“CSに狂っている男”が伝えたい、カスタマーサポートが企業に欠かせない理由

企業がサービス・製品を提供する上で、対顧客(Customer)窓口として欠かすことができない職種、カスタマーサポート(以下、CS)。

多くの企業で必要とされているものの、現実には「キャリアアップができない」「働き方がブラックだ」と嘆く声も少なくない。さらに業務効率化の波もせまってきており、英オックスフォード大の研究によれば、CSは労働集約型の職種として今後10年でなくなってしまう職種の1つにもなっているという。CSとして働く人たちの将来は、どうなってしまうのだろうか。

こうした現状を打破しようとしているのが、プログラミング教育事業を手がけるコードキャンプのCSチームを率いる藤本大輔さん。社外でも「カスタマーサポート エバンジェリスト」として、CS担当者同士のノウハウを共有する勉強会「CS HACK」を主宰している。

藤本さんはコールセンターの発信オペレーターからキャリアをスタートし、コールセンター機能の受託会社に10年間勤務。その後、ゲーム会社での教育担当やウェブサービスのCSマネージャーを経て、現在はCSチームの立ち上げと組織化に携わっている。「コミュニケーションを極めたい」という思いからCS担当者として14年間、カスタマーサポートに向き合ってきた。

そんな藤本さんに、CS担当者が企業にもたらす価値やキャリアの作り方について話を伺う。

CSは「問い合わせ対応の人」ではない

――そもそも、CSってどんなお仕事なのでしょうか。クレーム対応のイメージを抱く人も多そうです。

誤解されやすいのですが、クレーム対応はCSの仕事のほんの一側面にすぎません。本質的には、ユーザーが抱える課題を自分たちのプロダクトやサービスを使ってどう解決すればいいか考え、さまざまな方法でユーザーとコミュニケーションを取りながら、提案していく仕事だと私は考えています。

私自身、今の会社ではプロダクトディレクターに近い動きをしています。問い合わせに対して返信文を書くだけでなく、新機能の提案やレッスンを行う講師との契約内容の見直しもします。CSチームのスタンスは「やれることは何でもやる」。社員は約20人、CSチームは私を含めて3人しかいないスタートアップなので職務領域はもともと広いのですが、前提としてCSだからお客様対応しかしないという考え方ではないんです。

――自身の領域にこだわらず、どんな仕事でもやる、と。

職務領域もですし、雇用形態にもこだわっていません。そもそもユーザーから見れば、担当者が正社員かアルバイトかは関係ありません。弊社ではアルバイトスタッフにも機能改善のディレクションやエンジニアとの調整をやってもらっています。

たとえば、社内システム改善のディレクションでは、受講生が提出したプログラミングの課題添削業務を社内のシステムと連携させ、工数削減に成功しました。そのプロジェクトでは仕様に詳しいCSスタッフがエンジニアとコミュニケーションを取りながらデバッグまで実施しています。ほかにも、大小さまざまな改善にCSが関係しています。

CSは自分次第で、際限なく領域を広げられる仕事なんです。

藤本大輔(ふじもと・だいすけ)コードキャンプ株式会社 カスタマーサポート チームリーダー
1982年生まれ、福岡出身。コールセンター運営会社の福岡支社にて大規模コールセンターに約10年勤務。東京へ転勤となった後、ゲーム会社、アプリ開発会社を経て、オンラインプログラミングスクールを運営するコードキャンプ株式会社へ入社。現在はCSのチームリーダーとしてサービス改善、顧客対応をおこなう。個人でCSのコンサルティングも請け負っており、2017年11月、AIチャットボットを開発するカラクリ株式会社のCS顧問に就任

見えづらいキャリア。でも、本当はそれじゃいけない

――CSの方は一般的にはどういうキャリアを目指されるのですか?

コールセンターだと、直接顧客対応をするオペレーターからスタートして、10人~15人程度のチームを管理するスーパーバイザー(SV)、そのSVをまとめる統括SV、センター長という風にキャリアップしていきます。複数のセンターを持つ大企業であれば、そこから各センターを統括するCS本部の本部長やCS統括の役員になっていくケースが多いように思います。

オペレーターのほとんどは非正規雇用で、100人のオペレーターに対して、正社員が1人か2人というレベルです。数百人単位のコールセンター組織は完全にピラミッド型ですね。

藤本さん「電話対応を行うオペレーターがセンター長と話すことはほとんどありません。業務委託されているセンターの場合、委託先の社員であるオペレーターに委託元のセンター長が直接指示を出せないという法律の面もあります。ただ、そうしたこと以前に、ごく少数の社員が多くのアルバイトを雇うコールセンターは階層がきっちりと整備され、オペレーターからするとセンター長という存在は”神”にも近いのです」

ポジションによって権限も明確に分けられていて、オペレーターは基本的にはマニュアル通りの対応を求められます。オペレーターがマニュアル以外のことを考える機会――たとえば、業務フローの改善やスタッフのマネジメント方法などを考える機会はほとんどないため、なかなか顧客応対以外のスキルが身につかず、上のポジションには上がれない、といった事態が起きます。ピラミッドを登れるのはたった一握りです。

離職率も高いのですが、辞めても別のコールセンターへ転職して、オペレーターを何年も続けているという人も大勢います。コールセンターは時給も悪くないし、商材やマニュアルは違っても、基本的には電話で受け答えるという定型業務なので、続けやすい職種というのが理由です。ただ、キャリアアップは難しいですね。

――「クレーム対応が大変だ」とか「働き方がブラックだ」という声も聞きます。

確かにそういった面があることも否定はできません。原因の1つに、今お話したような「キャリアの見えづらさ」があると私は思っています。スキルアップの機会がなく、長年働いていてキャリアアップしている実感もない。そんな中でユーザーからクレームを受けるので、ストレスだけが溜まって疲弊してしまうのかな、と。

私自身もコールセンターの運営を見てきたので、個人の裁量を管理せざるを得ないのは非常によくわかります。CSは臨機応変な対応が求められる反面、担当者によって対応が変わることは避けねばならなりません。

しかし、今のピラミッド型の体制を維持することを前提に考えていては、今後やっていけません。組織上層部の人間が勇気を持って、現場のオペレーターに権限や教育の機会を与えていくことが必要だと感じています。

CSはサービスを圧倒的に伸ばす「最強の仕事」

――CSとしてユーザーと接するときに、藤本さんが大切にされていることはありますか?

返信文などでは伝わりやすさを非常に大事にしています。CSはユーザーに「何かをお願い」することが多いんです。自分たちが求める行動をユーザーに起こしてもらうよう、CSが上手にお願いしなければならない。単に事実を伝えるだけであれば、FAQでいいんです。本来の目的である行動を起こしてもらうためのコミュニケーションスキルを磨いていく必要があると思っています。

人に行動を起こしてもらうカギは共感です。そのユーザーへどう共感を呼び起こせるか、つまりユーザーが何を求めているかを知る必要があるんです。

たとえばECサービスを使った方が、予定通りに商品が届かなくて怒っている。なぜ怒っているのか。もしかしたら「子どもへのクリスマスプレゼントを注文したのに、当日に届かず渡せなかった」という背景があり、思わず怒りをぶつけてしまったのかもしれません。

こうしたユーザーの背景や事情を見極めた上で、単なる謝罪ではなく、相手の事情に配慮した言葉をきちんと伝えていくことが、共感を呼び起こすきっかけになる。“このユーザーは、なぜ今このタイミングで、この表現を使って話をしてきているのか?”を捉えてコミュニケーションを取らないと、人を動かすことはできません。

――CSが必要な理由は、そういった部分にあるのでしょうか。

私はCSがすべての職種の中で「最強の仕事」だと思っています。なぜなら、ユーザーとプロダクト両方のことを知っているから。会社組織の中で、常にユーザーとプロダクトの両方に接している人たちって他にいないんですよ。

ウェブサービスは参入障壁が低いものが多く、素晴らしい機能も真似されてコモディティ化してしまいます。ただ、どんな企業でも、ユーザーの意見に耳を傾けながらコンセプトに沿ってプロダクトをつくる、PDCAサイクルを回すのは同じですよね。もしそこに良いCSがいれば、ユーザーの意見がきちんと整理されて、よりわかりやすい形でプロダクト側に届けられます。プロダクト側もより良いデータをもとに改善策を考えられるから、PDCAのサイクルは速くなる。その結果、サービスが伸ばせるんです。

――取り入れるユーザーの意見をCSが取捨選択することで、改善の精度やスピードが上がるということですね。

はい。ユーザーの声は玉石混交なので、より速いスピードで的確な手を打つには、ユーザーの行動と感情を深く理解しプロダクトに反映すべき声を正しく仕分ける必要があります。だからプロダクトの成長には、良いCSが絶対に必要なんです。ユーザーとプロダクトを理解していて、サービスをより良くできる。

また企業とユーザーとの関係性においてもCSは重要な役割をもっています。

この関係性はすぐには真似ができない部分です。どれだけお金を積んでも、ユーザーの信頼は買えません。ユーザーとの結びつきを強めて良い関係性を保つ、しっかりと企業のブランディングを行うことで、それ自体が他社への参入障壁になり得えます。

私はCSが、最強で最高の仕事だと思いますし、CSの給与もどんどん上げていかなければと思います。

これから求められるのは、ユーザーの行動と想いを捉えられるCS

――さまざまな業界・職種で業務効率化が叫ばれ、チャットボットでユーザーに自動対応している企業も増えています。これからCSはどうなっていくと思われますか?

今後は、問い合わせに答えさせることを目的にした人的リソースは減っていくと思います。そもそも、ユーザーは別に問い合わせをしたいわけではないんです。自己矛盾になりますが、サービス運営側として究極的には「CSがいらない状態」を目指さないといけません。

私はAIチャットボットを開発しているカラクリでCS顧問もしているので実感があるのですが、チャットボットによる返答が浸透すれば、きれいな返信文を書くとか単に事実を伝えるというレベルの力は必要なくなっていきます。

今後はもっと、ユーザーの行動や考えを捉えた上で、データに基づいてどういった機能が必要かを考えたり、サービスの提案をしたりというレベルにいかないといけない。そのためには、CSにもユーザーのことを考え続けて判断する力、UXやマーケティングのスキルなどが必要になってくると思います。

あとはやっぱり現場の人間だけではなく、経営層にもCSの価値を理解してほしいです。

――有名なプロダクトの創業者はCSもやっていたりしますよね。

Airbnbでは、創業者自身が電話を受けて問い合わせ対応をしていたのは有名な話ですよね。日本では、メルカリがCSを非常に重視して成長しています。現場に権限を移譲して、CS自身が考えて動くという組織を作っています。

結局、実際にユーザーの声を聞いて、ユーザーが何を求めているかをきちんと考えてプロダクトを作っていけば、成功しないはずがないと思うんです。

――先日、CSの方がコードを書いて、プルリクエストを送るという記事を読んで驚きました。

pixivのCSですね。あれがまさに次世代のCSの姿かなと思います。これまでの仕事にこだわらずに新しいスキルを身につけたり、利用率などユーザーのデータをきちんと出した上で提案したり、といったことを目指していかないといけない。そういったCSのスキル向上、コミュニケーションスキルの向上に貢献したいという思いのもと、2017年からCS向け勉強会「CS HACK」の活動を始めました。

「CS HACK」では、毎回異なるテーマを設定しており、写真の回は「お金とUX」がテーマ。”お金”にまつわるサービスを運営する上でのCSやUXで気をつけるポイントについて学んだ

何でもできるCSという仕事の価値を広めていきたい

――「CS HACK」を開催しようと思われたきっかけはありましたか?

前の会社でもCSに関するイベントをやったのですが、会社を通すとどうしてもKPIの設定がされたり登壇者の選定に制限があったりと自由度が下がります。私はCSという観点ではみんな仲間だと思っているので、自由にテーマを決め、自分が「出てほしい!」と思う方に登壇をお願いできる世界を実現したかったんです。そこで、個人として2017年の2月から「CS HACK」を開催することにしました。

結果、私のCSへの愛があまりにもあふれすぎてしまって“CSに狂っている男”と呼ばれるようになりました(笑)

イベントのコンテンツはCS担当者向けの事例紹介やノウハウが多いものの、対象はコミュニケーションを扱う職種の方々全般です。CS職以外に、コミュニティマネージャーやUXデザイナーとか、マーケティングの方も参加してくれています。

――これまで一番好評だったのはどんなプログラムですか?

すべて好評ですが、印象に残っているのは「新規事業/立ち上げ期のCSをHACKする!」という企画です。CSの立ち上げ期にどれだけ闇を抱えたか、大変だったかをお互いに発表して、ナンバーワンを決めるというものでした。こういう闇の部分が、実は一番勉強になったりするんですよね(笑)。

今後は「CS HACK」の規模をもっと大きくして、CS職の価値をより高めたいと思っています。今はまだ「クレーム処理の仕事でしょ」っていう一面だけが認識されている状態で、とても悲しいです。

CSは本当に何でもできる仕事です。ユーザーにとっても、企業にとって価値のあるものを、どういう形で実現するか。そのフレームを考えることにおいては、ものすごく良いポジションです。今までCSに興味がなかった方にもCS職の仕事や存在意義を考える機会を提供して、新卒でCSを目指したいと思う人を1人でも増やしたいと考えています。

編集:ノオト