、音楽、料理、恋愛、他社や他の人が手がけたサービスなどから「人の気持ちが動く時」のサンプルをたくさん集め、それらを分析・分解した上で、「どうやら人間は、こういう仕組みがあるとこういう心情になるようだ」と言語化した形でストックすることが大事だと思います。僕の場合、モレスキンの黒い手帳をいくつか持っていて、おもしろいと思ったものの仕組みについて、仮説を書き留めておくようにしています。

手帳には、機械生命体やエビングハウス錯視などのさまざまな仕組みについて考察が並ぶ(画像提供:東山朝日さん)

たとえば、映画『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』では、敵の本拠地である「デス・スター」を破壊しようと攻撃をしかける主人公のルーク・スカイウォーカーを、ダース・ベイダーたちが追撃するシーンがあります。逃げるルークと追うベイダーが交互に映るなか、途中で心配そうなレイア姫のカットが入ることで、「間に合うのかルーク。ベイダーにやられちゃうんじゃないか?」「レイア姫、心配そう」と観客の緊張感が高まっていきます。ここから、連続した時間と場所を切り分ける「カットバック」という技法が、人間にドキドキを感じさせることを学びました。その時の経験は「どうやら映画のカットバックには人をドキドキさせる効果があるようだ」とメモしてあったと思います。

「人の気持ちが動く時」のサンプルを集めるだけでなく、発見した仕組みが本当に普遍性を持つかどうか検証する「リファレンス」作業も大事です。たとえば、西部劇でよく見られる、逃げる幌(ほろ)馬車、追うネイティブアメリカンが交互に映るなか、銃声と共に騎兵隊が登場するシーン。このようなカットバックによってスリルを味わうコンテンツは、『スター・ウォーズ』に限らずたくさん存在するため、カットバック=人間の気持ちを動かす上である程度妥当性のある仕組み、だと言えるはずです。

実際に「エースコンバット2」では、とあるステージで、『スター・ウォーズ』から抽出したカットバックの仕組みを使いました。と言うと、ファンの方は「例の狭い場所を飛ぶステージのことだな」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。「墜落機救出作戦」というステージで、砂漠の真ん中に墜落した味方の輸送機を巡り、機内の機密を敵味方の地上部隊が奪い合うのを援護する、といった内容です。

このステージでは、機密を敵に取られまいと、味方の地上部隊が戦車で向かいますが、同様に敵の戦車部隊も墜落機めがけて進攻してきます。さらに、味方戦車を破壊すべく敵の戦闘機も出てきます。勝利条件は味方戦車部隊が墜落機に到達すること。敗北条件は、敵の戦車が先に墜落機に到達して軍事機密を取られてしまう、もしくは、味方の戦車が全滅すること。当然、プレイヤーが墜落しても負けです。

プレイヤーが敵の戦闘機を撃ち落とすのにかまけていると、「味方戦車を助けろ」という通信が入ります。文字通り飛んで向かうと、味方の戦車がやられかけている。味方戦車に攻撃している敵戦闘機を倒すと、今度は司令部から「敵の戦車が輸送機に迫っているぞ」と言われて見に行けば、もう近くまで来ているんです。どうにかやっつけ
て落ち着いたと思ったら、今度は「お前!後ろから狙われているぞ」と通信があって、敵の戦闘機が襲ってくる……と、非常に忙しい。

このように、プレイヤーが興味を向ける対象を3つに分けることで、さまざまな状況が頭の中で切り替わります。ゲーム内では同時進行ですが、注意を向ける対象を分けることで、プレイヤーの頭の中で映画のカットバックで味わうようなスリルを体験させられる、と考えたわけです。

(画像提供:東山朝日さん)

荒っぽく言えば、エースコンバット2の墜落機救出作戦ステージは、『スター・ウォーズ』からインスパイアされたと言えるでしょう。表面的に似せるのではなく、その仕組みを抽出すると、全然違うものに生まれ変わるんです。これは、恐らくいろいろなサービスを発案する上で、十分転用可能な考え方ではないかと思います。

 

ユーザーが手に取るまでの“ものがたり”をいかに作るか

――そもそも作品を届けるには、お客さまに関心を持ってもらう必要がありますよね。その秘訣はありますか?

人間はつまるところ、“ものがたり”を通じてしか物事を理解し、自分のものにできない、という仮説を僕は持っています。たとえば、この秋に何か洋服を買いたい、という気持ちになったとします。そこには「俺、仕事ばかりしていて、最近自分のための買い物をしていないな」という何かしらの枯渇感や、「私、気になる人ができたかも」という恋愛の予兆といったものがたりが積み重なった結果、それに背中を押されるかたちで「この秋は○○を買おう」といったように「自分のものがたりを満たしてくれそうな商品」を購入する。各人各様の「購入に至るまでのものがたり」があるはずなんですね。

10年ほど前だったか、赤文字系雑誌『CanCam』は月間約70万部も売れていて、実は僕も2年間くらい購読していました。当時は蛯原友里さんはじめ、山田優さんや押切もえさん、西山茉希さんといった、そうそうたる顔ぶれのモデルさんがいました。

蛯原さんが着る服は通称“エビ売れ”といって、完売続出だったようです。言うまでもなく平成不況ど真ん中ですから、この売れ方は尋常ではないと思います。

その理由を探るべく、雑誌を僕なりに読み込んでみて感じたのは、当時、彼女が着ていた服は、「オフィスに着ていっても特に違和感なく、さらに1枚羽織ったり巻き物を加えたりすることでアフターファイブにそのままデートにも行ける使い勝手のよいアイテム」なのでは、ということでした。要は、オン・オフ両方に使えるのでリーズナブルな上、オフではおしゃれデートも楽しめるファッションじゃないかと思ったんです。

ちょっと話は変わりますが、蛯原さんが売れっ子になる前の時代、女性が仕事をもって自分らしく働くというのが一般的になりました。ところが、不況が長引くなか、それに疲れる女性も出てきたように思うんですが、一度乗った流れからはなかなか降りられない。でも、恐らく当時の『CanCam』の編集長が、その流れを変える文脈を作ったんじゃないか、と。

――ダブルバインドで疲れ切った女性に対して、他の生き方もあるという文脈を提示したんですね。

そうです。「自分らしくバリバリ働きたい」という価値と「仕事もおしゃれも恋愛も楽しみたい」という価値。どちらもあっていいよね、と問いかけたところ、当時の若い女性たちに刺さった。ただ、それはロジックだけだと伝わらないので、そのものがたりを体現するアイコンを蛯原さんに託したことで成功した、というのが僕の得た結論です。

ヒットするとはつまり、多くの人の心を動かすことと言い換えられます。心が動くものには、必ずそれに至る仕組みがある。それらの仕組みを解き明かし、自身の製品・サービスに活用しつつ、“ものがたり”を添えて提供する。それが大事なのではないかと思うんです。

 

時代の流れを定性情報から読む「エクスペリエンスマップ」

――多くの人が自分ごととして納得する“ものがたり”を作るには、相手の視点をよりリアルに想像させるための知識やスキルが必要になりそうです。

人間は、自分の体験してきた範囲でしか価値を判断できない、と僕は常々思ってるんですね。逆に言えば、相手の人生で起きたことや体験したことを知ることで、その相手の価値判断の基準を知ることができるということです。

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随時更新中という「エクスペリエンスマップ」には、年度ごとの大きなニュースや政治経済の動向、ヒットした商品や曲といった流行をまとめてある(画像提供:東山朝日さん)

これは、僕が作った「エクスペリエンスマップ」というメソッドの成果物です。ざっくり言うと、横軸に「年度」、縦軸に「その年に起こった主な出来事」を取り、過去50年分ぐらいを年表化したものです。かしこまって言うなら、さまざまな体験を時系列・俯瞰視点で捉え、そこからターゲット層の持つ欲求を探ることを目的とする年表でしょうか。

たとえば、現在自分が手掛けている製品・サービスの想定ターゲット層が、生まれてから何を見てきたのか。いつ思春期を過ごし、その時何に心動かされ、 その結果どのような価値観が形成されたかなどをある程度把握できれば、当該ターゲット層が現在どのような欲求を持っているのか、仮説を立てることで製品・サービス開発のヒントにできると思うんです。

――これは企画のペルソナを描く時に、ものすごく参考になりそうですね。

エクスペリエンスマップから読みとれる別の例として、「クリスマスの価値の変遷」も挙げられます。僕の世代が20代の頃、クリスマスは一大イベントでした。夏の終わりからバイトでお金を貯め、意中の女の子に好意を伝え、イブにはオープンハートのネックレスと花束を手に、予約しておいたフレンチレストランへ。当然ハイシーズンですから、いずれもべらぼうに高いわけです。都市部ではクリスマスイブの一晩で15万円くらい使うのが当たり前のような時代でした。

一方、我々よりもさらに15歳くらい上の人たちにとって、クリスマスは恋人ではなく家族とのイベントなんです。なぜ価値が変わったのか。恐らく1980年代にある雑誌が「クリスマスは彼と!」というキャッチコピーで特集を組んだのが、大きな分岐点になったと考えています。クリスマスの常識が一気に変わったんです。

これは、周辺ビジネスにとっては、ものすごいチャンスです。もし、このような新たな価値観の提示を、適切なタイミングでそれを潜在的に欲しているターゲット層に仕掛けることができれば、チャンスの最上流に位置することができるはずです。新たな市場が生まれるということですよね。そのような企画を立てるためには、年表上の事実を踏まえ、その観察と洞察を駆使してヒントを見つけるのが有効だと思います。現在僕が担当しているゲームでも、実際にエクスペリエンスマップを活用しているんですよ。

 

一番大切なのは、おもしろいものにたくさん出会うこと 

――最後に、東山さんが考える「クリエイターにとって最も大切なこと」は何でしょうか?

振り返ると、僕のクリエイター人生は、おもしろいものを直観で感じ取る右脳と、それがなぜおもしろいのか、心を動かすのかを自身に問い言語化する左脳の“両輪”で勝負をした20数年間でした。きっかけは、自分を天才だと思い込めない不安を持ちながら、ナムコというトップクラスのクリエイターたちの中に放り込まれて、たまたまヒットを出したこと。心情チャートやエクスペリエンスマップも、直感やセンス、すなわち右脳の領域だけでは食べていけないのではないかという不安から生まれたメソッドです。

そういう意味ではクリエイターや企画に携わる人間として大切なこと、長生きするコツは、まずおもしろいことにたくさん出会うことだと思います。こう言うと、休日に遊び惚けていることの正当化じゃないかと突っ込まれそうですが(笑)、実際におもしろい体験をすることと、おもしろい理由を言語化することの習慣づけで、見えてくるものは必ずあると思うんです。自身の仕事や製品に「おもしろい」を組み込むことを、多くの企業が始めて、社会がもっと元気になるような新しいモノ・コトが生まれてくるといいなぁ、そのささやかなヒントとして、この記事が少しでも役に立てばいいなぁと思います。