このPRがサービスを育てた! IT企業3社に学ぶ広報ノウハウ

企業の顔ともいえる広報担当者。どのようなPR(Public Relations)戦略を展開していくのか、広報担当者の手腕によってその将来が変わるといっても過言ではないでしょう。しかし、他職種から見ると、広報は何をミッションとして具体的にどんな取り組みをしているか、なかなか知る機会がありません。

一般にPRといえば、サービス名や商品名、そして企業名を広く世の中に知ってもらう「社会的認知の促進」が挙げられます。そのために広報担当者は、テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4マスに加え、各種ネット媒体と良好な関係性を築くメディア・リレーションズに日々注力しています。

しかし、実際のPR活動はこれだけに留まりません。認知の拡大と同時に、自社は社会から何を求められているのかを知り、そのために企業文化をどう構築・改革していけばいいのか、社会とどう共生していけばいいのか。さらに、こういった活動によって業績の向上に寄与することが、広報担当者の仕事です。近年はインターネットにおける情報流通の発達にともない、PRの役割も実に多様化してきました。

そこで今回は、IT企業の広報にそれぞれの企業のビジョンと成功した広報手法を取材。広報という立場から、サービスを成長させるためのノウハウを聞きました。

dely 広報発足約1年で150件の露出に成功

dely株式会社
2014年設立。レシピ動画サービス「kurashiru(クラシル)」で、食卓を彩るおいしいフードレシピの数々を紹介。月間で数千万人が視聴する、日本最大級のレシピ動画サービス。
ご回答:経営企画部広報 田中聡子さん

経営課題に沿ったメディア露出

広報のビジョンは「経営インパクトがあることは、なんでもやる」。なので、目指している姿も「経営インパクトのある広報」です。

クラシルのサービス開始は2016年。当時社員数は6人で、会社もサービスも、まだビジョンが言語化されていませんでした。

現在、会社は急激に成長し、2017年現在130人が在籍しています。会社の成長フェーズによって発信すべきメッセージも変化してきました。そこで、広報は長期的なビジョンよりも、経営課題を常に把握し、それに合わせた露出をスピーディに実現する方針で活動を行っています。

すべての経営課題について把握するのが理想ではありますが、特に重点的にフォローを心がけているのは採用課題です。

メディア露出には媒体ごとの目的がありますが、経営側がどの部署の採用に力を入れており、どんな人材を求めているか。どんな人に「魅力的なサービスや会社だな」と思ってもらいたいか。これらを把握して適切に発信できれば、すべての露出が採用に生きると考えているからです。たとえば、ニュース番組で弊社の事業について取り上げていただく場合は、そのときに採用を強化している職種の社員がより多く露出できるように工夫した上で、会社の魅力が伝わるような内容を盛り込むことを心がけています。

また、サービス自体を広める広報活動に関しては、「レシピ動画の啓蒙」→「レシピ動画ならクラシルが一番」→「動画以外でも、レシピサービスの中でクラシルが一番」という生活者の態度変容シナリオをざっくりと描き、打ち出すようにしています。

広報発足後は積極的に売り込み、発足から約1年で150件の露出に成功

私は2017年2月に広報として入社し、同時に社内初の広報部を立ち上げました。広報部発足以前は、取材依頼があれば対応するという受け身の姿勢だったので、週刊誌やウェブニュースで代表の堀江が時折取り上げられる程度でした。現在は積極的にメディアへの売り込みを開始し、広報部発足11カ月で150件取り上げていただきました。

会社の事業成長スピードが早いので、広報としての目標を四半期ごとに決めても変更が出てしまいます。広報の方向性は守りつつ、その時々によって露出すべき媒体・方法は調整。そのため、KPIは特に置いていません。

取材を受ける・受けないという判断や露出を目指すメディアの選定などは、「案件ベースでの直近のメリット/デメリット」+「数年後の会社・サービスのありたい姿」で決めています。また、弊社では「Light(明るく)」「Ambitious(野心的に)」「Big(大きく)」という方針を大事にしているので、露出内容がその方針と合致しているかをその都度、検討しています。

飲み会よりも1枚の企画書

いろんな方と“とりあえず”つながっておくことも有効かもしれませんが、基本的には企画書ベースでお話したほうが、お互い気持ちのよい出会いになると思っています。

広報が発足して1カ月は、週2、3回ほどキー局の記者さんや営業さんなどと飲み会をしたものの、残念ながらそこから直接メディア露出につながることはありませんでした。大きなメディアに取り上げてもらう場合は、事前に自分たちと親和性の高いジャンルをリサーチし、どんな人とのつながりが必要かを考えながら、出会う努力をしなければならないと感じました。

ただ、メディアの構造や組織図を学ばせていただいたので、いろいろな方にお会いする機会をいただいた点は、今でも役に立っています。

SmartHR 情報はオープンなほうがかっこいい

株式会社SmartHR
2013年設立。企業の人事労務担当者が行う従業員の社会保険・労働保険などの労務手続きを、簡単・シンプルにするクラウド人事労務ソフトを提供。煩雑な「労務」の自動化を目指す。
ご回答:広報 渡邊順子さん

クラウド人事労務ソフトのマーケットリーダーを目指す

「SmartHR」は、これまでになかったまったく新しい機能を提供しています。

近い領域である税務や会計の分野では、従来のインストール型のパッケージソフトウェアからクラウド型ソフトウェアに進化した歴史があり、今や世の中に広く普及しています。しかし、労務分野では、労務手続きや労務管理がクラウド型ソフトウェアでできることさえ、まだまだ知られていません。

このことから、まずは「クラウド人事労務ソフト」を初めて使ってくださった方に、便利で使いやすいツールだと思ってもらえるような開発を行っています。広報としては、SmartHRがこの領域のマーケットリーダーとして、啓蒙していく必要があるという使命感を持っています。

また、代表の宮田は、株式会社SmartHR(旧・株式会社KUFU)を創業する前に難病を患い、社会保障制度のひとつである傷病手当金を受給。そのおかげでリハビリに専念でき、社会復帰できました。

この経験によって身をもって社会保険の難解さとありがたみを感じ、働くすべての人が安心して働ける社会をSmartHRで実現したいと考えるようになったのが、創業のきっかけです。人事労務担当者は、煩雑な労務手続きに追われることなく、従業員はよりよい環境で安心して働くことができる。この理念を広報としても大事にしながら活動しています。

ピッチイベント出場で、経営者や投資家とのつながりをつくる

スタートアップの初期は広告宣伝費がかけられません。そこで、SmartHRでは、サービスを広める1つの方法として、ピッチイベント【※】に4度出場しました。その結果、「TechCrunch Tokyo 2015」「Open Network Lab 第10期」「B Dash Camp 2016」「Infinity Ventures Summit 2016 Spring」で優勝。メディアにも取り上げられました。

【※】ベンチャー企業が資金調達を目的に自社の魅力や将来性について投資家に売り込むコンテスト

ピッチイベントには、経営者や投資家・VCなどが集まっています。彼らにサービスを知ってもらえるだけでなく、サービス自体を導入してもらえたり、資金調達の機会を得られたりする絶好の機会でした。

サービス名を浸透させるために社名を統一

SmartHRは、2017年4月まで「株式会社KUFU」という会社名でした。メディアに多数取り上げられるようになってから、媒体やニュースのトピックによって、表記されるのは社名であったりサービス名であったりとまちまちで、サービス認知度の希薄化を感じていました。そこで、思い切って社名をサービス名に統一。メディア露出の際だけでなく、メンバーが自社およびサービスを紹介するときも混乱を招くことなく、「SmartHR」のブランドが認知される効果が高まりました。

情報も実績もオープンにする

もちろん、サービスのユーザーも大事なステークホルダーです。SmartHRでは社内外問わず、「情報はオープンなほうがかっこいい」と考えています。

そこでユーザーに対しても、毎月のチャットサポートの実績や開発ロードマップを公開するなど、サービスを安心して使っていただけるような情報を提供しています。チャットサポートは、「すぐに回答が返ってきて驚いた」という感想をいただくことが多くあります。サービスの質の向上を目指し、2016年1月より実績を公開していくことにしました。

また、迅速に回答するだけでなく、お問い合わせをもとによりわかりやすいUIに変更したり、ヘルプページを充実させたりするなど、ユーザーの声をもとにさまざまな改善を行い、より使いやすいプロダクト作りにつなげています。

オウンドメディアによってエンドユーザーへの接点も増加。主要チャネルとしての機能も担う

オウンドメディア「SmartHR mag.」を2016年5月から運営。SmartHRのみならず、「人事労務業務のクラウドサービス」という分野を多くの方に知っていただくため、人事労務にまつわる情報を日々配信しています。

「SmartHR mag.」によって人事労務の課題解決に導くだけでなく、SmartHRのベネフィットへの理解や価値観への共感獲得につながり、サービス導入や検討に至ったケースもあります。また、「SmartHR mag.」に労務の電子化に関する資料のダウンロードページを設けたところ、ダウンロード数が150%伸びました。

SmartHRを使うのは、経営者や人事労務担当者だけではありません。「人々の働き方」という観点では、エンドユーザーとの接点を増やすのも大切です。すべてのビジネスパーソンがターゲットになり得るため、各種ビジネス系メディアとの提携も行っています。

これにより「SmartHR mag.」の記事が人気ニュースアプリの中にも掲載され、派生的にSNSでもシェアされるようになるなど、加速度的にトラフィックチャネルを拡大できました。

ChatWork 企業カルチャーとサービスをセットでPRする

ChatWork株式会社
2004年設立。ビジネスチャットツール「チャットワーク」は民間企業、教育機関、官公庁など16万社以上、世界223の国と地域に導入され(2017年12月末時点)、各組織の生産性向上やコミュニケーション活性化に貢献している。
ご回答:広報室 ディレクター 山田葉月さん

コミュニケーションを見直して「世界の働き方を変える」

ChatWorkのビジョンは「世界の働き方を変える」ことです。会議や電話、メール、訪問など、誰もが当たり前と思っていたコミュニケーションを見直せば、新しい効率的な働き方を実現できる。やがて毎日にゆとりが生まれ、暮らしを豊かにすることだってできる。

このようなビジョンのもと、ChatWorkはコミュニケーションの変革を通じて、新しい働き方を提案しています。

「ブランディング」から「リスクマネジメント」までが守備範囲

広報ミッションは、「サービスおよび企業の継続的な認知度向上」と「ユーザーの醸成」です。サービスとしての「チャットワーク」に会社の理念やビジョンといった要素を持たせ、ブランドを育成・確立し、市場戦略を展開できるような広報活動を行います。

具体的にはプレスリリースの定期配信やSNS運営、取材の獲得などの広報の基本的な業務から、ユーザーと直接かかわるイベントの開催まで、PRやブランディングに有効だと思った手法は何でもやります。

戦略は他部署のミッションと連携しながら、事業計画やプロダクトマイルストーンに沿って立てています。たとえば、セールスチームが重点的に営業活動を行っている業界に対しては、その業界の専門誌でメディア露出が狙えるような施策や企画を作ります。

また、情報発信ばかりが広報の仕事のように思われがちですが、リスクマネジメントも業務に含まれます。サービスでバグや障害が起きた時も、広報は開発やサポートチームと連携して対応しています。

独自の働き方をサービスと一緒にPRし、サービスと自社のファンを醸成

企業カルチャーのPRにつながるイベントにも積極的にも参加してきました。これらの活動はプレスリリース配信と自社のニュースリリースサイトブログで公開しています。会社としてイベントに参加することもあれば、広報担当者がセミナーを開催することもあります。

ChatWorkではマーケティング部と営業部が連携して毎月セミナーを開催しています。これは、ChatWorkの働き方(いわゆる企業カルチャー)とセットでサービスを紹介すると同時に、「ユニークな働き方や先進的な働き方を実践している会社が開発運営するビジネスチャット」であることを啓蒙するブランディング活動です。実際にその場でチャットワークアカウントを作っていただいたことも、後日お問い合わせをいただくケースもあります。

イベントへの出展を決める基準は、事業計画・目標・ブランディングに沿うかどうか、サービスや自社の取り組みをPRできるかどうかです。広報活動を評価する際は、登壇やイベント参加の頻度目標やメディア露出の広告換算ではなく、どれくらいユーザー間で話題になったか、どんな反応があったか。また、採用PRであれば、どのくらい応募につながったかを指標にしています。

まとめ

  • dely株式会社:広報部を設立し、能動的にメディアへのアプローチを行なっている
  • 株式会社SmartHR:企業の広告宣伝費に回す資金体力に合わせた広報活動を行なっている
  • ChatWork株式会社:サービスを単に宣伝するのではなく、会社の目指す世界観を広く伝える広報活動を行なっている

会社のフェーズや提供サービスによって、有効な広報施策はさまざまです。今回ご紹介した3社の事例は、これからのPRを考える上でさまざまなヒントが含まれているのではないでしょうか。単なる社会的認知の拡大に留まらず、企業の成長と同時に社会との共生を目指すPR活動は、これからの時代ますます重視されそうです。

 

編集:ノオト