乗換案内は“味つけ”がカギ!「駅すぱあと」を支える鉄道マニア社員チーム「乗換BIG4」

年末年始は電車で帰省する人も多いことだろう。帰省ラッシュに備えた列車の増発や、初詣に向けた特別ダイヤなど、年末年始の電車はイレギュラーな動きがつきもの。乗換案内サービス各社も、データの更新など対応に追われている。

その1つ、「駅すぱあと」を開発するヴァル研究所には、「乗換BIG4」と名づけられた鉄道マニアの社員たちがいる。鉄道関連のイベントへ出演すれば、コアな観客もうなるほどのディープな鉄道知識を披露。また、自社で「鉄道落語」のイベントを開くなど、一般ユーザーとの交流も盛んだ。

2018年に30周年を迎える「駅すぱあと」。その節目を前に、「乗換BIG4」はどのようにして生まれたのか。また、その“鉄分”は「駅すぱあと」にどのように生かされているのか。「乗換BIG4」から鈴木省吾さん、廣戸晶さん、三上雄平さん。そして、広報の福井澪菜(みおな)さんに話を聞いた。

左から「乗換BIG4」の鈴木さん、廣戸さん、三上さん。残る一人の夏目雄介さんは大阪支社勤務で、今回は欠席

「最近まで広報がいませんでした」

――突然ですが、みなさんJRの乗り潰し(※すべての路線を乗り尽くすこと)の進捗は、現在何%くらいですか?

鈴木 まだ97%ぐらいです。

三上 私は90%くらいですね。

廣戸 今年の4月に完乗【※】を達成して、いま2周目に突入しています。
※ 完全乗車の略語。国内JR6社全線での総距離は2万キロほどある

――さすがですね……。そもそも「乗換BIG4」を結成したきっかけは何だったんでしょうか?

鈴木 私たちは突然「乗換BIG4になってください」と言われたんですよ。

三上 特に、社内で公募や選挙とかもなく……。

福井 きっかけは2014年に立ち上げた「notte!(ノッテ)」という自社ブログです。お出かけを促進するような記事とあわせて、「駅すぱあと」の会社ならではのコアな鉄道記事も載せようということになりまして。社内で適任なのは誰だろうと話し合ったときに、すんなりこの4人の名前が挙がりました。

鈴木 社員が約160人の会社なので、この4人のマニアックさはだいたい広まってますからね……。

――東京カルチャーカルチャーの「鉄道乗り換えの達人ナイト」や自社で開かれる鉄道落語会など、リアルなイベントにも積極的に参加されています。これはやはり「駅すぱあと」のPRが目的でしょうか?

福井 そうですね。実は、ヴァル研究所の取引はBtoBが全体の8~9割を占めています。特に「駅すぱあと」は一般企業や官公庁など約12万社に採用されていて、交通費精算のほか、「Yahoo!乗換案内」などウェブサービスの経路検索エンジンにも用いられていますね。BtoBが中心ということもあり、これまで一般向けのPRはほとんど行っていませんでした。PRに力を入れるようになったのは、2015年に社長が変わってから。それまでは営業が広報を兼任していて、専任の広報担当はいなかったんです。私も以前はエンジニアでした。

――広報担当がいなかったんですか!? そこからなぜ一般ユーザー向けのPRを行うようになったのでしょう?

福井 「駅すぱあと」は歴史が長いだけあって、認知度の高い世代が中高年層に偏っているんです。個人ユーザー向けPRの強化には、いまの若い方が社会人になったときに「駅すぱあと」を選んでほしい、という狙いがあります。固い会社だと思われがちなので、「『乗換BIG4』のようなおもしろい人もいるよ」と。実際、来年入社予定の内定者が『乗換BIG4』のイベントに来ていたみたいで。

鈴木 その子と社内で会ったときに「カルチャーカルチャーに出てらっしゃいましたよね?」って言われてビックリしましたよ(笑)

福井 イベントは社員もよく見に来ていますね。お客さんの反応から「こういうところを見られているのか」と気づきを得ることもあります。乗換BIG4は自分たちの知識のレベル感を確かめられるし、他の社員はアイデアや議論のきっかけになる。外に出ることで、社内に良いフィードバックがあることを感じています。

2017年7月に、東京カルチャーカルチャーで行われた「鉄道旅行ナイト」の様子。「乗ったら次の停車駅で降りる」というルールで九州まで行く旅など、マニアックな鉄道旅の記録を登壇者がプレゼンした

仕事が趣味に役立ち、趣味が仕事に生かされる

――「乗換BIG4」のみなさんは、会社ではどのような業務に就かれているのでしょうか。

鈴木 私と廣戸は「駅すぱあと」のコアエンジンに携わっています。経路を求めたり運賃を計算したり、どんなアプリケーションでもベースとなる部分ですね。ここ5年くらいは運賃計算プログラムの刷新に取りかかっています。運賃の計算はとても複雑なので、長い間運用している間にプログラムも煩雑になってしまって……。

――運賃のデータや計算ルールは頻繁に変わるものなんですか?

鈴木 全国規模で見ると、3カ月に1回はどこかが変わります。毎年3月から4月はダイヤ改正もありますし、直近だと2018年春にICOCAの計算ルールですね。エリア拡大とともに、利用は営業キロ200キロ以内という制限が加わるんです。ルール改定のたびに運賃計算のロジックの修正や追加が必要になるので、より保守しやすい形に基盤を整えている最中です。

――みなさんの鉄道趣味が業務に生きる場面はあるのでしょうか?

廣戸 特殊な運賃計算が必要になるケースでは「あのルートのことか」と、テスト経路のイメージがすぐに湧きますね。ここまで乗ると加算運賃があって高いとか、乗り継ぎ割引があるとか、実感を持って知っているので。旅行でも、気になる運賃ルールの場所を回ってついでに調べたりします。実際買ってみて「ホントにこの値段だ」と。

鈴木 趣味であちこち行くのですが、やっぱりどうしても気になって運賃表を見ちゃいますね。「この会社にはこんな定期券があるのか。うちは対応していたかな」とか。旅先でインプットした情報は「こういう事例があるので、実装はこうしたほうがいい」といった判断材料に生きています。

三上 そもそも鈴木さんは切符を作りますもんね。

――切符を作る……?

鈴木 大回りしたり同じ駅を通ったり、乗換案内では出てこないような経路で乗るのが好きなんですよね。たとえば、新山口から大宮を通って仙台に行ってまた大宮に戻る、とか。だから窓口の方に「こういう経路で作ってください」と説明して切符を作ってもらいます。業務で得た知識が趣味にも役に立つのが楽しくて、いろんな切符を買いたくなるんですよね……。

三上 私も仕事上、時刻表を頻繁に開くんですが、「この乗換、1分しかないけど大丈夫かな」と気になると実際に行ってみたり。仕事の中で旅行先の候補を探してしまいます。

廣戸 旅行先から「乗換、1分で大丈夫でした」とか「データ間違ってます」とか報告することもありますよね。

鈴木 正式な業務として行っているわけではなく、会社としてはあくまで「社員が個人的にたまたま見つけてくれた」という扱いです(笑) 。全国規模になるとどうしても把握できない駅もあり、ありがたいことにユーザーからも指摘を多くいただきます。日々改善ですね。

鈴木さんが駅員に経路を説明して作った切符。下関から大宮まで向かうのに、仙台(宮城)や米沢(山形)を経由しているのがおわかりいただけるだろうか

乗換の“味つけ”が他社と差別化するカギ

――三上さんはどういった業務を?

三上 私はデータの保守をしている部署になります。全国200社近くある鉄道事業者のダイヤや運賃、乗換時間などの情報を収集し、データ化しています。

――そうした情報は、鉄道事業者から送られてくる?

三上 いえ、基本的には鉄道事業者の公式サイトで最初に知って、こちらから問い合わせます。事前に教えてもらえる事例は少ないですね。なので、急なダイヤ改正のときは、我々もみなさんと一緒にびっくりするんです(笑)

鈴木 さっきのICOCAのルール改定は4、5カ月前に知りましたけど、なかには1カ月前に知るケースもありますね。データの反映やロジックの変更が間に合うか、心臓に悪いです(苦笑)

――ダイヤ改正は同じ時期に集中しますから、データ管理も大変ですよね。

三上 そうですね。直近だと、年末年始ダイヤがあります。首都圏はじめ、各鉄道事業者が大みそかの終夜運転や初詣輸送などを実施しますが、「何日から平日ダイヤで、何日から土休日扱い」というルールが各社違うんです。三が日だけ急行がこの駅に停まる、といった特別ダイヤもすべて設定しなくてはいけません。毎年ルールが同じ会社はデータを流用できますが、そもそも「昨年と同じかどうか」も必ず確認しなくてはならないので、手間はかかります。

鈴木 最近では、コミケ時期のりんかい線特別ダイヤにも対応しています。早朝からかなり増発されるので、対応するとやはり喜ばれますね。

――最近の乗換案内では、電車が発着する番線や乗換をしやすいドアの位置も出ますよね。こうしたデータも事業者からもらえるんですか?

三上 データをいただける事業者もあるんですが、基本的には実地調査です。駅構内の乗換にかかる所要時間も、事業者のデータと徒歩調査での計測結果が元になっていますね。ただ、歩く速度には個人差がありますし、昼間と朝夕のラッシュ時でもタイムに差が出ますから、正解が一つに決まらないのが課題です。

――各乗換案内サービスで経路を比較すると、結果が少しずつ異なりますよね。これもこうした調査の差から……?

鈴木 元になるダイヤはもちろん同じですし、基本的な検索のロジックも大差はないはずです。恐らく「コスト」をどう見積もるか、という部分で差が出るのだと思います。たとえば「何がなんでも早さを優先する」という方針のサービスだと、バスを3本乗り継ぐルートが出ることがあるかもしれません。そこで「実際はバスに3本乗るより、5分遅くても電車1本で行くよね」みたいな判断をするかどうか。“最適”の定義が各社で異なります。

三上 他社との差別化は、乗換案内サービスにおける一番の課題です。ダイヤという基本材料は同じなので、そこを各社でどう料理するか。言わば“味つけ”の違いがサービスの個性として表れます。

実体験をもとに乗換案内を「パーソナライズ」する

――“味つけ”の1つかもしれませんが、ヴァル研究所さんはピジョン株式会社と共同開発した、ママ向けの「駅すぱあと for Pigeon.info」もリリースされていますね。

福井 ありがとうございます。お子さん連れやベビーカー利用を想定して、なるべく階段を使わずに、乗換回数も少なく、所要時間をゆったりと設定した経路を出すようにしたサービスです。3つの検索結果の中から選びやすいように、ハート型の「やさしさ度」アイコンを使って、一目で判断できるのが特徴です。

こうした機能は、ユーザーの声はもちろん、ママになった社員の実体験もベースにして盛り込みました。「ママになって初めて、階段しかない駅が多いことに気がついた」という声もありました。

――実体験から見えてきたニーズに基づいたサービスというのは、他にもあるんですか?

福井 「駅すぱあと」アプリの「酔っ払いモード」ですね。1タップで現在地からの終電時刻を検索できる機能です。これは弊社の女性エンジニアが発案者でして……。お酒が大好きなんですが、ベロベロに酔ったときにスマホで文字が打てないし、よく見えないし、検索が面倒でうっかり終電を逃してしまう。じゃあ、ワンタッチで終電がわかれば帰れるかもしれない、と。実際、開発中もテストと称して飲みに行ってました……。

――実地調査ですね!

福井 「これだとまだ文字が小さい」とか。

――失敗してるじゃないですか。

福井 ちゃんと帰れるようになってからリリースしました(笑)

鈴木 ママ向けも酔っ払い向けも、いわば「パーソナライズ」なんですよね。発着の番線やドア位置など、乗換案内のニーズはどんどん細かくなっていて、ユーザーの要求レベルも上がっています。基本の乗換案内にこうした付加価値をつけることも、先ほどの“味つけ”の話と同じ。差別化の1つの形と考えています。

「駅すぱあと for Pigeon.info」(画像左)と、駅すぱあとアプリの「酔っ払いモード」

――最後に、「乗換BIG4」のみなさんの展望について聞かせてください。

廣戸 「駅すぱあと」は、もっともっとおもしろく使える可能性があるアプリです。興味を持ってもらえるよう、楽しみ方を発信していければ。

三上 ユーザーの満足度向上は永遠の課題ですね。新機能やデータ組み込みなど、より満足いただけるように研究を続けていきます。

鈴木 変化し続ける運賃のルールに追従していけるよう、いかにコードを改善できるかが私の腕の見せ所です。身につけた知識を「乗換BIG4」としてアピールしつつ、本来の業務にも役立てるようにしたい。今後も「駅すぱあと」を支えていきたいと思っています。

――ちなみに、プライベートでの今後の展望は?

鈴木 そうですね……JR完乗まで残り3%なので、今後はちょっと東北に行ってきます。

廣戸 JRを完乗してからは、ちょっと“ロス”な時期もありましたが、日本中を回ったことでいろんな街に詳しくなりましたし、のんびりと2周目を楽しんでいきたいですね。

三上 私はローカル線と秘境駅が好きなので、JR北海道の「わがまちご当地入場券」というオリジナル入場券をすべて集めようかな、と。

鈴木 あれ、全部で101種類ありますよ!? 実際に現地まで行かないと手に入らないですし。

三上 やりがいがありますよねぇ。

 

編集:ノオト