「ダサくても伝わればいいんです」商品名やCMの“小林製薬っぽさ”の秘密に迫る

「ブルーレットおくだけ」「熱さまシート」「トイレその後に」……といったインパクトのあるネーミング。どこかで1度は耳や目にしたことがあるだろう。これらはすべて、小林製薬の製品だ。その名称やテレビCMは、なぜか一見して「小林製薬だ!」と気づく独特のトーンに仕上がっており、ネットで話題になることもしばしば。他社のものとは一線を画しているように思えて仕方がない。

2017年に創立100期を迎えた老舗企業でありながら、なぜこのように思い切ったプロモーションができるのか? “小林製薬らしさ”を生み出す発想の源泉を探るべく、同社の広報総務部広報・IRグループ(取材当時)の坂田沙織さんにお話を伺った。

狙うはニッチな市場のトップシェア

――小林製薬の製品は、なんというか独創的だなと感じるものが多いです。新製品を作る上で大切にしていることって何でしょうか?

何をしてくれる製品なのか、ひと目でわかること。ネーミングやパッケージなどの製品開発、テレビCMなどの販促活動、これらすべての根底にあるのが“わかりやすさ”です。

なぜ、わかりやすさにそこまでこだわるかというと、基本的に弊社の製品は世の中にないものを開発して新しい市場を作るものが多いんですね。「アイボン」や「熱さまシート」などは、それまでになかった洗眼薬の市場や額冷却の市場を作り、そのナンバー1となることで、後から2番手、3番手が来ても、発売以来トップシェアを維持できるのです。「小さな市場から入って草分けとなり、しっかりシェアを取っていこう」という考え方が、経営の根幹にあります。

――すでに育っている市場に新規参入するのではなく、市場の掘り起こしからスタートされるんですか?

はい。弊社はアイデア勝負の会社なんです。「『あったらいいな』をカタチにする」と謳っている通り、本当にみんなでこれまでにないニーズを考えているんです。つまり、既存のものに何かをプラスするとかラインエクステンション【※】とかではなく、まったく新しいものを探して広げてきたのが小林製薬の歴史です。
※ すでに確立された既存ブランドと同じ市場に形態や機能が異なる商品を投入すること

――ちなみに、今までいくつくらいの製品を出されているのですか?

廃盤になったものを含めると、数えきれません。昔は新製品を発売しても、発売してしばらくするとなかなか手がかけられずに売れなくなっていましたが、現在は発売した新製品をしっかりと市場で育成し定着するようにしています。

ドラッグストアやスーパーは半年ごとに陳列棚の商品を入れ替えるので、売れていないものはどんどん棚落ちしてしまいます。そして、一回落ちてしまうと復活させるのはすごく大変なんです。特に日用品や芳香剤は入れ替わりが速いですね。なので、現在残っている優秀な製品は厳しい環境をくぐり抜けてきたと言えます。

モチベーションは経営トップ層との食事会!?

――社内で製品アイデアを公募していると聞きました。この開発スタイルはいつから採用されたものなんですか?

全社員が参加するアイデア提案は、1982年から始まった制度で、小林製薬で30年続いている文化です。こういった開発の素地を作り、「小さな池の大きな魚」を狙っていくという方針を推し進めたのは、現会長の小林一雅です。私のような管理・本社系のスタッフも全員、必ず毎月アイデアを出します。ちなみに、2016年は年間約4万件の提案がありました。

――年間で4万件ですか!? すごい数ですね!

これだけの件数だと、企画が同時並行で進んでいることも多いんです。開発部が考えていたけど、営業部のAさんが同じ提案を出していた、みたいな。そういうときのために、名乗りを挙げて一緒に開発チームに参加できる「私もアイデア提案者」という制度があります。

――件数の多さに驚いたのですが、「毎月1案は全員出しなさい」といったノルマは決まっているんですか?

月1件は出すように推奨されていますが、ノルマという雰囲気ではありません。人によってはもっと提案していますよ。全体がこれだけの件数なのでめったにはありませんが、開発部ではない社員の提案した製品が発売されるケースもあります。

――いったい何がアイデア出しのモチベーションになっているのでしょう。

アイデアが評価されると、どんどんポイントがつくことでしょうか。

――ポイントですか?

はい。評価に応じてポイントが貯まると、経営トップ層と一緒に食事ができるんですよ。「そんなこと?」と思われるかもしれないんですが、会長や社長といった経営陣と喋る機会って、弊社のような規模の会社ではなかなかありませんし、良い機会だと喜ばれるんです。「今こんなことで困っています」という現状を報告したり「会社のこれってどういうことなんですか?」と疑問をぶつけたり。私が以前、名古屋で営業担当者だったときは、これが大きなモチベーションになっていました。

――ネーミングに関しても、社内の意見を募ったりすることはありますか?

それはあまりないですね。基本的にネーミングは開発部にあるブランドチームの企画担当者が考えます。基本はまず担当者1人で案を出し、それをチームで揉んで、毎月実施される開発会議にかけますが、まず1回で通ることはありません。何度も会議でプレゼンテーションして、社長をはじめ会議に参加しているメンバー全員で「これはダメ」「この方向性は良いかも」「これだったらわかりやすいんじゃないか」と、製品名をブラッシュアップします。

小林製薬では、製品を生み出すところからテレビCMまで、最終的に必ず社長が決裁を下しています。だからこそ、一環してわかりやすい「コンセプト」「ネーミング」「パッケージ」「テレビCM」になるのです。

「1滴消臭元」は、途中で名称が変わった珍しいパターン。当初は消臭スプレー「トイレその後に」シリーズとして発売したが、より香りのイメージが強い「消臭元」ブランドに変更。華やかな香りやパッケージで、若い女性の購入者が増えたという

“小林製薬っぽさ”はストーリー展開にアリ

――最初に「何をしてくれる製品なのかがわかることが大切」とおっしゃっていましたが、そのような“わかりやすさ”を追求する上でのテクニックはありますか?

テレビCMの構成がわかりやすいと思います。たとえば「あせワキパット」だったら、吊革につかまった女性がワキに汗をかいていて「わぁ、恥ずかしい!」というプロブレムから始まるんですよね。そして、「そんなときには小林製薬の『あせワキパット』。なぜならばこのパットがしっかり汗を吸ってくれるから」という解決を提示。最後に「あせワキパット」というネーミングが出る……というのが、テレビCMの基本的なストーリーになっています。この流れが、お客さんの中に一番スッと入ってくるんですよね。

小林製薬の製品は、世の人がまだ思いついていないニッチなものが多い。なので「こんなことあるでしょ?」と共感していただき、「その悩みを解決できるものが、小林製薬のこの製品なんだ!」という一連のストーリーで伝える。この流れには非常にこだわっています。

「あせワキパット」の製品パッケージ。テレビCMでは、ワキの下の汗ジミをしっかり見せ、特性をわかりやすく伝える

――CMのストーリー展開をパターン化しているんですね。

そうですね。それが“小林製薬っぽいCM”と言いますか。

――CMもネーミングも、パッと見て「小林製薬の製品だ」とわかる個性を出したいといった狙いがあるんですか?

“小林らしさ”を狙っているわけではなく、お客さんのことを一番に考えていたら、そうなったというのが多いですね。製品のパッケージでもネーミングや使い方がひと目でわかることにすごくこだわっています。

ネーミングと同様に、パッケージの決裁にもかなり時間をかけているんです。たとえば、使用シーンであったり何をしてくれるかの説明であったり、大切な要素がどんどん強調していくと、結果的に誰が見てもわかりやすいデザインになってくるんですよね。

少しズレるんですけど「あえてダサくてもコンセプトが伝わればそれでいい」っていう考えがありまして。

――ダサくてもいい?

ブレスケアのCMの、お腹をベロンッと出すシーンってわかりますか? 男性や女性が服をめくると、内側がスケルトンになっていて胃が見える。気持ちいいか気持ち悪いかと聞かれたら……。

――確かに、ギョッとする映像ではありますよね。

だけど、やっぱり「お腹の中から息リフレッシュ」というコンセプトの「ブレスケア」なので、口の中だけじゃなくて、胃から効くんだよっていうこと伝えたい。だから、おしゃれさなどは別にして、伝えたいことを伝えたら結果的にああいうテレビCMになりました。「糸ようじ」もスルッと取れるのを強く表現するために、あえて歯垢を見せるんですよ。

――今の一言だけでCMがフラッシュバックしました。

わかりますよね。6本の糸で、ポンポンポンポンッと、歯垢がどんどん出ていく。

実は、「糸ようじ」は昨年で発売30周年でした。30年前にはこういった製品がまだ存在しなかったんですが、当時から今と同じようなCMを放送していたんです。そうしたら、「ご飯どきにこんな汚いもの流すなんて!」と、すごい数のクレームが来まして……。でも、そうすることで何をしてくれる製品なのかがちゃんと伝わる。あえて汚いところや格好悪いところをプロブレムとして提示し、それを解決してくれる製品なんだよっていう見せ方が、小林製薬のこだわりなんですよね。

――なるほど。以前にTwitter上では「ハナノア」の車内広告が話題になっていました。モデルさんの鼻から水がドバーって出ている……。

「笑ってはいけない車内広告」として広まり、たくさんの問い合わせをいただきましたね。でも、弊社としては「ハナノア」のことをどう伝えるかを真剣に考えた結果が、あの広告デザイン。ウケ狙いではなく、限られたスペースの中で真剣に製品のことを伝えようとした結果、あの形になっているんです。

――モデルさんも相当勇気がいるCMだったのでは。

そうですね、とても美人の方なんです(笑)。ただ、「ハナノア」の車内広告のように、それも狙いのうちと言いますか、伝わっているからこそ、そういう反応があるのかな、と。だからこそ、「糸ようじ」のCMのコンセプトもずっと変えていません。製品が何をしてくれるのか、きちんとわかりやすく伝えることがやっぱり一番大事なので。

アイデア出しのカギは「N=1の発想」

――「あったらいいな」を見つけ出すのは大変だと思うんですが、社員さんがアイデアを出しやすくするための工夫は何かされていますか?

2つあって、1つは褒める社内風土です。罰するのではなく、褒める企業文化がすごくあります。賞賛に値する社員の行動に対して社長から直接「ホメホメメール」というメールが来るんですよ。社長は「どこがよかったのか」を具体的に書き、社員に直接メールを送って、その仕事ぶりをたたえるのです。社員はそれでモチベーション高められます。

先ほどの提案制度の経営トップと一緒に食事ができることもそうですが、やっぱり褒めてもらうって大人になってもうれしいことで、見てくれる人がいるって仕事のモチベーションにつながりやすい。この文化がモチベーションの維持につながっていると思います。

そしてもう1つは、社内がフラットな関係性であること。どんな提案にも「何だよ、こんなの出して」みたいな反応はまったくしません。それは、会長が特に心がけてきたところです。

小林製薬には「さん付け呼称」という制度がありまして、社長や部長、課長も私たちのこともみんな「さん」付けで呼び合います。そういったフラットさを作ることで、下からも発言しやすくなりますし、「こんなことを言ったら恥ずかしいかな」とか「こんな提案だしたらバカと思われるかな」という懸念があまり生まれないんですよね。

――もし、褒めにくいアイデアが出てきたときにどういう反応をするんですか?

「もう世の中にあるな」っていうアイデアでも、それをどうすれば生かせるのかを考えます。弊社の創立記念日である8月22日に全社員アイデア大会というものをやっていまして、「私はこういう製品を出したいと思っている」「これはすごい市場性があると思う」と、みんなでアイデアを提案しあう。それに対してけなさず、提案がどう生きるかを真剣に考える会議なんですよね。

会長が作った「さん付け呼称」や「ホメホメメール」といった制度に表れているように、仕事の前では平等という精神だったり、褒める風土だったりがあるからこそ、アイデアが出やすいのかな、と。

弊社は「N=1の発想」をすごく大事にしています。Nって人数のことで、私が「おもしろい」と思ったことについて、それがなぜかと考えてみると、私のプロブレムを解決してくれるものだから、なんですよね。根拠を持って「こんな悩みがあって、それを解決してくれるこんなものがあればいいと思うんだ」って強い想いがアイデアを生むのです。

――自分の共感できない考えが出ても、1つの個性として認めるというか。

アイデア提案制度では「買うのは私1人かもしれない。でも、私はすごく困っている」ということをすごく訴えます。そこで市場性を調べて、やっぱり同じような人たちがある程度いるようだ、となります。そうすると市場性があり、ちょっと開発してみようかっていうことになっていきます。

――最後に、小林製薬が“わかりやすさ”として大事にしていることを教えてください。

製品のコンセプトとネーミングとパッケージ、そしてテレビCMといった販促のすべてが一貫してわかりやすいこと。どれが1つ欠けても伝わりません。世の中にない新製品を出す会社である以上、一貫してわかりやすさを追求しないといけないので、そこにはこだわっていますね。どれも本当に真剣に考えて生まれたもの。「どうやったら伝わるか」を一番大事にしています。