5000万回打っても壊れない! エンジニアに愛される高級キーボード「REALFORCE」誕生秘話

左から、東プレ株式会社電子機器部の小林充さん、斎藤隆志さん、豊澤雄一さん、飯島康裕さん、榎本賢貴さん

キーボードにこだわるITエンジニアの間で、「高級品」としてまず、名前が挙がる「REALFORCE(リアルフォース)」。大手メーカーの製品が1,000円未満で買えるなか、2017年に発表された「REALFORCE R2」シリーズは2万円以上だ。それでも、品薄になるほどの人気だという。

文字を打つ機能は同じなのに、どんな差があるというのか。16年ぶりとなる新モデルの企画や開発にあたった東プレの電子機器部のみなさんに話を伺い、支持される理由を探った。

自社の技術を生かす「はず」だった新規事業

――ガジェット好きな人からは「REALFORCEの東プレ」として知られています。一方、もともと東プレは自動車のプレス部品や冷凍車のメーカーであり、東証1部の業種も「金属製品」です。なぜキーボードを手がけることになったのでしょうか。

小林 キーボードの開発に着手したのは、35年以上前のことです。弊社は自動車部品や金型のプレス技術が強み。これを生かしてキーボードのスイッチの金型を作ってはどうか、という話が社内で出ました。

そのとき念頭に置いていたのは、当時から現在に至るまで広く採用されている「メカニカルスイッチ」でした。キーを押すと、金属の電極が物理的に触れ合い、電気が流れることで、コンピューターへ入力信号が送られる仕組みです。これなら、弊社の技術力を生かせます。しかし、当時の担当者がアメリカに調査に行ったところ、「メカニカルスイッチは古い」と言われて帰ってきたんです(苦笑)

東プレのキーボードの歴史を話してくれた技術部次長の小林さん

小林 その担当者が聞いたところによると「これからは静電容量だ」と。静電容量とは「静電容量無接点方式」のこと。構造上、金型技術の出る幕はありません。

静電容量無接点方式のスイッチは、メカニカルのように電極の物理的な接触ではなく、「設計した深さまで押し込む」ことで入力信号を認識する仕組みです。基板とスプリングを中心に構成され、スイッチに物理的な接点がないため、耐久性に優れています。ただ、製造には高度な技術が必要で、手間もかかります。

東プレが1981年に開発した試作第1号機

小林 それでも、乗りかかった船。「キーボードを作ってみよう」ということになり、試作を経て業務用に生産を開始しました。

当時のお客さまは主に銀行です。銀行窓口の端末で使われるキーボードは、業務に合わせた特殊なキーが必要で、基本的にすべてカスタムメイドでした。そういったなかで弊社の製品を使っていただいたところ、評価が高まり、1985年ごろに新しくキーボード用の工場を建て、本格的な生産を始めました。

ユーザーからの声を集める営業部課長の斎藤さん

――パソコンが家庭にも行き渡るようになり、Windows XPが登場した2001年、ついにコンシューマー製品「REALFORCE」が発売されました。発売当時の手応えは?

斎藤 実は、ここまでヒットするとは想像していませんでしたね。製品の質には自信がありましたが、コンシューマー向けのマーケティングに慣れていないという課題もありました。会社自体が業務用製品で成り立っていて、経験や販路がないわけです。それにもかかわらず、結果的には生産が追いつかない状況になりました。

――なぜ、そこまで売れたのでしょう。

斎藤 恐らく「銀行でも導入されている業務用クオリティのキーボードが買える!」というクチコミが広まったのが大きいと思います。ありがたいことに、そういう視点で興味を持ってくださる方が多かったんですね。実際、REALFORCEと業務用では、キー配列が異なるだけで、構造はまったく同じです。

物珍しさも手伝ったのでしょうが、次第に操作性と耐久性を高く評価していただけるようになりました。電器量販店やセレクトショップにも気に入ってもらえて、特設コーナーができたり、品質のよさを熱心に説明してくれる店員さんが増えたりしたことも、一因かな、と。

「フィーリングが命」だから高くなる

――実は私も愛用者で、操作性の良さを実感しています。底に当たるまで強く押し込まなくても、適度な力で高速に入力できる。

榎本 多くの方に支持していただいているのが、仰るような“フィーリング”です。

REALFORCEのスイッチは、「コニックリング」という円すいスプリングをラバーシートの中心へ正確に配置する必要があり、この工程はどうしても機械に置き換えられません。他にない使用感を実現するために、ほとんどの工程が手作業で、とにかくこだわり抜いて製造しています。

REALFORCEが大切にしている“フィーリング”について語る、技術部課長の榎本さん

――だから高価なんですね。

榎本 はい。特に検査は手間がかかり、社内認定を受けた検査員が、1台ずつ使用感を確かめます。ぐらつきはないか、スムーズさに違和感がないか。全台はもちろん、「全キー検査」も行います。すべてのキーを押して、REALFORCEが誇る品質に仕上がっていることをチェックしているのです。

「REALFORCE RGB」と、2017年に発売した「REALFORCE R2」シリーズの一部モデルには、APC(actuation point changer)を搭載しています。これはキーの入力スイッチがオンになる深さを1.5mm、2.2mm、3mmの3段階で調節できる機能で、浅くすれば高速で入力しやすくなります。

ただでさえ労力のかかる製造工程に加えて、さらに検査も3段階分が必要になるので、生産には従来よりもますます時間がかかります。

――全キー検査を3段階ですか……。

飯島 ちなみに、APCをせっかく浅く設定しても、慣れていないと指の動きを止めるのは困難です。必要以上に深く押し込んでしまったら、速く打てませんよね。

そこで、APC搭載機種にはキートッププラー(引き抜き器具)と、スポンジ製のスペーサーを同梱しています。キートップラーでキーを引き抜いて、APCの設定に応じたスペーサーを敷いていただく。すると、それ以上は物理的にキーが押し込まれないようになるので。

スペーサーを手に説明する飯島さん。仕事柄、キートップを引き抜くことが多く、胸ポケットには専用器具を常備しているという

――APCを活用できるように補助的なパーツや器具をセットにするとは、ユーザー思いですね。

榎本 ノートパソコンの浅いストローク慣れている方にとっても、スペーサーをつけて押し込みを浅くすることで、使いやすくなるかもしれません。

かつてはノートパソコンにREALFORCEを搭載できないかという引き合いもあったのですが、構造的に不可能で実現しませんでした。ノートパソコンはできるだけ薄く作るべきものなので、キーボードのために厚くなってしまっては台無しですからね。

飯島 スペーサーを敷くには、全キーを引き抜かないといけないので、手間ですけどね。以前のモデルではキーボードの裏にあるツメを押すと簡単に開けられるようにしていたのですが、APC搭載モデルは構造が複雑。センサーの微妙なバランスが崩れる恐れがあるので、絶対に開けないでください。ちなみに、キー1個分のサイズのスペーサーも別途販売しているので、全キーを個別に調節することもできるんですよ。

新機種開発で市場開拓へ

――今、見せていただいているのはゲームユーザーを想定した「REALFORCE RGB」ですが、この製品には、他にも従来とは違う工夫があるそうですね。

飯島 はい。APCに加えて、1680万色の中から各キーのバックライトを選べる機能があります。

「REALFORCE RGB」のバックライトの色は、キーを押し込む深さでも変えられる

――REALFORCEは、どんなに使ってもキーに書かれている文字が消えにくいのも特徴だった気が。さらに文字も光るんですか?

飯島 インクを素材に浸み込ませる「昇華印刷」を施しているため、REALFORCEシリーズのキートップが剥がれることはありません。この特徴を維持したまま光を通す必要があるので、このキートップは2種類の部材を組み合わせた特殊な成形方法で実現しています。

それから、ゲームユーザーには自分好みにカスタマイズしたい方が多い。キータッチの深さだけでなく、バックライトの色も自由に変えられますが、キートップ自体を好みの色のパーツに変えて楽しみたい場合もあるでしょう。

そこで「REALFORCE RGB」は、スイッチ上部の形状を他社製キートップとの互換性が高い「+」の形にしてあります。

キートップを外した状態。他のモデルでは「+」部分が空洞だが、ゲームユーザーのニーズに応える仕様にしたという

――さすが、細かいところまで抜かりないですね。ところで、ゲームユーザー向けのキーボードって、なぜ光る必要があるんですか?

斎藤 「これからは光らないとダメだよ」という声が寄せられまして(笑)。我々もゲームユーザーのニーズを積極的に把握していきたいと考えていたので、実装しました。

というのも、耐久性に自信があるREALFORCEを使ってもらえそうな新規ユーザーを探すうちに、eスポーツの広がりに注目するようになったのです。ゲームユーザーの方なら、弊社のように高価な製品でも、品質を重視して手に取ってくれるのではないか、と。

そこで「REALFORCE RGB」は当初から、eスポーツが盛んな海外から展開する販売戦略を取り、まずは台湾の展示会で反応を確かめました。2016年末に発売したのは英語版で、日本語版の発売は2017年の夏になりました。

――海外での反応はいかがでしたか?

斎藤 ゲームが盛んで、価格も問題にならない地域でないと売れませんので、主な市場は北米と韓国です。ただ、北米のユーザーの傾向としては、最低限満足できる性能であればよく、安い製品を求めるように感じています。

一方で、アジアでの伸びには期待しています。収入が増えてネットワーク環境も整ってきた国が多いんですよ。たとえば今、ベトナムではゲームが流行していて、REALFORCEをどうしても手に入れたいというお客さまもいます。ただ、ベトナムだと、一般の方にとっては月収並みの高価格なので、簡単に手に取ってもらえる状況ではないようです。

豊澤さんは「REALFORCE RGB」を美しく光らせるファームウェアの開発にも携わった

REALFORCEも「ユーザー」も壊れない

――REALFORCEを使うことの利点はなんでしょうか?

榎本 やはり、“フィーリング”の良さですね。打鍵のストレスが軽減されるので、プログラマーや記者など、常に文字を入力する方からは特に喜んでいただけます。

豊澤 うまく入力できないと、「なんだ、このキーは!」と気が散ってしまいますよね。物理的な理由だけでなく、精神的な面も含めて作業効率を上げることができます。

榎本 最近は、機械で量産しやすく安価な「メンブレン式【※】」のキーボードが多いのですが、これだとキーを底まで打たないと信号が流れません。押し込んだ指の力が跳ね返ってきて、筋肉にストレスがかかってしまいます。
※メカニカル式と同様に、電極の物理的な接触で入力を感知するスイッチ。「メンブレン(membrane)」とは「膜」のことで、薄いシート状であるためノートパソコンなどに組み入れやすい利点がある。

REALFORCEのユーザーは、“フィーリング”を気に入ってくれる方が多いので、今後も使用感を大事にしていきたいです。

――REALFORCEは耐久性がウリですが、どれぐらい使うと壊れるのでしょうか?

小林 従来品で3000万回、R2シリーズで5000万回のキー入力試験をクリアした仕様ですが、これまで、文字を打っていて壊れたという話を聞いたことがないんです。

問い合わせがあった故障原因は、ほとんどが「コーヒーをこぼした」というもの。基板が水で濡れて壊れることはあっても、通常使用で壊れた例を知りません。

斎藤 そうですね、地震で花瓶が落下して持ち込まれた例がありますが、キートップが割れただけで中のスイッチは無事。キートップの交換だけで済みました。

小林 公共スペースに置かれる機器に東プレのキーボードを搭載したいという話もいただいています。やはり大勢で使うとキーが壊れやすく、壊れる前に印字が薄くなる。それをエンジニアが出向いて交換するとコストがかかるし、利用者にも迷惑がかかりますよね。それなら、少し高価でも東プレのキーボードを採用したいということで。

――確かに、メンテナンスコストを考えれば、長く使えるほうが安くなるという考え方もありますね。

豊澤 ゲームショーに参加してユーザーの方と話すと、5年とか8年使っているという意見を聞きます。うれしい反面、なかなか新製品を買ってもらえないので複雑です(笑)。だから、従来品のユーザーさんたちに新機種の魅力を感じてもらうだけでなく、これまでREALFORCEに触れたことのない方にも知ってもらえたらと願っています。今後は海外にももっと目を向けていきたいな、と。

――最後に、いちユーザーとしてお願いが。数字をあまり扱わない仕事なので、テンキーが邪魔なんです。R2シリーズのテンキーレスモデルが出たら、すぐにでも欲しいのですが。

豊澤 テンキーレスや無線対応、Mac向けなどのご要望はありますので、今後の開発に生かしたいと考えています。ユーザーの方のご支援で成り立っているキーボードなので、何かお気づきの点があれば、どんどんお寄せください。反映されるアイデアもあるかもしれません。

 

編集:ノオト