UXデザイナー深津貴之が語る身も蓋もない組織論!? 「ユーザー目線のない会社からは逃げるしかない」「それでもそこでがんばりたいなら……」

PCやスマートフォンを開けば、そこには不愉快なUIが至るところにあふれている。さして文章が長くもないのにページが4分割されているニュース記事(腹立たしいことに4ページ目はたった1行だったりする)、サッカーのハイライト動画でシュートの行方をカメラが追い始めた瞬間に始まる動画広告、場面転換をするたびにCMが挟み込まれ、もはやCMを見ているのかゲームをしているのかわからなくなるアドベンチャーゲームアプリなど……。

さらに不幸なことは、ウェブメディアの編集部や動画配信者、ゲーム制作会社の制作現場にいる人たちにとっても、これは決して愉快な状況ではないということだ。罵詈雑言混じりの苦情が書かれたユーザー評価欄やSNSを見ながら彼らは言うだろう。「誰が好き好んでこんなUIを作るものか」と。

関わる誰から見てもおかしなUIは、それでもなぜ量産され世の中のストレスを増幅させ続けているのだろうか? その負のスパイラルから脱却する方法はあるのだろうか? UXデザイナーとして業界内外からの信頼も厚い深津貴之さんに聞いた。

現場も「マズい」とわかっているUIを変えるには?

――ユーザーにとって使いにくいUIは、当然それを開発している現場の人たちにもおかしいとわかると思います。それでも量産されてしまうのはどうしてなのでしょうか?

そもそも悪いUIの指示が現場に降ってくるのは、企画にUIデザイナーが入っていないからです。つまり「これ決まったからやっておいて」と上から降ってきた時点でもう既に手遅れなんです。そうなってしまったら、どんなにおかしいと思っても基本的に現場から変えるのは無理だと思います。

まず企画チームの中にUIデザイナーがいるべきだし、いない場合にもマネージャーなりディレクターなり意志決定できる立場の人が、UIの善し悪しをジャッジできるだけの知見を持っていないといけません。UIの善し悪しの基本的な基準は、スマホアプリならAppleとGoogleが、それぞれiOSとAndroid用に正しいインターフェイスのガイドラインを公開しています。それらを読んでその通りにすればいいのですが、経営指標にデザインが入っていないので、まず会社の上層部がガイドラインを理解してないんですね。

そうなると経営陣から会社全体に「ユーザー目線での適切なUI」という指標が下りてこないので、今期の売り上げを上げるために、本来ならどうでもいい数字をごまかすための機能をアプリやサイトに実装することになり、UIがどんどんダメになっていくんです。

深津貴之さん
株式会社THE GUILD代表。ピースオブケイク CXO。大学で都市情報デザインを学んだ後、英国にて2年間プロダクトデザインを学ぶ。2005年に帰国し、デザインスタジオtha ltd.に入社。2009年に独立し、2013年にTHE GUILDを設立。現在は、iPhoneアプリを中心にUIデザインやインタラクティブデザイン制作に取り組む

ウェブメディアを例に取るなら、広告収入の水増しをするために、1ページで済む記事を4ページに分割するケースがそれに当たります。ああいうのは目先の売上を向上させるためのインターフェイスでしかない。あと、記事中に「PR」と表記せずにネイティブアドを仕込むのもひどいUIだと言えますし、男性ユーザーが読むようなサイトに女性用化粧品の広告を差し込んでくるのも意味がわからないですよね。

それから一番やっちゃいけないのは、記事をスクロールしていくと、スクロールに追随しながら誤タップさせるタイプの広告です。最近ついにGoogleがそのようなページのランクを落とすようにしましたが、要は検索エンジンからもそう扱われるような行為ということです。

そんなことをしていると、ユーザーはだんだん記事ページをクリックしなくなるので、広告のコンバージョンレートも上がらなくなります。結局のところ、目先の利益と引き替えに、読者たちが自社のメディアに来なくなる流れを自分たちの手で加速させているのです。読者からすれば「ニュースを読むなら、記事中に広告の出ないニュースアプリからでいいや」となりますから。

繰り返しになりますが、会社の方針がそうなり始めたら、基本的に現場から変えるのはほぼ無理なので、デザインを大事にする他の会社に逃げてしまうのが手っ取り早いと思います。技術を大事にしないところにエンジニアがいてどうする、マーケティングを大事にしないところにマーケターがいてどうする、という話です。大事にしてくれないところからは抜け出すのが一番手っ取り早い。組織を変えるのは経営者の仕事ですから。

「専業化」と「セクショニズム」こそが、いいUIとUXの一番の敵

――ユーザーにとっても開発者にとってもメリットのないUIの指示が下りてくるのを誰も止められない状況の、根本的な原因は何なのでしょうか?

経営指標を示すべき経営陣が目先の売上や、デイリーアクティブユーザー(DAU)といったごまかしで水増しのできる数字を見てしまって、本来見るべき数字を見ていなかったり、それが嘘かどうかをジャッジできていなかったりするのが一番の原因だと思います。

企業のトップがKPIとしてDAUばかりを重要視すると、DAUを上げなければいけないということが、決定事項として現場チームに下りてくるわけですよね。そうすると、現場チームはどんな手段を使ってでも、DAUを上げなければいけなくなります。そういう課題設計になっている以上、現場チームはUXを良くしようと考える余地がないというか、考えてもお給料が上がるわけでも社内評価が上がるわけでもないので、DAUをどうにか上げるというマインドで仕事をする他ない。そうすると何が起きるかというと、メディアなら記事を4ページに分割する、ECサービスなら毎日メールマガジンを何通も送りつけるといった提案が、ユーザーの気持ちを顧みることもなく、そのまま実行されるわけです。

今の話は指標がDAUだった場合のたとえですが、指標が売上や新規登録会員数の場合でも同じようなことが起きます。「今期の目標は新規登録会員数○○人」と上から言われると、何が何でもユーザーの会員数を増やせということになってしまう。

期末近くになって目標会員数に届く見込みが薄れてくると、金券を配って会員登録を促したり、そもそもそのアプリやサービスを使わないユーザーさえも入れ込んで、無理矢理見かけ上のダウンロード数を目標値に届かせて、今期の目標を達成しようとしたりしてしまう。

でも、経営者や株主からすれば、たとえばビジネスネットワーキングアプリに、「ゲームのガチャに使える石をあげます」と言われて連れてこられた子どもが500人、1000人と登録したところで、何にもうれしくないですよね。でも、それは会員数だけを見ていたら見えない事実なので、結局見せかけの数字に目が眩んだまま事態が進行してしまうんです。

本来、数字は状況を判断するための指標にすぎません。ところがその指標をゴールだと勘違いすると、数字を上げるためにはどんな手段でも使うという意志のもと、結果的にダメなUIやダメなパターン設計が無限に生産されていきます。これはユーザーにとっても企業にとっても、まったくいいことがない。ただ単純に、数値目標を達成した責任者のボーナスが守られるために何百万、何千万の広告費が使われる状況になるわけです。

今はなきスイスのナイフメーカー、ヴェンガー社製「ジャイアントナイフ」。141もの機能を搭載しており、「過剰な機能が最大のリスクとなる実例」と深津さん

――そのような構造上の問題は、間に人や組織が多く介在するほど起きやすくなりそうですね。

確かに、意思決定のレイヤーがぶ厚くなればなるほど、今みたいなことが起きやすくなりますよね。一番わかりやすい例として、広告代理店の担当者の立場から考えてみましょう。

たとえば、彼らが大口のナショナルクライアントを担当しているとします。そこで、彼らにとっては「たかがアプリやサービスの話」でクライアントとケンカすると、10億円のCM案件が吹っ飛んでしまいかねない。そういうバックグラウンドの人が営業で入っている場合、彼らにとって最優先しなければならないのは、年間キャンペーンの予算10億を吹っ飛ばさないことになります。

すると、予算規模の小さなアプリやサービスの問題について、制作会社の指摘する問題が妥当だとわかっていても「これはダメだから企画をやり直してこっちにしましょう」とはクライアントに言えませんよね。

さらに、そういう立場の人は、現場のエキスパートがクライアント先で勝手に問題を指摘することをリスク事項として考えるので、現場のエキスパートとクライアントを会わせないようにする。そうすると、「クライアントがこう言っているから変更はできない」というオーダーだけが、代理店から制作会社に下りてきます。

そういう状況になったらもう直すことできないし、本来説得すべき人にもアクセスができないので、どうしようもないですね。

会社内部で起きていることも一緒です。各セクションの目標の数字がある以上は、その目標に逆らってまでアプリやサービスを良くする理由がないということになります。

たとえば、メールのグロース担当者に目標として与えられる数字は、メールの開封率やメールの送信数、メールの総着数だったりします。仮にその人が「メールを送りすぎるとブランドのロイヤルティが下がる」と思って上に提案しても、自分の成績が下がるだけです。メールの送信数が落ちますから。そうなると状況を改善する理由もなくなるので直さなくなります。こう考えていくと、専業化とセクショニズムこそがいいUIとUXの一番の敵ということになりますね。

――間違いに気がついても構造上、修正がきかないということなんですね。経営陣も制作現場も真剣にユーザー目線で作ったつもりなのに、結果的にまるで見当違いなものができてしまう場合もありますか?

実際にユーザーが触っているところをテストしなかったり、彼らの思い込んでいる空想上のユーザーのために作ったりしている場合に、そのようなことが起きがちですね。あと「こういう機能が欲しい」という声がユーザーから来たとしても、それを言っている人の声が大きいだけで、実際に欲しがっているのはユーザー全体の0.02%くらいの層という場合もあります。

大切なのは、状況を正確に理解するために数字を見るということです。本来、PVや平均滞在時間といった数字は、どれくらいのユーザーが見てくれているのか、ちゃんとじっくり読んでくれているのかを測るための手段。そこをごまかすためのギミックを突っ込んで数字をかさ上げしたら、余計なノイズが入ってユーザーがちゃんと読んでいるかどうかもわからなくなってしまいます。

極端な話、『ワンピース』の無料連載をやって、ページの真ん中くらいに「15分ここで待っていただけると続きが読めます」と表示すれば、平均滞在時間なんていくらでもごまかせますから。そういう嘘をつかない素の数字をまずはちゃんと見て、その数字から読み取れる状況を、真っ当な方法で改善する方法を考えるべきだと思います。

それでも今の組織でがんばりたい人のために

――どのようなプロセスにせよ、マズいUIを生み出す元凶はゴール設定を誤っていることだというのがよくわかりました。UIはデザイナーだけではなく、その組織の経営全体で考えなければならない問題なんですね。

UXの話までくると絶対に経営レベルで考えないといけないし、少なくとも「UIを大事にする」というコンセンサスが組織の上層部で取れてないと、どうにもならないと思います。

僕はユーザーが実際に使いやすいかどうかをジャッジするデザインチームが、法務や財務、マーケティングといった部署と同じくらいの権限を持っているべきだと考えています。でも、そこまでデザインチームを重用している企業はほとんどないので、結果的に「このように決まっているから作ってください」という案件だけが、上から現場に下りてくるという事態になりがちです。

――そうなると打つ手がないので、先ほどおっしゃったように転職するしかないのでしょうか?

一番手っ取り早いのはその会社から逃げることですね。アプリのデザイナーだったら良質なアプリを作っている企業を逃げ先にすればいいし、マーケターならマーケティングを重視している企業を逃げ先にすればいいと思います。

――では、転職先を決める時の参考に、危なそうな案件や会社を事前に見分ける方法はありますか?

それは簡単に見分けられますよ。企画書や設計書に「ユーザー」や「お客さま」という単語よりも、「弊社」や「このサービス」という単語が多く書かれていたら、危険だと思って構いません。それから、お金儲けやビジネスロジックの話しか出てこない場合も警戒したほうがいいでしょうね。僕は新規案件のミーティングでは、ユーザーという単語の出てくる回数や、ユーザーに関するトピックを相手が何回喋ったかをカウントしています。

――なるほど。そうは言っても簡単に転職できない事情の方もいると思いますが、そういう場合はどうすればいいのでしょうか?

険しい道となりますが、会社に残って出世するという選択肢もあります。少なくともマネージャークラスになれば、自分の部下のセクショナリズムは食い止められるし、他部署のマネージャーとも話し合うことができるので、ある程度は環境を改善できると思います。

メディアを例に挙げると、記事の途中に邪魔な広告が発生するのを止めるには、まずは経営やビジネスマターの担当者と対等に話ができる地位になる必要があります。ただ、ビジネスマターの人と話ができる程度だと、相手にとってのKPIを下げる話になりかねず、まず嫌がられるしケンカになります。

結局、その人よりもさらに上のレイヤーにいって、経営判断として広告収入を落としてでもユーザーの継続率を上げる施策を提案できるようにならないと、解決できないんですよね。

結局、逃げるか、うんと偉くなるかという身も蓋もない話になってしまいますが、もう一つの方法としては「ひっそりと勝手にやる」というのがあります。たとえば、アプリ開発に興味のない会社で、アプリやサービスを勝手に立ち上げて勝手に運営していれば、自分が一番偉いからKPIも全部握って自由にできる。

大きな企業のお金とコネクションを使える状況で、本当に好きなことをひっそりとプロジェクト化して勝手にやるっていうのは、すごく打率が高い。なので、それも一案です。有名になったら上から怒られるとは思いますが、いまさら潰せないくらいの影響力を持てばいいと思います。

あと、裏ワザ的な方法で手っ取り早いのは、中間をすっ飛ばして社長と飲み友だちになったり、気軽に相談できる間柄になったりすることですよね。これは意外と不可能じゃない。社内の飲み会を使ってもいいし、「こんなに若手が集まって勉強したいと言っているので、社長もぜひいらしてください」と言えば、かなりの確率で来てくれるはずです。

UIの大切さを吹き込むためのパスを、組織のかなり上流のところに作るという方法は、実はかなり有効だと思います。ただ、企業によっては中間にいる人の頭越しに偉い人へアクセスすると、怒られる場合もあるかもしれませんが。あと、これは少なくともマネージャークラスじゃないとダメですけれど、外部からデザインに強い外部取締役やコンサルタントを呼んでくるという手もあります。

最悪、会社を辞めてもっとUIを大事にする会社を探せばいいと思えば、このような社内政治に挑戦して立場が悪くなっても、そんなに怖いことはないはず。積極的にそういう活動で社内の空気を変えようとするのはオススメです。要は、現場から変えようとするなら、仲間を一人ひとり増やし、偉い人も巻き込んで意見交換できる場を設計する。いいUIを自社の製品に実装できるインターフェイスを社内に作っていくことに尽きると思います。

 

編集:ノオト