国立大がクラウドファンディング立ち上げ――“共感”は研究費や大学予算を支えるか?

クラウドファンディングで資金調達をしたり、クラウドソーシングで仕事の受発注をしたり……。今やクラウドサービスは珍しくなくなった。恩恵にあずかった人も多いことだろう。

クラウドファンディングなら「Readyfor」や「CAMPFIRE」「Makuake」、クラウドソーシングなら「ランサーズ」や「クラウドワークス」あたりが有名だが、こうしたサービスは民間企業が提供するもの、と思い込んでいないだろうか?

そんな常識を打ち破るのが、クラウドファンディングサービス「Otsucle(おつくる)」とクラウドソーシングサービス「Otsucleクラウドソーシング」。これらのクラウドサービスはなんと、徳島大学が立ち上げ、運営に関与している。大学、それも国立大学がクラウドサービスの運営を主導するケースは極めて珍しい。

群雄割拠の民間企業のサービスとはどこが違い、何が強みなのか? 徳島大学の学長補佐で、両サービスを運営する一般社団法人大学支援機構の理事長も務める佐野正孝さん(取材当時)に話を伺った。

大学の仕事は研究だけではない

――国立大学がクラウドサービスを始めたことに少々驚いたのですが、そもそもなぜ、2016年11月から「Otsucle」を始めることにしたのでしょうか?

 

クラウドファンディングへの取り組みを検討し始めたのは2015年冬。現学長で当時、研究担当理事だった野地澄晴副学長が、研究費を調達する手段としてクラウドファンディングの存在を知ったのがきっかけです。

野地が学術系クラウドファンディングサイト「academist」を運営するアカデミスト代表の柴藤亮介さんと出会ったことから、2016年4月には「adcademist」を通じ、クラウドファンディングに初挑戦。これまでにフタホシコオロギの食用化プロジェクトなど計4件のプロジェクトを実施し、そのすべてで目標金額を達成しました。

――クラウドファンディングを利用して研究資金を調達しなければならないほど、懐事情は厳しいのですか?

本学は、2004年4月1日に国立大学法人となりましたが、収入の多くは国からの運営費交付金が占めます。その支給額は年々減少し、2006年度の155億円から、16年度の126億円と、30億円も下がっています。以前は、人件費以外の経費を削れば何とか予算が組めたのですが、それもだんだんと難しくなり、いよいよ人件費を下げないと予算が組めねばならないところまで来ています。

とはいえ、当初は「academist」の利用者になるつもりで、自分たちでクラウドファンディングサービスを始める予定はありませんでした。

――方針転換されたのですね。どのようなきっかけで?

国立大学の業務は研究だけではありません。国立大学法人法第22条第1項では、国立大学の業務として8つの事柄を規定しています。簡単に言えば、研究だけでなく、教育や社会貢献も国立大学に課せられた役割ということです。

このすべてにおいて資金は必要ですが、「academist」は学術研究に特化したサービス。大学業務に関するその他の取り組みや、学生の先進的取り組み支援も網羅して資金調達をするには無理がありました。

「academist」の他に活用できるクラウドファンディングを探しましたが、大学の業務に理解がある最適なサービスは見つかりませんでした。しかし、他の地方国立大学も本校と同様に、資金調達で困っているはず。そこで、資金を必要としている大学が利用しやすいクラウドファンディングとして「Otsucle」を立ち上げることにしました。

まずは自分たちから始め、成功事例が増えて軌道に乗ってきたら、他大学にも声をかけて参加を募り、全国の大学を支援するという文化をつくっていければと考えています。

――「Otsucle」の運営は一般社団法人大学支援機構が担っていますが、なぜこのような運営体制になったのでしょうか?

将来、他の大学にもサービスを利用してもらうには、公共性が高く、中立的な団体が運営に当たることが望ましいからです。2016年10月に大学支援機構を設立し、現在は私を含めて5人の職員全員が、大学職員と兼務しています。

――他大学の参加状況はいかがでしょうか?

現在は徳島大学のほか、鳴門教育大学にもご参加いただいております。そのほかにも興味を示してくれる学校は多く、これまでに何十もの大学で「Otsucle」についてご説明してきました。わざわざ徳島まで話を聞きに来られた大学も10校ほどあります。

「研究費が少ない」と言うなら……

――他のクラウドファンディングにない「Otsucle」の強みは、大学のことをよく理解した運営ができる点ということでしょうか?

そうです。経験を積んだこともあり、今ではクラウドファンディングに挑戦する他大学へ、プロジェクトの進め方をアドバイスできるくらいの知見が溜まっています。

――「Otsucle」に対する学内の先生たちの反応はいかがですか?

スタートから1年半近く経過しましたが、「失敗してもいいからやってみよう」という意気込みのある人は意外と少ないですね……。積極的にチャレンジしてくれる方はもちろんいますが、一方で「研究費が少ない」と言っているにもかかわらず、一歩踏み出してチャレンジをしない人も目立ちます。

私たちもただ待っているだけではなく、積極的に声をかけて回っています。スタート当初は2カ所あるキャンパス(常三島地区、蔵本地区)で説明会を実施し、これまでに各学部で最低1件以上のプロジェクトに取り組んでもらいました。先生たちはすでに「Otsucle」の存在は知っていますが、現状はまだ様子をうかがったり、逡巡したりしている状態のように見えます。

クラウドファンディングの第一歩は「SNSでの情報発信」

――好奇心を持って積極的にチャレンジする方が多いかと思っていたので、意外でした。なぜクラウドファンディングに踏み出せないのでしょうか?

考えられる理由としてまず挙げられるのが、情報発信が不得意だったり、人に向かって話すのが苦手だったりする先生が多いことです。プロジェクトの宣伝のために、先生たちにラジオ番組に出演してもらったことがあるのですが、中には全然話してくれない方もいたほどです。

それから先生の中には、「一般の人の思いを背負って仕事をするのは難しい」という方もいます。クラウドファンディングで資金を調達するということは、寄付してくれた一般の人たちの思いを受け止めること。そこにプレッシャーを感じてしまうようです。

また、工学部のある先生の場合ですが、「自分の研究は、一般の方々の理解や共感を得にくいのでは?」と考える人もいました。医学部や薬学部の先生であれば命に関わる研究ということで、たとえ内容がよく理解できなくても、興味や関心、一定の共感が得られるかもしれない。しかし、自分たちの研究はきっと共感してもらえない……と考えているようです。

やはり、一般の人から共感が得られないと、目標達成は難しい。サイトでプロジェクト紹介をして、支援のお願いを呼びかけるだけでは足りません。

そこで、プロジェクトに挑戦する先生には、日頃からSNSを使うようにお願いしています。本人がやるのが難しいのであれば、研究室の学生や助手に手伝ってもらってでも、FacebookやTwitterで情報発信をしてもらいます。

クラウドファンディングをスタートする前に、努力してFacebookで友達をつくり、Twitterで同じような研究をしている人や機関をフォロー。まず友人や同業者などから研究内容に共感してもらい、そこから研究内容やプロジェクトに関する情報の拡散につなげていかないと、一般の人たちに情報は届きません。

高確率でプロジェクトが目標達成するワケ

――これまでに16件のプロジェクトが終了していますが(2018年2月27日時時点)、そのうち目標達成したのが15件。かなりの高確率でプロジェクトが目標を達成していますが、何かプロジェクトを成功させる秘訣があるのですか?

強いて言えば、サイトに掲載する説明文の第一案は、クラウドファンディングの挑戦者と相談をしながら大学支援機構が作っているからなのかもしれません。他のクラウドファンディングサイトでは、挑戦者から預かったものをそのまま掲載しているようなところも見受けられますが、そういうものほど失敗している印象があります。

「Otsucle」ではまず、クラウドファンディングに挑戦する意向を持っている方の話を私たちがヒアリングし、プロジェクトのストーリーを決定。提供していただいた画像や映像などの素材と組み合わせて、サイトに掲載するプロジェクトの説明文を完成させます。そして、その内容に合意できたら、サイトに掲載という運びです。

ほとんどの場合、大学の先生は「クラウドファンディングとは何か」がわかっていません。プロジェクトの説明文はそこそこの長さになるので、初めてクラウドファンディングに挑戦する先生にそれを作ってもらうのは、なかなか難しいのです。そのため、大学支援機構で叩き台を作ってから内容を詰めていきます。

――相談を重ねる中で、何か意識していることはありますか?

挑戦される先生たちに、支援者がいるかどうかを確認するようにしています。どのような人がプロジェクトに関心を持ち支援してくれそうかを、あらかじめ想定してもらいます。まずはその人たちに向けてSNSで情報発信したり、直接声をかけたりしますが、なかには支援者層が見当たらないというケースも……。そのようなプロジェクトは苦しい展開になることがありますね。

――「Otsucle」での過去のプロジェクトを見ると、学生サークルが挑戦したケースもありますが、学生が支援者層を見つけるのは難しいのでは?

そんなことはありません。大学支援機構でアドバイスすることもありますが、最終的に自らの足で支援者を獲得してくることが多いです。

たとえば、学内の狩猟サークルが「ジビエ商品をつくるプロジェクト」は、猟友会や県・市町村の鳥獣害対策担当などが支援者になり得ると考えられたので、学生には猟師さんたちを訪ねてもらいました。チラシを作って猟師さんのところに支援のお願いに行ったら、その場で支援金をいただくこともあったほどです。クラウドファンディングですからネット上で調達できた資金がメインですが、猟師さんたちはあまりネットを利用しない方が多いので、こういうことも起こりました。

大学が手がけるクラウドソーシングの意義は「社会貢献」

――スタートから1年半近くたちましたが、これまで「Otsucle」を運営してみていかがですか?

研究資金を集めるだけでなく、研究成果を広く知らしめるアウトリーチの効果があることがわかりました。特に国立大学の場合は、税金を使って研究活動をしているので、自分たちがどんな研究をしているかわかりやすく発信することは、当たり前に必要なこと。プロジェクトを通じて世の中のために役立つ研究をしているとアピールするためにも、先生たちにはもっと積極的にチャレンジしてもらいたいです。

――2017年8月には、新たに「Otsucleクラウドソーシング」も始まりました。こちらはどのような特色があるのでしょうか?

クラウドソーシングでよくある英文翻訳やコピーライティングといった仕事の受発注は、大学とあまり関係ありません。そこで、企業のように資金を持っているところが解決したい課題に報酬を設定し、それに対する優れたアイデアやサービスなどを先生などから求める「解決課題」と、デザインなどを公募する「募集課題」の2パターンに的を絞りにました。

――大学がクラウドソーシングを手がけるのは、先生の活躍の場を広げるためでしょうか?

むしろ、大学の社会貢献の意味が強いです。最初は企業から解決したい課題を「Otsucle」に集め、その課題に対して先生たちが解決策を示す。採用された先生に賞金が入り、それを研究活動に活用してもらうという仕組みを考えていました。しかし今のところは、大学の先生が答えるような課題が出てきていないので、まだ出番がない状況です。

――確かにこれまでの課題を見ると、募集課題ばかりで、解決課題がありませんね。

募集課題の中には、解決課題との境に位置するようなものもあります。たとえば、現在「豆腐のデザインコンテスト」という募集課題を審査中です。これは、容器の中で凝固させて作る「充填(じゅうてん)豆腐」の新たな容器のデザインを募集するもの。「今までにない斬新な豆腐のケースを作りたい」という企業の解決課題と言えないこともありません。

ただ本来は、企業から解決課題を示してもらい、大学の先生が答える形を目指しています。なかなか思った通りにはいかず、今はまだ試行錯誤しているところですね。

今後は成果物のネット販売も検討

――まだ試行錯誤している部分もあるということですが、今後「Otsucle」のクラウドファンディングとクラウドソーシングの2つをどう発展させたいとお考えですか?

資金調達で生産段階に移行したプロジェクトの製品や、大学が保有する知的財産によって実現した製品のネット販売を検討しています。今のところ販売できそうなものがまだ1つ2つしかないのですが、できるだけ早く実現したいので、何か商品化につながるものがないか、タネを探しているところです。

さらに長期的には、着実に実績を積み重ね、他大学に参加してもらい、そこから「大学を支援する文化」を確かなものにしていければと考えています。

 

編集:ノオト