新規事業を立ち上げるのは一流のプログラマーでなくてもいい!?「エンジニアも新規事業にチャレンジしナイト」イベントレポート

エンジニア、プログラマーとしてどのようなキャリアを歩んでいくかは、多くの人が悩むところだろう。転職、起業、フリーランス……。無数にある選択肢の1つに「新規事業の立ち上げ」がある。

とはいえ、実際にエンジニアとして新規事業に携わるときには、どんな悩みや壁があるのだろうか。そんなエンジニアと新規事業の関わりについて考えるイベントが昨年11月16日に開催された「エンジニアも新規事業にチャレンジしナイト #01」だ。

約40人の参加者のほとんどは、大手企業のSIerなどエンジニア経験をバックグラウンドとして持っているそう。ほかにも、ベンチャー企業の新規事業担当者や学生など、新規事業開発に関心を持つ人が広く参加した。

新規事業の雰囲気は『オーシャンズ11』!? 三社三様の新規事業の開発体制

登壇したのは業種も業界も異なる、IDOM(イドム)とメドレー、サイバーエージェントグループのCA tech kidsの3社。共通するのは、いずれも新規事業に取り組んでいる会社という点だ。まずは各社の手がける新規事業について紹介したい。

1人目の登壇者は、IDOMのNOREL(ノレル)事業部でリードエンジニアを務める渡部慎也さん。中古自動車買取・販売事業店「Gulliver(ガリバー)」を展開するガリバー・インターナショナルが、2016年7月に社名を変更したのがIDOMだ。

渡部さんが取り組むのは、月額制で好きな車に乗り換えられる「NOREL」というカーリースサービス。全国約550店舗あるGulliverの店舗で中古車の受け渡しをするスタイルで、既存事業の強みを新規事業に生かしている。

「自動車業界は、今IT企業の参入等もあってすごい勢いで変化しています。そんな中で新規事業は、この変化に対応するために始めました。とはいえ新規事業を始めた時点で『新規事業が既存事業を食ってしまうのではないか?』という懸念もあったと聞いています。ところが、実際には新規事業が既存事業にいい影響を与えており、新規事業のCMをきっかけにお客様が来店し、車を売買するケースもあります。相乗効果が出ていますね」

新規事業をきっかけにエンジニア採用を始めたため、営業担当者3000人に対して、エンジニアは約10人という極端な比率に。それでも、エンジニアも働きやすい環境を作るために日々奮闘している。

2人目は「医療ヘルスケア分野の課題を解決する」というビジョンを掲げる、メドレー取締役CTO・平山宗介さん。メドレーでは、オンライン医療事典「MEDLEY(メドレー)」や医療介護の人材採用システム「ジョブメドレー」、介護施設の口コミサイト「介護のほんね」、そしてスマホやPCで予約から診察、薬や処方せんの配送までができるオンライン診療アプリ「CLINICS(クリニクス)」の4つの事業を運営している。

全社員は約200人で、開発メンバーは30人弱。4つの事業部それぞれで、デザイナーとエンジニア、医師がチームを組んで開発に取り組む。新規事業の開始時には、既存事業でのノウハウやつながりが生きるそう。たとえば、一番新しい事業である「CLINICS」の立ち上げ時には、「ジョブメドレー」で築き上げてきた十万件を超える医療機関や介護施設とのつながりが開発時のマーケット理解や顧客基盤として役にたった」と話す。

「全体的に個性が豊かなメンバーが多く、たとえるならば『オーシャンズ11』のような感じですね。何でも売ってくる営業もいれば、厚労省ともやり取りをするようなガバメント・リレーションズ担当者もいます。医療は古い慣習が強い業界なので、エンジニアサイドも強い意志が必要です。たとえば、医師や営業が『これが業界じゃ当たり前』と言っているなかでも、エンジニアやデザイナーは本質的なプロダクトのあり方を提案するのがとても重要になる。肉食系エンジニアというか(笑)。プロダクトに意志を持って向きあえるかが、採用のポイントかもしれません」(平山さん)

一方、CA tech Kidsが開発するのは、小学生向けのプログラミングサービス。プログラミングを継続的に学ぶ「Tech Kids school」と短期間でプログラミング体験ができる「Tech Kids Camp」の2つの事業を運営している。

登壇するのは、マーケティング担当する恒松宏行さん。登壇者3人の中では、唯一エンジニアとして働いた経験はないという。

「CA tech Kidsではこれまで、のべ2万人以上の小学生にプログラミング教育の機会を提供してきました。社員数は現在14人で、運営の9割はアルバイトなどの大学生スタッフ。マーケティングは自分1人でやっています。約50社あるサイバーエージェントグループの中でも、教育事業を行なっているのは当社だけ。特殊な立ち位置のため、広報にも力を入れています」(恒松さん)

既存事業がある中で、新規事業がぶつかる壁とは?

今回のイベントは、事前に主催者が用意した質問とともに、匿名で投稿できるサービス「sli.do」を使って、会場の参加者から寄せられた質問も織り交ぜながら進んだ。今回は、取り上げられたいくつかの質問をピックアップして紹介する。

最初の質問は「新規事業の立ち上げで最初にぶつかった壁と解決方法」だ。

渡部 僕がIDOMに参画した2017年2月にはすでにNORELのローンチ後。なので、立ち上げ当初の課題というわけではないのですが、僕が最初にぶつかったのは、自動車の値付けでした。これまでに自動車事業に関わったことがなく、免許は持っているものの、ペーパードライバーでゴールド免許という状態。まずは、自動車の知識を得るための時間を取って、わからないことを1つずつ潰していくことから始まりましたね。

平山 医療事業の難しさは、法令・ガイドラインの遵守と慣習。たとえば「医療システムはインターネットから隔離さえすれば安心だ」と思っている医療関係者も多いんです。インターネット技術の現状をふまえた本質的なリスク管理が考慮されずに、現場で誤った思い込みが発生している場合もある。なので、啓蒙のための広報活動も重視して取り組んでいます。法律の面では、国際弁護士のバックグラウンドを持つメンバーがいたり、厚労省で働いていた医師が国などとのやり取りを担っていたりします。青臭いですが、そうやって一つひとつの壁を地道に突破していき、その結果として「CLINICS」の導入拠点が増えていきました。

恒松 これまでにサイバーエージェントグループの中で2社の立ち上げに参画してきましたが、最初は人数が少ないので、意見が対立して先に進まないというケースがよくあります。そういう時はシンプルにコミュニケーション量を増やしていました。仕事ではお互いピリピリしていますが、飲み会に誘うなど、普段の気軽なコミュニケーションを増やすことで、意外と解決できる場合もあります。人間関係を円滑にする工夫は必要ですね。

ビジネスサイドの情報も公開! 新規事業に必要なスキルとは?

やはり気になるスキルアップの手段。各社のエンジニアは、ビジネス視点を身につけるために、どのような工夫をしているのだろうか。

渡部 毎週1回の定例会で、NORELに関する数字をエンジニアにも赤裸々に伝えています。それによって、どの施策がどう刺さったのかを見てもらう。また、エンジニアにも「ユーザーの入会数」を指標として持たせることにしました。たとえば、ランディングページ改善やメール施策をすると、コンバージョンが変化する。それを見ることで、サービスの変化を肌で感じてもらうようにしています。

平山 1つは事業に関するすべての情報を透明化することです。営業が何をしていて、どういう戦略でどこを攻めているかをエンジニアにも伝えています。もう1つは、評価基準の設定です。評価の面談では技術だけでなく、その技術を使ってどうビジネスサイドに貢献したのかまで問い、必然的にビジネス視点が身につく環境を作っています。あとは、会社として新規事業が得意なエンジニアが活躍している姿を、お手本として見せていますね。「メドレーのエンジニアの当たり前」はどんな人材なのか、それをどうやって後輩たちに見せていくか、は意識しています。

恒松 上から降ってきた企画をただ開発するだけだと、「やらされている感」が出てしまいます。なので、教材を開発するエンジニアには1年分の教材のスケジュールなども含めた企画からしっかり入ってもらっています。

また会場からは、登壇者それぞれが感じる自身のキャリアの強みについて、具体的に問う質問もあった。

渡部 エンジニアとしてのスキルでいうと、強みはインフラからウェブからアプリからIoTのプロトタイプまで幅広くできることです。ただ、それぞれのスキルがそこまで深くはないので、必要なときは深い知識を持った他の人の力を借りています。

平山 僕はCTOという立場ではありますが、エンジニアとしてコードを書くスキルは、今でもその辺のエンジニアには負けないと思っています。あとは新規事業の立ち上げに関わったり、フリーランス時代に自分の責任で事業を進めたりしながら、交渉や営業の経験を積んだことで、世界が広がったと思います。ほかにも、エンジニアリングだけではなく、デザインも好きです。そうやって幅広いスキルのある人がハブになれば、いろいろな役割のメンバーを1つに束ねられる。この幅広さが強みと言えるかもしれません。

恒松 数値を使った分析が強みです。小さい時から数字が好きでしたし、新卒で配属された動画広告代理業の会社では、FacebookやTwitterの広告の管理画面を見ながら数値の分析や広告運用をやっていました。この経験はマーケティングの全体設計を考えるときにも活きていると感じています。パーソナルな面だと根性です(笑)。キックボクシングをやっていて、そこで培われたものですね。

新規事業を担当するエンジニアは、一流のプログラマーでなくてもいい?

最後に取り上げたのは「新規事業を担当するエンジニアは、プログラマーとして一流であるべきか?」という会場からの質問。新規事業には超一流のエンジニアリングが不可欠なのだろうか?

登壇者からは「難しい」という感想が漏れたが、三者に共通した答えは「一流のプログラマーでなくてもよい」だった。

渡部 そもそも、一流の定義が難しいですが……。新規事業を立ち上げるならば、エンジニアリング技術そのものよりも、「サービスを立ち上げる」という面での一流さが必要ですね。可読性の高いコードを書くだけではなく、サービスとして売れるものを作る視点というか。だから、プログラマーとは違うスキルが必要だと思っています。

平山 僕自身もエンジニアですが、プログラマーとして一流だとは思っていません。ただ、新規事業立ち上げに関わった経験は、今に役立っています。インターネットは(いわゆる製造業のモノづくりエンジニア以上に)マーケティングや営業などの周辺環境と開発が有機的に関わりながら、プロダクトを作っていくものだと思っているんです。メンバーには「視座を上げよう」とよく言っていますが、「なぜその機能が必要なのだろう」「マーケティング的に、経営的に、こういう戦略を取りたいからじゃないか」と考えることで、そのプロダクトにとって最適な設計を提案しながら、事業を進められると思うんです。逆にエンジニア以外の職種の人も、エンジニアリングに触れ合い、考え方を理解することで、新規事業を立ち上げるスキルをつけやすくなると思います。

恒松 サービスをゼロから立ち上げるときは、プログラマーとしてだけではなくて、企画などを含めた幅広い能力を求めています。なので事業にもよりますが、「必ず一流であるべきか」と聞かれたら、僕の答えもノーですね。

イベントの後半で平山さんは「SIerとして働いていた頃には、『何を作っているのかはわからないけど、作っている』という時期もあった。しかし、新規事業に関わったことで営業やマーケティング、経営の視点など視座が上がった。高い視座を持つことで、新規事業に限らず、様々なキャリアの選択が可能になると思います」と力強く話した。

新規事業への参画は不安が伴う。しかしそれはエンジニアとしての幅や視野を広げる絶好の機会でもある。今回のイベントのような機会に、現場の声を聞くことは、新規事業という選択肢に踏み出す一歩につながるのではないだろうか。

 

編集:ノオト